Eduwell Journal

2016年6月号 vol.40

「子どもの貧困対策法」の成立から3年。対処から対策へ―無料塾や子ども食堂の次に必要な対応とは?

2020年09月06日 11:45 by takuya-murai

「子どもの貧困対策法」の成立から3年が経過し、大綱の閣議決定や、各都道府県の対策計画策定、政府の「子供の未来応援国民運動」と言葉としては、前進しているような3年間ではあったかと思います。民間の動きとしても、3年前までは学習支援が主流でありましたが、この1年は「子ども食堂」というスタイルが全国各地で広がってきています。

先月は日本財団と株式会社ベネッセホールディングスなどが連携し行う「子どもの貧困対策プロジェクト」の開始を発表しました。家庭、学校にかわる「第三の居場所」づくりと、貧困の連鎖を断つような自立支援を全国100拠点に設ける予定です。このように、困りごとという傷に対する絆創膏は増えてきました。

貧困とは「貧しく」て「困る」と書きます。今の絆創膏の話は、「困る」には対応しますが、「貧しさ」の解消には届かないものです。そもそも傷ができてからの対応でしかなく、対処です。

子どもたちとつくる貧困とひとりぼっちのないまち」のなかでも、私たちが取り組んできた食事・入浴などの生活支援や、学習支援、それらを届ける形態としての個別型の支援(寄り添い型支援)は対処であり、この対処の機会を通じて見えた社会や地域の仕組みの不具合を問題解決に向けて再構築していく必要性に触れました。

現状は、まだまだ子どもの声を聞く場をもつことが中心で、聞いた声を代弁するには至っていないのが現状です。

一般的に認知されてきた「子どもの貧困」

近年、貧困問題については、一部専門家・専門職のなかでは議論されても、一般的には議論なされる機会がなく、この数年で「子どもの貧困」に関する報道が増え、改めて世の中の注目を浴びることになりました。

これまで一般的なテーマとして議論をしてこなかった分野でもあるので、「子ども」の貧困は、なんとかしなければいけないということは理解できても、その方法や優先順位などには認識に違いがあり、一枚岩というにはまだ遠いという状況ではあるかと思われます。

貧困問題自体が、ある種の対立や論争を常にはらむものでもありますので、各実践の批評など活動が起こり、子どもの貧困への注目があがるなかで、やっと他の社会問題のように方向性を創りだすスタートラインに立てたのだと思います。

子ども家庭福祉領域では、子ども・子育て支援、児童虐待などに議論が集中し、家庭の経済的な問題には気づいても、貧困問題として取り組めていなかった状況もあります。だからこそ、これまで一部の専門家の方々が一生懸命声をあげていても、縁遠かった方々には響いていなかったのは仕方ありません。

その点からも当時に比べると、一般の方にも認知されたことは大きな前進です。これから議論が深まり、その議論の先に法律改正の段階で、より実効性が高く、有意義な法律にすべく提案ができるようになるのだと思います。

従来のネットワークと新しいネットワーク

最近は、ネットワーク、協議会、連絡会、など声をまとめる機能も従来からあるものから、新たなアクションまで多様に生まれてきています。

子ども食堂や学習支援(教育支援)などの実践手法(切り口)を軸にしたものや、各地域で分野を超えた支援体制構築などその形態も様々です。そのおかげもあり活動は増えてきていますが、手法がブームになりすぎているという声も一方ではあがっています。

とはいえ民間の動きとしては非常に活発です。地域のネットワークでは、「学校をプラットフォームに」「スクールソーシャルワーカーの活用」が一つの目玉であったと思います。

しかし、現状は学校を地域のプラットフォームにしながらアクションができているのは、元々地域と学校が連携できていたエリアが多いように思われます。

新たに取り組み始める地域や学校は、今から「子どもの貧困」についての学びを積み上げている段階であるため、講師として呼ばれることが多いのですが、その研修のなかで聞く限りでは、目に見えるカタチでできあがったネットワークはわずかです。

しかし確実に取り組む兆しはあります。一方で学校の教職員とスクールソーシャルワーカー、そして地域の行政担当や社会福祉協議会などが一緒に学ぶような機会は少ないと感じています。ここはこれから充実させていくことが必要であり、専門機関だけでなく、領域も越えた社会生活を支える仕組みづくりが重要だと感じています。



アンビバレントな支援制度

貧困問題の根本解決という点では、他の法律、制度とのバランスや統合、全体性を踏まえた改正も必要となります。

生活保護の基準については、子どもの貧困対策法の成立時に、厳しくなっていますが、子どもの教育環境を支える「就学援助」は生活保護の基準と同じにしている自治体も多く、結果として「子どもにかけられるお金が減っている」という現状があります。

