ひみつ基地

2017年1月号 vol.47

夜の世界で働く若者のための学習支援サービスとは?-高校中退から高卒認定を取得し、将来の選択肢を広げる

2017年09月07日 15:16 by yamaguchi_masashi


一般社団法人「new-look」
は、兵庫県西宮市で「高校中退からの自分らしい人生」をメインテーマとして、個別学習塾(TOB塾、TOB塾のひとり親の親御さん向け子連れ通塾サービス:PACサポート)や高校中退からのキャリアを語る動画メディア(ヒラケゴマプロジェクト)などを展開している非営利型の一般社団法人です。
 
「new-look」では、2016年2月に夜のお店での高卒認定取得に向けた勉強会を始めました。水商売のお店での学習支援です。この第1弾が、8月と11月の2回の高卒認定試験を経て、一旦のサポートが終了しました。本記事ではこの取り組みについてご報告したいと思います。
 
高卒認定を「取れるなら取っておきたい」という気持ちを持っている
 
この取り組みは、「new-look」の活動の一環で行っている夜回り活動(ナイトクルージング)の現場からはじまりました。兵庫県尼崎市のある駅前で溜まっている若者たちに、いつものように声をかけて回っていると、「近くで新しいナイトクラブをオープンさせた!」とのことでビラ配りをしている人たちに話しかけられました。色々な話している中で、「自分たちも高校中退した人たちとつながっているから一緒に何かできないか?」という流れになっていきました。
 
夜回り活動(ナイトクルージング)で、ヒアリングを続けていくと、夜の街にいる高校中退者たちの多くは、建設現場や水商売とのつながりを持っていることを再確認しました。そして、いろんな背景を抱え、多くの場合は、「今は資格については必要ない」と語ります。しかし一方で、「建設現場やお水の世界をずっと続けていきたい」と思っている人たちが少ないことも見えてきました。「中退じゃ、普通の仕事は就けんから、ここで金稼ぐねん」という風に。
 
話を深めていくうちに高卒認定を「取れるなら取っておきたい」という気持ちを持っていることも分かりました。しかし、周囲に相談できる人がおらず、どうすればいいかわからない場合が多いのです。勉強するための時間・場所、費用など用意しなければならないものがたくさんあり、「そもそもない」と決めているようでした。
 
そこで、冒頭に出会ったクラブのオーナーさんと相談しつつ、2016年2月に「ブルームーンラボ」と称して、ラウンジやキャバクラ、ホストクラブなど夜のお店で働く若者のための週1回の勉強会をスタートさせました。第1弾は、費用の全額をお店側負担で良いとのことで、TOB塾(new-lookの高校中退者などへの個別学習塾)でのノウハウと合わせることで、「勉強の方向」「続けられそうな負担」「費用」「時間と場所」の4つを整えることができました。
 
実際に支援を行い、動いて考える中で、奇跡的に1つの芽を出すことができました。やっている内容は、一般的な個別指導の塾の内容とほとんど変わりません。変わるのは、お仕事やプライベートの話を広く受け止めることと、高卒認定までを最短距離で詰めていく独自の学習内容ぐらいでしょうか。必要なのは、劇的に違うメソッドではなく、自分の心の中でお水の世界と塾の世界のハードルを作らないこと、そのうえで、目の前の学習者の調子や性格、理解力などに合わせて、勉強を進め、時に立ち止まり、また進めていけるような言葉がけだと思います。
 
 
高卒認定8科目中7科目まで合格
 
手探りで支援をスタートさせたこともあり、初年度は1名(18歳・女性)のみでした。試験結果は、高卒認定8科目中、8月の試験で4科目、11月に3科目の計7科目までの合格となりました。
 
