貧困家庭にいる子どもの支援に、社会的な注目が集まっています。子どもの貧困率のひとつの指標となる「就学援助を受けている率」は、平成25年度全国平均で15.4%と、およそ6人に一人にのぼります。そのため、貧困の連鎖を断ち切るために、無料で子どもへ学習のサポートを行う「学習支援」や、子どもへ安価で食事を提供する「子ども食堂」など、様々な支援策が各地域で実施されるようになりました。その支援策のなかで、実現にむけて急速に注目を集めているのが「給付型奨学金」です。
 
「給付型奨学金」は必要だが、本当に解決すべき問題が覆い隠されている

奨学金には大きくわけて3つのタイプがあり、無利子型の「第一種」と有利子型の「第二種」があります。そして、卒業後に返済する必要がない奨学金が「給付型」と呼ばれるもので、日本では国が実施している仕組みはまだありません。

問題となっているのは第二種で、大学生の3人に一人が借りて大学進学をしています。新聞、テレビ等で、多額の奨学金を借り、返済できなくなり、生活の破綻に追い込まれる事例が報道されることで、「奨学金問題」として注目されるようになりました。「奨学金という名の教育ローンビジネス」だとの批判の高まりに、今年7月の参議院選挙のなかでは、主要政党のすべての公約に掲げられ、貧困対策として優先課題になったと言えます。

誤解のないように最初に申し上げると、筆者は、給付型奨学金の実現に異論を唱えるわけではありません。質の高い高等教育に誰もがアクセスできる環境づくりのために、給付型奨学金を実現することは必要であると思います。しかし、「貧困家庭→奨学金の返済が負担で進学に躊躇→給付型奨学金の創設」という単純な図式で進められることで、本当に解決すべき問題が覆い隠され、子どもたちの自立をむしろ阻害する恐れがあります。
 

(キャリア教育の一環として医院(有床診療所)の病棟でインターンシップに取り組む高校生。NPO法人アスクネット マイチャレンジインターンシップ
 
本当に解決すべき日本の教育問題とは

本当に解決すべき日本の教育問題とは、高校卒業までの学びにおいて、社会で自立して生きる意欲や能力を育てる「キャリア教育」の不足と、そして、もうひとつは、高校卒業後に10代で就職する道を選ぶ「ティーンズワークキャリア」の未整備です。

まずは、子どもから見た視点から考えてみます。高校生たちに「高卒で就職することに対してどんなイメージがあるか?」を聞くと、高校での進路選択、とりわけ6割が進学する普通科で学ぶ高校生に顕著ですが、高卒での就職に対するイメージはマイナス。その主な理由とは、「働くイメージがわかない」、「十分な就職先がない」、「どんな仕事についたらよいか決められない」、「条件が悪い」、「就職選択は成績が悪いと思われる」などです。それに対して、大学進学のイメージは、そのマイナスをさけるような理由が出てきます。「決められないからもう少し学んでから」、「大学で学べばいい就職先が広がりそう」などです。もちろん、「就きたい仕事や学びたいことがある」という理由もでてきますが、それらの理由も確固たるものというより、ぼんやりとしたあこがれのようなものです。イメージにすれば下の図のようなものになります。

 
このような状況で進路選択をさせれば、進学希望になるのも当然です。また、高校の進路指導も、進学校になればなるほど「就職」への意識を意図的に育てません。それは、就職者の増加は、進学校における進路指導の成果としてマイナスに思われているからです。だから、インターンシップや職業に関する意識を育てる教育は、進学校ほど「就職者はあまりいないので必要性を感じない」ということになります。悪くいえば、社会で働くというイメージをあえてぼんやりさせておくことで、大学進学へと誘導しているかのごとくです。

これまでの時代で、大学の学費がそれほど高騰しておらず、また、親の所得の格差がない状況ならそれほど問題でなかったかもしれません。しかし、冒頭に書いたとおり、貧困家庭で育つ子どもが増加した現在では、何も考えずにぼんやりと進学し、奨学金を借り、進学をすることは「リスク」です。奨学金問題が多数報道される中、高校教員たちからも「私たちはこれまで、安易に進学を勧めてきたことに責任を感じる」という言葉を聞くようになりました。何も考えずに、ただ大学進学をすすめる高校の進路指導は無責任です。このことは、保護者だけでなく、高校生たちにも浸透してきました。そうすると、さきほどの構図は以下のようなものになります。
 

こうなると、貧困家庭の子どもたちが八方ふさがりに感じてしまうわけです。だから、18歳選挙権が実現したことも相まって、給付型奨学金の実現で、右側の選択を+にもどそうという流れができあがったわけです。

しかし、給付型奨学金をすべての子どもに提供する財源が確保することは難しく、そもそも将来に何を目指すのか、どう社会で生きていくのか、を考えさせることもなく、それを大学に先送りすることは、大学における学びの質を落とすばかりか、現場に出て技術を磨いたり、感覚や能力を磨いたりする年齢を遅らせることになります。実際、大学で提供される学びの中身も、入学してくる学生の意識の未成熟さに伴い、ますます劣化してきています。

企業と高校に新たな橋をかけることこそ、本質的な課題の解決につながる
 
一方、企業側からみると、大学生の新卒採用における基準は、大学での専門的な学びに期待をするのではなく、自分から積極的に行動する姿勢やコミュニケーション力など、高校生までの時間で十分育てられることばかりです。また、大学の学歴よりも、高校での学歴を地頭の良さを判断する基準にしている企業もあると聞きます。

とするならば、人手不足が慢性化している中小企業の現状をみると、これまで大卒しかとっていなかった企業が、高校に着目し、インターンシップなどの質の高いキャリア教育を提供した上で、卒業までに就職意識を育て、卒業後に積極的に働きたくなる若者を採用できる環境づくりも解決策になることがわかります。実際に、昨年度、大卒しかとっていなかった企業に、インターンシップ等を通じて意識を育てた高校生が就職していきましたが、大学生よりも「素直さ」と「学習力」があり、「高卒を見直した」との声をいただいています。

もし、今、大学生の採用に困難を感じている企業ならば、そのコストと労力を、高校との連携に一部振り向け、高校までの段階で育てていくことに協力するのです。そうすると、自ずと高校卒業後に働くことに対する意識が改善され、家庭の経済状況などと相まって、高卒での就職を選択する若者が増加する。そういった若者を採用し、しっかりと育てていくことが企業の人材不足を解決する手段にもなりますし、貧困家庭の子の支援策にもなるのです。

高校生も、「高卒での就職で一生が決まる」などと思わず、まずは3年以上しっかり働き、能力を磨き、社会を知り、お金を貯め、その後、必要性を感じた時に大学に行く、ぐらいのイメージで選択できるようになればいいのです。そのほうが、自分が本当に学びたいことに、自分の力でお金をかけられ、身になる高等教育が受けられようになります。こうした、マイナスのイメージで仕方なくする就職ではなく、ひとつの前向きな10代の人生の選択としての就職を、筆者は「ティーンズワークキャリア」と呼んでいます。これがもっと広がれば、先ほどの図は以下のようになります。


本当の問題解決とは、安易な大学進学を前提とせず、上の図のように、「ワークキャリア」としての就職も、「アカデミックキャリア」としての進学も、プラスのイメージでの選択ができるようにするようにした上で、本当に必要な進学をサポートするための給付型奨学金をつくることだと考えます。

一般社団法人アスバシ教育基金 代表理事 毛受芳高

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