私は、今年の3月まで、子どもの貧困対策に取り組む公益財団法人「あすのば」で、事業運営に子どもの声を届ける役割を担う、学生理事を務めておりました高橋遼平と申します。(※本記事は、高橋遼平さんが大学在籍中に執筆したものです。)子どもの貧困対策に取り組むきっかけは、中学1年生の時に、父が、会社の負債を、自分の生命保険金で支払おうと自殺したものの、自殺の免責期間中で保険金がおりず、母が自己破産して、困窮状態を経験したことでした。

さて、前回の記事に引き続き、経済的に困難を抱える家庭で育ち、進学の意欲を持つ子ども達の行く手に立ちはだかる「進学の壁」について述べたいと思います。今回は、前編・後編の2回に分けて高校から大学への「進学の壁」についてお伝えします。

3.距離の壁

大学などへの受験費用としては、受験料だけでなく、試験を受けるために受験校へ移動するときの交通費や宿泊費などがかかります。

「東京私大教連」が、主に首都圏の大学に入学した新入生の保護者を対象に行ったアンケート調査によると(東京私大教連「2014年度・私立大学新入生の家計負担調査」)、受験費用(受験料・交通費・宿泊費)の平均は、自宅外通学の新入生で25万2千円、自宅通学の新入生で22万9千円でした。

もちろん、各々の家庭の工夫で、上記調査結果の金額よりも受験費用を抑えることは可能だと思います。しかしながら、入学手続時の納入金に加え、さらに必要な資金が増えてしまうことに、変わりはありません。

合格の難易度を示す偏差値が高い順番に、大学名が並べられているところを見ると、どの大学に進むかは、一人ひとりの学力だけに委ねられているように思えます。しかし、実際には、大学の所在地は全国に散らばっており、遠方の大学を受験する余裕のない子どもには、ほとんどの大学は受験することさえも困難なところです。

次に、「距離の壁」を考えるうえで、私が最も重要だと考えている住居費についてです。

私の地元は、北海道・帯広市ですが、実家から通える高等教育機関は、ほとんどありませんでした。東京への進学を実現できたのは、奨学金を借りていた「あしなが育英会」が運営する学生寮で、朝夕食がついて月1万円の寮費で生活できたからです。

日本学生支援機構が行った調査結果によると、「下宿・アパート・その他」で暮らす昼間部大学生の住居・光熱費の平均は、月に約3万9千円でした(日本学生支援機構「平成24年度学生生活調査結果」)。

学費に加え、自宅外通学生に重くのしかかる住居費などの負担の影響は、都道府県別の進学率の格差にも現れています。文科省の学校基本調査によると、大学進学率は、最も高い東京都は63.9%、最も低い鹿児島県は30.1%でした(文部科学省「学校基本調査」平成27年度(確定値)結果の概要)。

 
入学前の資金需要に対応する制度
 
2014年に閣議決定された「子どもの貧困対策に関する大綱」は、次のような言葉で、子どもの貧困対策の意義を表明しました。

 「子供の将来がその生まれ育った環境によって左右されることのないよう、また、貧困が世代を超えて連鎖することのないよう、必要な環境整備と教育の機会均等を図る子供の貧困対策は極めて重要である」 

政府が対策を進めていくことはもちろん、私たち一人ひとりが、自分の持ち場で、できることを積み重ねていかなければなりません。また、自分たちの社会的立場や業務の都合を優先することで、子どもたちの足を引っ張ることは、避けなければなりません。

しかしながら、頼みの綱の奨学金が入金される前に、入学手続時の納入金などの多額のお金が必要であるために、資金を準備するために勉強時間を削ってアルバイトをする高校生がいます。進学をあきらめてしまう高校生もいるかもしれません。

このような入学前の資金需要にこたえるサービスもあります。日本政策金融公庫による「国の教育ローン」と、労働金庫による「日本学生支援機構奨学生に対する入学金融資制度」です。

日本政策金融公庫が行っている「国の教育ローン」は、基準となる世帯年収の上限を超えない家庭を対象に、インターネットなどから申込みを行い、申込み完了から20日程度で入金される教育ローンです。貸出額は子ども一人あたり350万円までで、固定金利2.05%で、返済期間は最長15年となっています。保障人を見つけることができない人は、保証機関を利用することで借り入れが可能です。生活保護世帯の高校生では、入学金などの費用の範囲内で自立更生のための経費として、収入認定されない場合が考えられますので、できるだけ早めに担当のケースワーカーに相談してみてください。

また、日本学生支援機構は、第一種奨学金(無利息)または第二種奨学金(利息付)を利用する子どもの中で、前述の「国の教育ローン」を申込んだが、利用できなかった世帯の子どもを対象に、最大50万円の入学時特別増額を行っています。ただ、この入学時特別増額は、第一種奨学金・第二種奨学金と同じく、入学前には入金されません。

この入学時特別増額を予約することで、入学前に融資を受けることのできる制度があります。労働金庫は、この入学時特別増額を予約した子どもを対象に、①日本学生支援機構の奨学金振込口座を労働金庫に指定できること、②ご父母(または親権者)の住所または勤め先が労働金庫の取扱地域内にあることなどを条件に、入学時特別増額の範囲(最高50万円)での融資を入学前に行っています。この融資は、利率が年2.35%ほどで、入学時特別増額が振り込まれ次第、一括して返済することになります。

入学前の資金需要に対応することのできる上記の制度は、「進学の壁」を乗り越えるためにとても重要です。ただ、仕事と家事で余裕のない親や、受験勉強の真っ只中の高校生に、制度の発見から手続きまで、すべて自力に委ねることは、難しいかもしれません。だからこそ、一人ひとりのサポートが必要です。

しかし、そもそも私立の大学・専門学校が、入学手続時の納入金の徴収猶予を、国公立大学などと同じように、柔軟に判断するか、または、日本学生支援機構の奨学金の振込開始を入学前の時期に設定できれば、もっとシンプルに高校生が進学への道を歩んでいくことができるのではないでしょうか?

今回の記事で、念頭に置いた「進学の意欲を持った子どもたち」は、食事や洗濯、風呂などの社会生活の基本的な要素も満たされず、家庭にも学校にも地域にも安心できる居場所を持てないような子どもたちと比べて、「将来のことを考える余力がある」という点で、まだ「まし」な子どもたちだと思います。

だからこそ、「進学の意欲を持った子どもたち」の行く手を阻む「進学の壁」を打ち壊すことができれば、今は「将来のことなんて考える余力がない子どもたち」でも、いつか前を向くことができたときに、「壁」に道を塞がれることなく、自分の道を歩いていけると思うのです。

今、自分がいる持ち場で、できることを少しずつ、私も行っていきたいと、胸に刻み、この記事を終わらせていただきます。

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