Eduwell Journal

2013年06月号 vol.4

森とオジサンが子どもたちに残してくれたこと

2020年09月19日 22:06 by uedanna

4つの「ど」が教えてくれた子どもの可能性

北海道のある森で、子ども達と森のお手入れの活動をしています。枯れた木を引っ張り出したり、のこぎりで切って薪にしたり、枝を払ったり、それを燃やして灰にしたりするという活動をいくつか用意するのですが、ただそれをやるだけじゃあ面白くないので、この森では4つの「ど」というルールを設けました。


①どれをやってもいい
いくつか活動が用意されていますが、自分のやりたいと思うことを、好きなだけやることができます。

②どれもやっていい
どれかひとつだけ、だなんてケチなことは言いません。全部やりたかったら、全部やってもOKです。

③どれもやらなくてもいい
せっかく来たからといって、どれかをやらねばならない、というのはありません。、サボっていいです。休んでいいです。嫌だったら、やんなくていいです。

④どこかに行く時は一声かけて
でも、どこに行ったかがわからなくなってしまうと、それはそれで困るので、その場所を移動するときは、周りの大人に声をかけてね。


こんなルールを学校の先生に見せたら、発狂してしまうかもしれませんね。で、こんな無謀なルールの元、活動を展開した結果、どうだったか。

まず、ものすごく作業がはかどりました。

子どもの情操教育も大切ですが、今回の最大のミッションは「森林整備推進」です。

ふつう、こういうのは「やらされてしまう」ものですが、イヤイヤや らされることがないので、子どもの手はどんどん動きます。しかも、こういうのによくある「交代でやってね」「順番待ちね」というシーンがない、というか、 並んで待たさせるぐらいならほかの所に行ってなにかする、という心理が働くので、現場の稼働率が高くなります。大人が雇われて作業するよりも効率的に森が 整備されました。

次に、誰もケガをしませんでした。

自然体験におけるリスクマネジメント、これは最重要スキルです。

よく「多少の怪我はさせたほうがいい」なんて言うけど、でも結局「怪我をさせたらダ メ」なんです。そんなことをずっと考えている僕たちが採用したのが、言ってみれば、刃物を持たせた放置プレイ。もちろん、スタッフも緊張感を持って対応し ますよ。でも、作業する子どもは「やりたいことをやりたいだけ」やっています。それはつまり、集中力が高いので、神経が研ぎ澄まされます。自分で危険を察 知し、それを回避することができるんですね。怪我は監視していないから起きるのではなくって、気持ちの問題である、ということがよくわかります。

サボっている子は一人もいませんでした。

大人の都合としては作業なのですが、子どもの視点から行くと、これらは「遊び」なんですね。サボる、ということを認めるとかえってサボらないもんなんですかね。むしろサボって、ほかの遊びとかしてほしかったんだけどなあ。

自然体験という漢方薬 

子どもたちはどんどん動き、どんどん運び、大人たちもどんどん話しかけ、一緒に楽しみ、その場の雰囲気を高めていきます。

そして、終了間際。 

「君たちのおかげで、この森をもっといい森にすることができた。本当にありがとう」と土地主のオジサンさんが、子どもたちに、本当に心を込めて深々と頭を下げ、感謝の思いを伝えます。久しぶりに、心のこもった挨拶を聞きました。 

そりゃあそうです。変な話、お金をかけないでこんなに大変な作業をしてくれるんだから。最初は「バイト代はないの~?」だなんていうマセたことを言 う奴もいましたが、大人が子どもたちに本気で感謝するその姿勢を目の当たりにした途端、いわば好き勝手なことをやり続けていた子どもたちが「あ、オレ、な んかいいことしたかも」と、気づいちゃったりするわけです。そして、いつの間にか、土地主さんも子どもたちも、そんなお金とか、対価とか、そんな小さなこ とを越えた世界で心が通じ合いはじめ、なんとも心地よい、充実感たっぷりの空気を共にすることができました。

今、世の中に、親ではない他人から「君がいてくれて本当に良かった」「大人にありがとうっていわれた」と本気で言ったり、感じられるリアルな場面って、あるのかなあ。 

よく「ちゃんと挨拶をしなさい」「ありがとうって言いなさい」って言われるけど、ホントに心の底から「有り難し」と思って「ありがとう」って言ったこと、あるのかな。

自然体験活動って、つまるところこういうシーンを作り出すことだと思っています。 

とにかく、直接的であり、分かりやすい。かつ、多様なものとつながっていて、奥深い。子どもだけではなく、関わるすべての人に、学びや気づきが生ま れる。即効性の高い抗生物質、というよりも、体質改善を促進してくれる漢方薬のような感じ。土地主のオジサンの名前は忘れても、オジサンのお辞儀を見たと きに感じた心の揺れは、ハラのどっかに貯まるはず。

ぼくたちは、こんなシーンを作り出したくって、あれやこれや言われながらも続けています。そりゃあいろいろありますよ。でも、自然体験って、子ども だけじゃあなくって、地域とか、ほかのセクターとか、世代とか、コミュニティーを立て直す力があると思うんです。そんな一瞬の力を知ってしまっているの で、やめられません。

「自然体験は、世界を救う」これ、わりと本気で信じています。 

ということで、今年も、夏のハイシーズンがやってきますね。北海道のあちこちで「君がいてくれてよかった」というセリフが生まれるような自然体験を展開すべく、ぼくたちはひた走ります!

Author:上田融
NPO法人いぶり自然学校・代表理事。昭和48年生まれ。平成8年より北海道の小学校で6年間勤務。平成14年より4年間、登別市教育委員会社会教育グループで社会教育主事として、ふぉれすと鉱山の運営に携わる。平成18年よりNPO法人ねおすの活動へ参画し、道内各地の自治体と協働し、第一次産業の取り組みを子どもたちに体験的に伝え、学ばせるプログラム開発および協議体の設立に関わる。平成20年より苫東・和みの森運営協議会副会長。平成27年より現職。プロジェクト・ワイルドファシリテーター、小学校教諭1種、幼稚園教諭1種等の資格を持つ。

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