ひみつ基地

2017年05月号 vol.51

虐待する親だけを一方的に責めたくない。親自身も悩み苦しんでいる。-作家・田村真菜さんインタビュー(前編)

2017年09月06日 12:55 by editorial_desk

ニュース編集やNPO勤務、起業などを経て、作家・セラピストとして活動されている田村真菜さん。実は、12歳まで義務教育を受けず、機能不全家庭で育ち、ネグレクトなど虐待経験を抱える当事者の1人でもあります。10歳の時に母と妹と野宿の旅に出た体験をもとに描かれた、ノンフィクション・ノベル「家出ファミリー」(晶文社)を上梓した田村さんに、お話をうかがいました。(ライター・生駒翼)

まずは今回、著書を出版するに至った経緯についてお話を聞かせていただけますでしょうか?

田村:これまでの自分の人生において、転機のようなものはいくつかあったのですが、編集者さんと相談して、10歳の時に野宿で日本一周した際のエピソードを書くことにしました。日本一周って響きが良かったし、冒険的な要素もあるし、ちょっと楽しそうでしょう。「虐待」に関係ある人だけでなく、そうでない人も気軽に手に取って読めて、だけど家族との関係性や「生きること」をちょっと見直せるような、エンターテインメント性のある内容にしたいと思っていました。

大人はもちろんですが、「10代の子にも読んでほしい」という想いをお持ちだとうかがいました。

田村:そうですね。「本が買えないような子どもたちにも読んでもらいたいな」と思って、図書館にも多く置いていただきました。自分自身、買いたい本が買えなかったので、図書館でよく本を借りていたんです。トリイ・ヘイデンの虐待に関する著書や柳美里さんの私小説などを結構読んでいました。
 
現実の世界ではあまり虐待の話ってオープンにしづらいと思うんですよ。自分が親から殴られていても、それを友達に言ったりするのはちょっと難しい。私はずっと学校に通ってなくて12歳からようやく行くようになったんですが、会話にギャップを感じることが多かったんです。たとえば「親なんて、さっさと死ねばいいのに」と同じクラスの子に言うと「え、何言ってるの!?」みたいな反応がほとんどだった。ああ、世の中の大半の人にとっては「家族は仲が良い」というのが普通で当たり前のことで、そこに暴力があるなんて夢にも思わないんだなと思いました。
 
けれど、本の世界に飛び込んでみると、そこには自分の気持ちをわかってくれる人がいるように子ども心に思ったんです。私は本を通してはじめて「自分と似たような家庭環境の人って、他にも居るんだなあ……」とか「そういう人でも大人になれるんだなあ」ということを知ったのです。自分の本が、誰かにそういう風に受け取ってもらえたら嬉しいなと思います。
 
 
たしかに、友人同士などでは喋りにくい話題ですね。
 
田村:虐待をされて育って来たという女性の方にもこの本を読んでいただいたのですが、「自分が受けてきたものが暴力だったと初めて気づいた」と話されていました。「自分のまわりでは皆、親に殴られたりするのが当たり前だったから」と。
多くの方々には見えにくいし、彼女たちも自分から語ることはないかもしれないけど、そうした暴力や虐待が当たり前になっている層が存在するということですよね。トランプ問題で言われた社会の断絶ではないですが、あまりにそれが身の回りにあふれているせいで「何が暴力か」ということを認識することができない人たちも多くいるのだと、私も改めて思いました。
 
虐待を受けている・受けていないに関わらず、「自分の置かれている世界とは、また違う世界があるんだよ」っていうのは、伝えたいことのひとつですね。あなたが普通ということでもないし、あなただけがオカシイということもないんだよ、って。
 