就学援助率は、子どもの貧困率と数字では近い数字(就学援助率15.7%(2013)、貧困率16.3%(2012))であるため、多くは6人に1人と言われる子どもに影響を与えています。

現在、全国で講演させていただく際に、就学援助は市町村単位で数字があきらかになるので、子どもの貧困の数字を把握する一つの目安にもなりますが、行政担当の方からも、当自治体は数字が低いが、生活保護制度の基準に伴って少なくなっていると言われることも多いです。

児童扶養手当の増額や給付型奨学金の検討などは進んでいますが、基本的には対象が限定的であり、選別的な要素が強いものではあります。

子ども「から」社会保障全体を見通した制度や仕組みづくり

子どもの制度だけがという視点だけでは、最終的には子どもを救うことは難しく、子ども「から」社会保障全体を見通した制度や仕組みづくりが大切になってきます。

また子ども時代だけが「幸せ」であっても、そのあとの社会が困難によって「不幸せ」になってはいけません。

子どもの育ち、そして人生は一つのつながりです。この世に生を受け、そして死を迎えるそのときに笑顔になれるために、この社会はどうなっていかなければいけないかを立場、分野、領域を越えて議論をしていく必要があります。この議論の場も不足しています。

この議論をせず、子ども時代だけをみたゴール設定(就職、進学)だけを考えていると、将来、親の介護、子どもの進学などにより急な支出が増えることや、自身の疾病、就職先の倒産といった収入が途絶えることに備えることができません。「貧しさ」は大人になってからも押し寄せてきます。

重要なのは、そのときに「困らない」社会、「困らせない」地域、「頼ることができる」関係があることです。そこを構築せずにいるままでは、結局、貧困が再燃することになります。

今、関わる子どもの「今」から未来を見通し、そのときに満ち足りているには何が必要かを考え、貧困を再燃させない備えをしていくことが大切です。

「子どもの貧困」対策に関する今後の課題とは?

最後に、今後あらたに取り組みや見直しがあればと思うことを列挙しておきます。これまでの現場の状況や各地で講演をしている際に聞こえてきた課題をもとに、主な項目をあげておきます。特に順番にはあまり意味はありません。これが正解ということより、このような提起から議論がより進んでいくことを望んでいます。

【「子どもの貧困」対策に関する今後の課題】

01.さらなる地域・学区などでの実態把握(量的にも質的にも)

02.調査内容や未来予測や社会保障全体を見通した上での貧困改善に向けた指標の設定

03.都道府県、市町村での対策に向けた仕組みづくり(対策計画など見直しなど)

04.家計を圧迫する住宅費(公営住宅、空き家対策の活用や住宅費補助など)や経費削減が難しい保育・教育費などの支援など、社会生活にかかる経費についての保障の仕組みづくり。

05.各事業や専門支援を行う人材の育成と配置

06.既存の専門職や一般市民へのさらなる周知・啓発(貧困や社会保障制度:セーフティネットへの正しい理解、親の責任・自己責任という誤解を解消など)

07.現在の貧困状態の子どもに長期に関わる支援体制(若者支援との接続・充実)

08.労働環境、雇用条件、賃金水準の向上、整備(子どもの受け皿の質を担保)

09.将来の貧困を防ぐための子育て初期段階への支援

10.現代の多様な家族形態にあった社会保障制度の組み替え、価値観の変換

11.拠点型だけでなく、訪問型(アウトリーチ型)の支援手法の確立

12.各地域事情に応じた支援の充実

13.社会生活に関わる福祉や教育以外の他領域専門家などの連携充実

14.貧困の再燃に備えた社会の仕組みや地域の関係の再構築

15.上記を充実させるには所得の再分配のあり方を見直すことが必要

Author:村井琢哉
NPO法人「山科醍醐こどものひろば」理事長。関西学院大学人間福祉研究科修了、社会福祉士。子ども時代より「山科醍醐こどものひろば(当時は「山科醍醐親と子の劇場」)に参加。学生時代には、キャンプリーダーや運営スタッフを経験し、常任理事へ。ボランティアの受け入れの仕組みの構築等も行う。副理事長、事務局長を歴任し、2013年より現職。公益財団法人「あすのば」副代表理事、京都子どもセンター理事、京都府子どもの貧困対策検討委員。
著書:まちの子どもソーシャルワーク子どもたちとつくる貧困とひとりぼっちのないまち

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