Eduwell Journal

2016年08月号 vol.42

長時間の部活動が子ども達から奪っている2つの機会-部活動ばかりの放課後が価値観や視野を狭めている

2020年09月06日 10:55 by eduwell_journal

教員の長時間勤務の解消の視点から中学校の部活動について、様々な議論が起こっています。

OECDの国際調査でも日本の教員の長時間労働が明らかになっており、中学校や高校の部活動の負担について問題視されています。文部科学省でも教員の長時間勤務の解消を目指したチームが発足し、休養日の設定や指導員の外部人材活用など部活動のガイドラインの作成に取り組んでいます。

今回は、教員ではなく子どもの成長視点から、現在の部活動の問題性を考えてみたいと思います。

多様な経験をする機会が奪われている

部活動では、特定のスポーツや文化芸術活動などを選択し、競技会やコンテストでの上位入賞を目指して練習に取り組んでいます。

教員の長時間労働の原因の一つとして挙げられるほど、子ども達も多くの時間を部活動に費やしていることになります。学習指導要領の中でも、部活動は課外活動であり、生徒の自発的・自主的な任意の活動とされていますが、半ば強制的に生徒を部活動へ参加させている学校も少なくありません。

教員からは、部活動を通じて「努力することの大切さ」「連帯感や達成感を得られる」などの教えたいという話をよく伺います。もちろん、そういった学びがあることは否定しません。

しかし、中学生や高校生の多感な時期に、本人の意思に関わらず、それだけ多くの時間を特定の物事に費やさせることが本当に子どもの成長にプラスになっているのか疑問を感じます。

時間は有限です。部活動を「特定の物事に集中して取り組む時間」とすれば、もう一方で「多様な経験をする時間」がトレードオフで失われていることになります。

部活動という学校内の狭い選択肢に子どもを押し込むのではなく、子どもの興味関心に応じた学校の枠組みにとらわれない選択肢をコーディネートすることもできるはずです。

NPOや地域組織が行っている地域活動や国際交流などへの参加、ITに関心があればプログラミングを学んでアプリを制作してみたり、社会へ巣立っていくうえで重要なこの時期に自分の興味関心のある物事にどんどんチャレンジしていくことができれば、将来の進路選択につながる貴重な経験が得られるかもしれません。

一つの物事に集中して取り組むことと、多様な経験を得ていくことは、共に等しい学びの価値があるはずです。

すでにやりたいことが決まっており、部活動の中にそれを選択していくことができれば、本人の意思のうえで参加すれば良いと思います。逆にやりたいことが漠然としていれば、様々な体験をしていく中で自分の興味関心を見出していくという選択肢があっても良いと思います。

多様な居場所やコミュニティを作る機会が奪われている

中学生や高校生の生活の大部分を占めるのは、家庭と学校となります。特に思春期のこの時期は、家族よりも友人と一緒に過ごす時間が増えていく時期なので、必然的に学校の友人関係による心理的な居場所感が強まっていきます。

授業を一緒に受けるクラスの友人、部活の友人との関係性は、子どもにとってとても重要な生命線となっています。クラスで上手くいかなくても部活で上手くやっている子もいれば、その逆もいるでしょう。でも、そのどちらもない子はどうでしょうか?

夏休み明けに子どもの自殺が急増するというデータが明らかになり、文部科学省でも注意が呼びかけられるようになりました。

学校という同じ年齢が集まった異質な狭い世界の中で、人間関係に悩みながら逃げ場のない息苦しさを感じている子も少なくありません。授業+部活動によって学校に長時間拘束されていることによって、子どもたちが人間関係を広げる機会を奪っているようにも感じます。

子ども達の居場所やコミュニティは、家庭や学校だけでなく、地域社会の中にもっと多様に複数存在していることが心身にとって健全な状態だと思います。こっちがダメでも、あっちで上手くいっているというような、居場所やコミュニティのポートフォリオ(分散・組み合わせ)が必要なのです。

一つの居場所やコミュニティに依存することは、とてもリスクが高い状態であり、無理をして適応し続けるか、または居場所を失うか、厳しい選択を迫られるかもしれません。

複数の居場所やコミュニティを持つことで、どこかでは支えられ、心身の安定を図ることができ、様々な出来事があっても乗り越えていけるようになります。

大人も家庭や会社のみの関係となってしまえば、同じ状況になるのではないでしょうか?

たまには、高校時代のクラスの友人、大学時代のサークルの友人など気の合う仲間と出かけたりする中で、家庭や会社で上手くいかないことがあっても支えられていることがあると思います。親との関係が上手くいかない時、学校の友人との関係が上手くいかない時、それを支える居場所がいくつもあることは、中学生や高校生の多感な思春期を過ごしていううえでとても重要なのです。

将来、自分の居場所やコミュニティを築いていくための力を身につけていくことにもつながるはずです。

中学生や高校生の放課後や長期休みの過ごし方を変える

子どもたちが成長して巣立っていく、これからの実社会で必要な力を身につけていくためには、中学生や高校生が学校内だけで完結するような生活は、むしろマイナスに作用しているように思います。多様な経験や人との出会いが中学生や高校生の価値観や視野を広げ、進路選択や社会認識にもつながるのではないでしょうか?

部活動の長時間拘束をやめ、中学生や高校生が放課後や週末、長期休みなどにもっと多様な選択をする機会を地域社会に作っていくことは、過剰に教育の責任を学校に求めてきたあり方から脱することにもつながります。

様々な経験や人との出会いから多くのことを吸収することができ、将来を考えていくために重要な中学生や高校生の時期の放課後や週末、長期休みの過ごし方を改めて考える必要があると思います。

子どもたちの心身の健康を願うのであれば、子どもたちの声にしっかりと耳を傾け、感染予防と平行し、特に小学生のメンタルヘルスにつながる場や機会を設けていくことが急務だと考えられます。

Author:Eduwell Journal 編集部
本記事の執筆は、岩切準が担当。Eduwell Journalでは、子どもや若者の支援に関する様々な情報を毎月ご紹介しています。子どもや若者の支援に関する教育や福祉などの各分野の実践家・専門家が記者となり、それぞれの現場から見えるリアルな状況や専門的な知見をお伝えしています。「Eduwell」は、本メディアがテーマとしてきたEducation(教育)、welfare(福祉)、well-being(ウェルビーイング)の3つの言葉をつなぎ合わせて作られた造語です。本メディアは、子どもや若者を対象とした社会教育事業に取り組んでいる認定NPO法人「夢職人」が発行しています。

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