本人もできる時間で自習も進め、非常に順調なスタートでしたが、個人や家族の事情からの予定変更や遅刻などに加え、職場的な事情でポジションの変更による多忙なども絡まり、8月も11月も思うように追い込めなかったことが悔やまれます。そのことを含めると、9ヶ月で7科目合格は本当によく自習を進めてくれていた結果だと思います。残り1科目は8月の試験で突破できるようにサポートしていきたいところです。
 
もちろん、本人たちにとっては、生活に直結するお仕事が大事で、それを削って、お金を払って、いつの日か役に立つか立たないかもわからない資格を取得するための勉強を始めるなんてことはとても難しいことです。今を精一杯生きている人に、「将来のためのことをしなさい」などと無責任に言えるものではありません。
 
仕事や休息、プライベートなどを考えると、資格取得は優先順位が低いのです。だからこそ、仕事に沿ったものでないと継続的なサポートは難しいように思います。また、それを放置して、30、40代になって稼げなくなってきても、その仕事を続ける以外に選択肢のない状況に追いやられている人の話もたくさん聞いてきました。「高卒認定で何が変わるか?」と言われれば、正直回答に難しいところもあります。そのため、私たちはその先の一歩についても見つけていかなければなりません。
 


夜の世界で働く若者たちの選択肢を広げる

夜の街で出会う人たちは、高卒認定は「難しい」「取れないもの」だと思っています。しかも、先に述べたように、日常を精一杯生きている人たちです。だから、「高卒認定を取りたいな」と思っても、どうしていいかもわからない勉強を始めることももちろん、それを計画して管理して続けていくこと、どこにもらいに行っていいかわからない願書を取得すること・提出すること、その一つひとつがとても大きいハードルなのです。
 
それは情報源の狭さによるものなのですが、そういう真面目な話に加えて、さらにやりたくない・わからない等のネガティブな感情を乗り越え、資格を取ろうという話にはなりません。その結果、夜の街にいる多くの人たちは、そんなものに興味を持っているわけがないし、必要もない、ましてや勉強なんてとんでもないと考えてしまいます。
 
ただ、私たちが話を聞いている限りでは、高卒認定を「取れるなら取りたい」と思っている人は多く、今回のケースを見ても、不可能なものではないことがわかります。なぜなら、それらのハードルの一つひとつをサポートすることができるからです。
 
お店のオーナーとつながり、この取り組みを広げたい
 
十分に可能性のあるこの動きを広げるために、ご協力を頂けるお店のオーナーを探しています。飲食店を含め夜のお店の方々との意見交換や、お店のキャッチの方や無料案内所のスタッフへの声掛け、運よく店先に店長さんがいらっしゃるは積極的に提案していきました。中にはとても良い反応をくださる方もいらっしゃいましたが、なかなかオーナーさんに直接つないでもらえることはありませんでした。
 
今のところ、このサポートは、オーナーさんとの話がつながらなければ動かないと思っています。第1弾のお店も、その後につながったお店でも、オーナーさんは「キャスト(スタッフ)が取りたいと思っていたら応援したい。どこでも仕事できるだけの人に育ってほしい」という旨のお話をしてくださいました。しかし、オーナーさんと直接お話できる機会を持つことは難しいですし、この取り組みに賛同いただけるオーナーさんは現段階ではそこまで多くないと思っています。もちろん、「大学生以上ばかり」「高卒資格のない子はいない」というお店もたくさんありますし、この取り組みを導入してもらえる可能性は極めて少ないでしょう。
 
それでも、「高校中退からでも自分自身の人生を自分らしく選択できるように」と活動する「new-look」としては、夜の世界で働く人たちにも、選択肢を広げられる可能性を持ってもらいたいと思っています。また、それがお店にとって必ずしも人材流出などマイナス面だけではないことも、オーナーさんとお話しできればと考えています。
 
どのように広げていけるのか試行錯誤しながらではありますが、諦めず展開できる方法を模索していきたいと思います。もし、読者の皆様で、関西でそのようなお店のオーナーさんとお知り合いであれば、ぜひ、ご一報いただけると大変うれしく思います。
 


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