健常児と障がい児だけでなく、不登校、引きこもり、非行なども含めた本格的な「共生教育」「自立支援」を実現させた奇跡の学校が大阪市にあります。

かつて生徒の問題行動が絶えなかった専修学校に一人の男性教員が招かれました。赴任後、その男性教員は問題の背景に生徒の「自信のなさ」や「発達障がい」が潜んでいることを知ります。気づけば、入学生の半数以上が不登校経験者や発達に課題を抱えた子どもたち。しかし、学校はそうした生徒たちに厳しい生活指導や校則といった管理教育を敷いていました。話が噛み合わない。指導が行き届かない。増え続ける退学者―。

いつしかその男性教員は学校改革を一任されるようになります。常態化されていた画一的指導から生徒一人ひとりに目を向けた十人十色の個性教育を進めます。不登校生徒のための特別クラス、発達に課題を抱えた生徒のための支援コース、パニックを起こしても一時的に避難できる部屋、学校生活に意欲を持てるイベントの開催、多様な生徒に対応したカリキュラムへの改善…。常に「今、生徒にとって必要なものは何か」を探し、実践し、考察し、また実践する。本当の意味での「自立支援」を問い続けた男性教員がいました。その男性教員こそ、現在の東朋高等専修学校の校長である太田功二氏です。

今回は、インクルーシブ教育を実現させた東朋高等専修学校の校長・太田功二氏のインタビューを掲載します。既存の学校に合わず、「困っている」生徒や保護者たちが今、何を求め、どんな教育を必要としているのか、お話をお伺いします。〔※本インタビューは、小中高・不登校生の居場所探し (全国フリースクールガイド2015~2016年版)からの転載文となります〕
 
「やらざるを得ない」状況に立ち向かった結果 
 
私が本校へ赴任した平成9年当時は、全国的に厳しい指導が主流となっている時代。しかし、そうした教育が不登校や発達障がいのある生徒の実態に合っていなかったのです。このままの教育を続けても学校として上手くいかない。旧態依然とした管理教育は一掃し、生徒の声に耳を傾ける教育を徹底していくことから始まっていきました。

まず、生徒に学校に来てもらうことが第一。そこで、最初は「自由選択科目」を設置し、生徒が学校を好きになれる機会を設けました。やがて、学校に通えても教室に入れない子のために「不登校傾向対策クラス」、どうしても登校が難しい子のために「土曜日コース」やe-ラーニングの導入。頑張って通う子に自信を持たせたいと資格取得授業や行事を増やし、生徒のタイプや興味に合わせてカリキュラムも編成されました。私は、「ニーズ」と表現していますが、実のところは、何か一つ始めるごとに次に必要になる要素が現れ、また、実際に「困っている」生徒を目の前にしているなかで、支援「せざるを得ない」早急な対応が学校に求められていたのです。ただ、そうして始めていった教育の一つひとつが、幸運なことに良い方向へと向いていったのです。
 
教員の「生き様」が現れる場所
 
社会での自立が基本的な教育テーマですので、最低限のルールはあり、指導の中でも善悪の判断をしっかり伝えています。しかし、悪い部分ばかりにとらわれ過ぎると、教える側は生徒の欠点にしか目がいかなくなる。「どうせあの子は無理だ。ほら見ろ!」ではなくて、「ようできたな」「頑張ったな」と良い部分を見つけてあげる指導を行っています。また、それをちゃんと伝えてあげると、生徒は「また頑張ろう」とさらに成長していく。

そうしたコミュニケーションは教員間でも同じです。よく本校の職員は「仲が良い」と言われますが、それは普段から彼らがお互いの良い部分を指摘し合っているからです。学校現場は、特に教員の持っている感覚や「生き様」がそのまま表れる場所。教員の心の動きに生徒は敏感に反応します。例えば、教員はどうしても「先生」という看板で仕事をしてしまう。権力や立場で指導しようとしてもそれは本物ではありません。教員はその器を捨ててどこまで勝負できるか。「あの人の話だから聞こう」と、一人の人間として生徒を惹きつけられるかが大事なのです。

