ひみつ基地

2017年05月号 vol.51

子どもたちにエビデンスに基づいた特別支援教育を!③-方法や手段ではなく、データと成果でつながるチーム作り

2017年09月06日 22:28 by hitomi_kuma_73

徳島県では、「徳島発!発達障がい等『とくしま支援モデル』」に取り組み、全国のモデルになりうる先端的な特別支援教育のモデルを作り上げつつあります。前編中編に引き続き、事業の中核を担う徳島県立総合教育センター特別支援・相談課班長の田中清章先生にインタビューをさせて頂きました。後編では、応用行動分析がなぜ現場に根付いたか、十数年前にさかのぼる事業の礎となった自主研究会の話、そして未来への展望についてお話を伺いました。


(教員がABAの基本や記録の取り方などを学ぶ研修・サマースクールの様子①:スタッフは自ら研修や事例発表を行う)

1.理論や手法ではなくデータと成果でつながる

熊:日本で初導入されたスクールワイドPBSや、事例研究型のコンサルテーションなど、「応用行動分析学」という心理学に基づく方法論で一貫して取り組んでいるという点が、非常に珍しいですね。

田中:そうですね、現在は、応用行動分析学(ABA *注1)という心理学をベースにした支援を重視しています。やはり以前は、現場でも反発もあったりして、そういうことは、はっきり言えなかったですね。ABAの「A」の字も言えない時代もありました(笑)

熊:公に近い機関ほど、1つの方法論に特化するのは、難しいことが多いですよね。しかし最近は、県としても「ABAでいこう!」という方向性が固まってきた。なぜでしょうか?

田中:実は行政って、データがとても重要なんです。予算を取る時も、常に「根拠はなんですか?」と聞かれ、データがないと話になりません。徹底してエビデンスを重視した事業を行ってきて、成果をあげてきたからこそ根付いてきたのだと思います。ですから「ABAだから優れている」とは考えていません。国内外のさまざまな研究で、現在、ABAに基づいた支援が成果をあげている。だからABAを取り入れるし、徳島のモデルでも実際に事例研究などで成果が示されている。そういうエビデンスを可視化して、繰り返し訴えてきた結果だと思います。アドバイザーの島宗先生に常々言われているのは、「特定の方法や手段でつながる」のではなく、「データと成果でつながる」ということ。それはよく心に刻んでいます。

熊:「データと成果でつながる」というのは、素晴らしすぎます。とくしま支援モデルの中で、私が最も共感しているポイントです!それが1番、お子さんたちの権利や可能性を守ることに繋がりますよね。常に客観的なエビデンスが出ているものを取り入れる、現場でもデータを取り続けるというスタンスでありたいですね。


*注1:ABAとは?

応用行動分析学(Applied Behavior Analysis)の略称。個体の行動を環境との相互作用の観点からとらえ、行動の予測や制御を臨床場面で用いるための心理学の1つ。心の中の出来事を扱うのではなく、客観的に観察可能な行動や環境(行動の前後の出来事)に着目することで、新しい行動の増加・獲得や、問題となる行動の減少に役立てられている。米国を中心に多くの研究によって科学的に効果が示されており、我が国でも近年教育や福祉の分野で取り入れられ始めている。


2.思考のプラットフォームとしてのABA

熊:現在、ABAは、どのような点が現場に受け入れられているのでしょうか?

田中:先日の熊先生のコンサルテーションでもそうでしたが、子どもの「わかった!」「できた!」が、先生方の1番の強化子(*注2)なんです。現場で支援をしてみて、それを感じられる先生が増えれば良いですし、それが共通のゴールや強化子となった時に良い「チーム」になるんだと思っています。

記録を通して常に客観的にお子さんの変化を見て、「ここまでは出来てるね」「ここが難しいね」など捉えることができる。それをもとに、「次はここを工夫してみよう」と改善を重ね、また記録を取る。そうすると、個人でも組織でも、自立的に日々の指導を改善していけるシステムが構築されていきます。そういう部分が、ABAは優れていると思います。
 

*注2:強化子とは?

行動の後に提示される、人の行動を促進し増やす働きをもつ出来事や刺激。ご褒美のような働きをするもの。


熊:
徳島のモデルでは、現場を細かいテクニックなどで縛るのではなく、そういう思考のプラットフォームとしてABAを活用していますよね。「データと成果でつながる」という前提で、多様な専門家と先生が、何か問題が起こったときや、何かを教えたい場合の思考のプラットフォームを共有している。そのプラットフォームを共有するためのプロセスとして、事例研究型のコンサルテーションや研修会がある。


(教員がABAの基本や記録の取り方などを学ぶ研修・サマースクールの様子②:行動のご褒美となる要因や刺激を分析するワーク)

田中:はい、その通りですね。大久保さんも同じセンターで指導主事をしています。大久保さんは、まだ現場にいる時に、事例研究型のコンサルテーションに参加して、ABAを学びました。その後、このセンターに異動になって1年目で、なんと先生方向けのe-ラーニング教材の問題を現場の先生方と一緒に650問作りました。ABAも理解していて、データやグラフも作れる。これだけ専門性のある指導主事を育成できていることは、非常に大きいです。 

熊:650問とは、すごすぎます!大久保先生は、実際に指導主事として現場の支援に入られてどうですか? 

大久保:そうですね、特別支援教育巡回相談員をしている時に、「特にABAが役に立つなぁ」と感じました。徹底的に「子どもを見る」という意味でとっても優れている。「なぜ?」を考えるクセがつくんです。ちょっと困った行動のあるお子さんについても、行動のパターンを分析して、なぜ、そうするのか仮説をたてるノウハウがあります。きちんと仮説が立てられれば、環境の調整や、声掛けや指示の仕方、課題の設定、ほめ方など、具体的にどうしていくか、という対策が出せます。
 
熊:「どうしていいかわからない」という状況は、先生にとっても辛いですものね。
 
大久保:そうなんです。だからこそ、現場の困っている先生方みなさんと共有したいと思います。子どもを前にした時に、そういった専門性がないと、どこから手をつけていいかわからないし、お子さんも先生自身も辛いんです。でも、「なぜ?」と客観的な記録やデータから考え続けられる人が育てば、同じ状況でとどまることはありません。そうでないと、逆に子どもの状況に関わらず、特定の手法や自分のやり方に走ってしまう、ということになりかねません。きちんとお子さんの行動、発達や学習の段階を常にモニターして、「なぜ?」と考え続け、常に変化を続けていくこと、そういう教育の基本を学ぶのに、ABAの考え方は役に立つと思います。
 
④全てのはじまりは、教員10人の小さな研究会だった

NPO法人ADDS 共同代表 熊仁美


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