私は、今年の3月まで、子どもの貧困対策に取り組む公益財団法人「あすのば」で、事業運営に子どもの声を届ける役割を担う、学生理事を務めておりました高橋遼平と申します。(※本記事は、高橋遼平さんが大学在籍中に執筆したものです。)子どもの貧困対策に取り組むきっかけは、中学1年生の時に、父が、会社の負債を、自分の生命保険金で支払おうと自殺したものの、自殺の免責期間中で保険金がおりず、母が自己破産して、困窮状態を経験したことでした。

さて、前回の記事(中学校から高校への進学を阻む2つの「壁」)に引き続き、経済的に困難を抱える家庭で育ち、進学の意欲を持つ子ども達の行く手に立ちはだかる「進学の壁」について述べたいと思います。今回は、前編・後編の2回に分けて高校から大学への「進学の壁」についてお伝えします。 
 

1.入学手続時の納入金の壁

大学などへの進学を実現するうえで、4年間の学費や生活費をどのようにやりくりするか、ということは大きな問題です。今回の記事では、あえて「入学手続時の納入金の壁」として、焦点をしぼりました。その理由は、日本学生支援機構の奨学金など、入学予定者が利用できる多くの制度の支給開始が、入学手続時の納入金の支払い期限後に設定されているからです。

しかし、貧困線前後の手取り所得(貧困線は、1人世帯では122万円:厚生労働省「平成25年国民生活基礎調査の概況」。以下、厚労省「平成25年調査」とする)の家庭の多くは、必要不可欠な生活用品などへの支出を先送りして生活しているため、実質的に生活費は常に不足しており、貯蓄を行うことが難しい状況です。

例えば、厚労省「平成25年調査」によると、児童のいる世帯で、貯蓄がない世帯は15.3%、貯蓄が50万円未満の世帯は4.8%、貯蓄が50~100万円の世帯は4.9%でした。同じ調査結果で、子どもの貧困率は16.3%でしたが、児童のいる世帯で貯蓄がない世帯の割合と近い数値であることがわかります。

しかし、比較的に学費の安い国立大学であっても、国が定める標準額で、入学金が約28万円、年間の授業料が約54万円(文部科学省「平成22年度国立大学の授業料、入学料及び検定料の調査結果について」)となっており、多くの場合、国立大学の入学手続時の納入金として、入学金と年間の授業料の半期分の合計で、約55万円が必要になります。

また、私立大学では、入学金が平均で約26万円、年間の授業料・施設整備費が平均で約105万円(文部科学省「私立大学等の平成26年度入学者に係る学生納付金等調査結果について」)となっており、平均で私立大学の入学金手続時の納入金として、入学金と授業料・施設整備費の半期分の合計で、約79万円がかかります。

なお、文科省は、「保護者の失職等の経済的理由により納付困難」である入学予定者に対し、入学手続時の納入金の徴収を猶予するよう、公私立大学の学長などに依頼しています(文部科学省「入学料等初年度納付金の納付時期の弾力的取扱いについて」)。私立大学に通う学生の割合は、大学生全体の73.4%を占めており、また、専門学校においては、全体の93.7%が私立の学校です(文部科学省「平成27年度学校基本調査結果の概要」)。

平成17年の文科省の調査結果によると、「3月23日以前または延納・返還の制度なし」の私立大学は前年度に比べ3ポイント低下して13.1%に、また、短期大学は前年度に比べ7.7ポイント低下して18.2%となり、改善が進みました(文部科学省「私立大学等の平成17年度入学者に係る学生納付金等調査結果について」)。しかしながら、学生納付金の返還・延納期限を4月1日以降に設定している私立大学は8.3%、短期大学は17.8%にとどまっており(同調査結果)、ほとんどの私立大学などでは、4~6月に振込が始まる日本学生支援機構の奨学金は、間に合いません。

また、国立大学では、国立大学法人への移行前において、「経済的理由による納付困難かつ学業優秀」または「学資負担者が死亡または風水害等の災害を受けた場合」には、最長で入学年度の末まで入学料などの徴収を猶予していましたが(文部科学省「入学料等初年度納付金の納付時期の弾力的取扱いについて」)、国立大学法人への移行後においては、徴収猶予の判断は、各国立大学法人に委ねられています。

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