本校でも定期的に体験入学を行っていますが、参加者のアンケートを見ると「教員の対応が良かった」「先生の雰囲気が良かった」という回答が圧倒的です。それだけ、教員の姿勢や人間性は生徒や保護者にとって重要なポイントになります。

何度も足を運び、自分の目で確かめる
 
保護者や生徒本人は、自分と学校との相性をとても気にします。私から言えることは、入学前に何度もその学校へ足を運び、ちゃんと自分の目で確かめて欲しいということ。本校の場合は、体験入学、学校説明会への参加を入学の条件にしています。特に本校には「普通科」「総合教育学科」と2つの学科がありますから、必ず両方を見学してもらいます。ただ、最終的には必ず生徒本人、保護者で学ぶ場所を決めてもらう。学校側が誘導したりすることはありません。しっかり時間をかけて吟味して進路先を探せば、必ず自分と合う学校が見つかるはず。また、入学後のミスマッチも防げるでしょう。

本校では今、医療機関と連携し、多角的に生徒をフォローしていく体制も整えています。生徒の抱える課題の背景に、その生徒が過去から抱えてきた精神的、心因的な「目に見えない」問題が関係してくるため、その出来事に対してだけの指導では済まなくなってきました。従来の校内カウンセリングと併せて、求められれば本校が指定する信頼できる医療機関や検査機関を紹介していきます。本校としても、現状の教育に満足しているわけではありません。こうしている間にも子どもたちの状況は常に変わっているのです。

2015年3月に発行した書籍(「困っている」子どものこと 一番に考えられますか?)のタイトルに「困っている」という表現を使いました。これまで周囲から「扱いづらい」と捉えられてきた子どもたち、それは「困った子」ではなく、「困っている子」なんですよというメッセージです。まずは、そうした価値観を伝えたかった。また、「困っている」のは保護者も同じです。本校へ入学を希望された保護者の方々も最初はみんな「困って」いました。そのため、東朋の保護者だけでなく、より多くの方々にこのことを共有してもらえればと願っています。
 
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大阪市にある学校で起こった奇跡の実話。
かつて生徒の問題行動が絶えなかった専修学校に一人の男性教員(著者)が招かれました。赴任後、著者は問題の背景に生徒の「自信のなさ」や「発達障がい」が潜んでいることを知ります。気づけば、入学生の半数以上が不登校経験者や発達に課題を抱えた子どもたち。しかし、学校はそうした生徒たちに厳しい生活指導や校則といった管理教育を敷いていました。話が噛み合わない。指導が行き届かない。増え続ける退学者――。

彼らは「困った」生徒ではない。「困っている」のだ――。

後に校長となる著者は学校改革を一任。常態化されていた画一的指導から生徒一人ひとりに目を向けた十人十色の個性教育を進めます。不登校生徒のための特別クラス、発達に課題を抱えた生徒のための支援コース、パニックを起こしても一時的に避難できる部屋、学校生活に意欲を持てるイベントの開催、多様な生徒に対応したカリキュラムへの改善…。常に「今、生徒にとって必要なものは何か」を探し、実践し、考察し、また実践する。本当の意味での「自立支援」を問い続けた男性校長のドキュメンタリー。
 
【プロフィール】
太田功二 
1957年、兵庫県神戸市生まれ。大学卒業後、水泳インストラクターを経て神戸市内の私立学校で「保健体育」の教員となる。1997年、大阪市の「学校法人岡崎学園 東朋高等専修学校」に赴任。2006年、校長となる。増え続ける不登校や発達障がい傾向の生徒に光を当て、専修学校の特長を活かした様々な教育改革を実践。健常児と障がい児の関係だけでなく、不登校や引きこもり、非行なども含めた「共生教育」「自立支援」が高い評価を得ている。