Eduwell Journal

2016年5月号 vol.39

日本の2020年「大学入試改革」はどうなるのか?①-センター試験はなくなるが、改革は中途半端に終わる可能性も

2020年09月06日 12:19 by eduwell_journal

「2020年に大学入試が変わる」という話は、大きく報じられ、教育関係者のみならず多くの方が注目している話題です。では、具体的に大学入試はどのように変わっていくのでしょうか?

これまでの教育改革の背景も含めて、NPO法人教育支援協会の代表理事・NPO法人全国検定振興機構の理事長を務められ、長きに渡って日本の教育改革の最前線で取り組まれてきた吉田博彦さんにお伺いしました。

吉田博彦さんは、1999年より全国組織のNPO法人教育支援協会・理事長として民間からの教育改革を提唱し、文部科学省や教育委員会との協力によって、全国で様々な教育事業をおこし、地域教育力の育成を行ってきました。

中央教育審議会専門部会委員、文部科学省コミュニティースクールマイスター、文部科学省放課後子どもプラン推進アドバイザーなども務められてきました。

2015年からは、大学入試改革に向けて、民間の検定試験の「質」と「信頼性」を判定するNPO法人全国検定振興機構・理事長に就任されています。

2020年「大学入試改革」の現状とは?

現在の大学入試センター試験を廃止し、それに替わる入学者選考のあり方を議論している文部科学省の有識者会議は、2016年3月25日に、改革の方向性の最終案をまとめました。昨年からの新聞報道などで伝えられているように、我が国の大学入試の形が大きく変わろうとしています。

その要点は、まず第一に、入試一発勝負のような現在の形を改善するため、書類や面接で個性や意欲を評価するAO(アドミッションオフィス)入試や推薦入試を一つの大きな柱にすることです。最終的には全大学入学定員の約60%をこの形に仕様というのですが、まだ課題は山積みです。


(文部科学省:平成28年度国公立大学入学者選抜の概要)

有識者会議はこうしたAO入試や推薦入試のような入学者選考方法を採用する際には、「学力不問と冷やかされる状況が生じている」という批判があることに配慮すべきだとして、かつての「一芸入試」などに対する批判の教訓を生かす必要性に言及しています。

そのために、実施要綱で「学力検査を免除」といった記載を禁じ、学校成績や民間の検定試験を活用した一定の学力確認を促すべきだとし、入学者の学力測定を徹底することを求めるとしています。

もう一つの柱である一般入試でも、現在の大学入試センター試験に替わる新テストとして「大学入学希望者学力評価テスト(仮称)」を創設し、このテストには、センター試験のような選択式問題だけではなく、正解がいくつも考えられる問題や記述式問題を採用することとしました。

そして、その採点に人工知能(AI)を活用して採点期間を短縮するなど、できる限り「短絡的な正解追求型教育」からの脱却を図ろうとしています。

こうした全体の改革議論と並行して、各教科の教育内容の改革が議論されており、例えば英語教育については、従来の文法訳読中心の教育から、英語の4技能「読む、聞く、書く、話す」をすべて網羅した「話せる英語力」の教育の実現が進められています。

そして、その教育成果を測定できる入試への切り替えのため、英検やTEAP、TOEFLなどの民間の検定試験を入試に採用するなど、2020年から施行される新しい学習指導要領を意識した改革となっています。

こうした改革は2020年度入試から適用できるように、2017年度までに新ルールを策定し、前述した大学入学希望者学力評価テストを2020年度までに、高校生の学力定着を測る「高校基礎学力テスト(仮称)」を2021年度までに創設するとしています。

「大学入試改革」が与える教育現場への影響は?

大学入試が変われば、教育現場に与える影響はかなり大きいと思います。

その証拠として、現在検定を受けている各教科の教科書は、新たな学習指導要領が施行される2020年を見据えて、そして、その年から始まる大学入試の改革にあわせて、キーワードである「自ら課題を見つけ解決を図るアクティブ・ラーニング」の例とされるグループ討論、調べ学習が積極的に盛り込まれ、必修のコミュニケーション英語では、単元ごとに4技能別の課題を設けたり、文法説明の後にそれを使う会話や作文を追加したりといった工夫がされています。

具体的な例としては、数学の教科書では国際的な大学入学資格「国際バカロレア」で出題される「答えが一つではなく、考え方を記載する数学問題」が採用されました。

そして、その問題は英文で記載されており、家庭科や理科でも関連内容の英文が掲載され、横断的に英語に触れる機会が増やされました。

その他にも、現代社会では「課題追求学習の手引き」という「学び方を学ぶ」という部分を作り、①課題設定、②資料収集や分析、③討論による意見形成、④リポート作成という流れの授業を紹介し、日本史では歴史認識の議論を行うことを前提としたページが創設され、歴史を分析・議論するという授業を想定する形となっています。



中途半端に終わってしまった過去の入試改革

こうした入試改革、それは教育改革そのものなのですが、それは決して一時の「流行」として行われているわけではありません。

こうした改革の大本は、21世紀に向けて日本の教育改革の本道を示したといわれる、1980年代後半に出された臨時教育審議会(通称:臨教審)の答申にさかのぼることができます。

1980年当時、日本は「世界の富を集める国」と言われていました。

なぜなら、1ドルが240円前後という、今から考えれば信じられないほどの「円安」状態で、現在の中国製品のように、日本製品は世界中で売れまくっていました。それが1985年に先進五カ国の金融関係閣僚がニューヨークのプラザホテルに集まって締結された「プラザ合意」の結果、一年後には1ドルが150円前後まで円高が進み、その後、100円を切るところまでの円高が進んでいったのです。

その結果、敗戦で焼け野原となった日本という「保護される国」ではなく、世界をリードする国として自立することを世界から要求されることになったのです。

そのため、1950年代から欧米に追いつけ追い越せと進められた高度経済成長路線がこの時期に終焉し、その路線を支えた戦後の「知識を受け取る力の育成」を基本とした人材育成・教育政策は修正を余儀なくされ、そのときに出されたのが「発信する力・考える力の育成」を教育の目的とした臨教審の答申でした。

この臨教審答申では1次答申で21世紀に向けた教育のあり方として、答えが一つだけの教育をやめること、2次答申で国際化を踏まえた改革として、その一つに英語教育の改善、3次答申で生涯学習体制のあり方を示した上で、4次答申で大学の入試改革を提言していました。

ただ、この答申を受けた入試改革は中途半端に終わってしまいました。高等教育の多様化に向けて、臨教審は当時の大学入学試験の共通一次テストの改革を提唱していましたが、それがいつの間にか大学入試センター試験に替わっただけに終わってしまったのです。その結果、高等教育の多様化や教育の質的改革は進みませんでした。

さて、現在進められている大学入試改革はどうなっていくのでしょうか?次回は我国の大きな課題である「テスト文化」についてまとめてみます。

>>②なぜ、試験制度が大きな社会的価値を持つようになったのか?
>>③「選別のためのテスト」から「育成のためのテスト」へ

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