本を読んでみて、「誰が悪い」と責めているわけではないことが、印象に残りました。虐待ということについて、今はどういう風に考えていますか。
 
田村:虐待する側の人だけを一方的に責めたくはないな、と思っています。子どもの時はわからなかったんですけど、大人になってみると、「親だけが悪かったのではなかったな」と思うのです。母親自身も複雑な家庭環境の中で育っていたり、家庭が貧困の状況にあったり。子どもである私も、当時は診断を受けていませんでしたが、発達障害があって周囲になじめず学校にも通わない。そういう中で、親だって悩んだり苦しんだりする部分はあったろうと思います。
 
もちろん、だからと言って虐待をしても良いと言う訳ではないです。ただ、虐待という事象の中に、そういったさまざまな背景なりそれぞれの想いがあることは知ってほしいなと思います。ありえない他人ではないというか。また、当事者の人にとっては厳しく聞こえる部分もあると思いますが、暴力の連鎖や負の連鎖って起こりやすいとは思うけれども、そこから抜け出すこと、抜け出そうとすることもできるんじゃないかとも思っています。
 
田村さん自身は、今はそういった虐待や暴力などの影響から抜け出せましたか?
 
田村:難しい質問ですね。社会的・経済的には自立していると思います。子どもの頃は粗大ごみを拾って売るような生活をしていたので、当時に比べるとずっとましな生活です(笑)。NPOで働き、チームのマネジメントや起業も経験しましたし、仲間にも恵まれていると感じます。
 
でも、暴力を受けてきたかけらのようなものは自分にまだ残っていますし、それが親しい人との対人関係の中であらわれてきたりします。たとえば、20代前半まで、病気で寝込んだり、人に看病されたりするのがとても苦手でした。病気で寝ていると「役立たず」と言われたりする環境で育ったので、どうしても人にケアされるのが怖いなあという警戒心が湧いてきてしまう。「ああ、弱っているときに危害を加えてこない人もいるんだな」とわかるまで、しばらくかかりました。
 
今でもそういう、ちょっとした意思疎通だったり生活の癖だったりで、自分の生育環境を感じることはあります。だからどこからが「抜け出せた」なのかはよくわからないです。「ここまで来たから回復!」というものでもないかなと思うので。抜け出そうとしたり、自分を見つめ直したりするそのプロセスそのものが「回復」なのではないかなあと思います。
 
>>後編・虐待する親を否定しない支援。親を責めたいわけじゃないけど、避難したかった。
 



【田村真菜さんの自伝的ノンフィクション・ノベル「家出ファミリー」】


私たちの生活は柔らかな戦場だった―。
貧困と虐待が影を落とす過酷な家庭環境に育った10歳の少女は、突如母と妹と三人で野宿しながら日本一周の旅に出ることに。襲い掛かる様々な困難に立ち向かうサバイバルの日々を経て、成長した彼女が見出した道とは?

―私たち、また生きて会おうね。
 
貧困・暴力・存在の否定。様々な困難をサバイブしながら成長する少女の自伝的ノンフィクション・ノベル(晶文社/価格:1,600円+税) 
 
<目次>
1.僕の知らない女:東京
2.一〇〇万円と薔薇の花びら:小田原
3.ダンとの、言えない約束:小田原
4.生きている山と、はじめての野宿:熊本
5.お坊さんと、ばけもののいもうと:愛媛
6.揺れるかずら橋と、はんぶん姉さん:徳島~大阪
7.星にいちばん近い駅:立山
8.いなくなった母さんと、ヒロ爺:仙台
9.父さんの海と、よそものの私:能登
10.母さんの涙と、泣き砂の声:輪島
11.むらさきの花と、ひとつの嘘:小田原

<著者>
田村真菜(たむら・まな)
作家・写真家。1988年、東京・池袋生まれ。国際基督教大学(ICU) 教養学部卒。12歳まで義務教育を受けず、小田原・大磯・鎌倉など湘南を転々と引っ越し、育つ。大学卒業後、コンビニ店員、アパレル販売、ニュース編集者、NPO勤務や起業を経て、作家に。現在、東京下町にある大正時代の長屋でさまざまなプロジェクトを進行中。

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