ひみつ基地

2017年07月号 vol.53

世界の性教育の最先端スタンダードとは?-今注目が集まる「セクシュアリティ教育」の3つのポイント

2017年09月06日 12:44 by asuka_someya

「性教育をすることで、子どもたちにとって刺激(性行為をしたくなる刺激)になるのでは?」と懸念する声をいただくことがあります。以前、「日本の10代の妊娠中絶は1日約53件!他人事ではない若者の性のリアル-性教育が性行動を助長するという誤解」という記事を書いた時にもそのような反響もありました。ご自身が性教育を受けなかった方から「自分は特に性教育がなくても困ることはなかったし、あえて教える必要はない」という意見もあります。

しかし、性教育とは、性行為や生殖のみを扱うわけではありません。近年は、国際的にも性教育(Sex education)からセクシュアリティ教育(Sexuality education)に概念が変化してきており、2009年にはユネスコなどにより世界中の性教育の専門家の研究と実践をふまえた『国際セクシュアリティ教育ガイダンス』(以下、『ガイダンス』)が発表され、日本においても2017年6月に待望の日本語訳が出版されました。(国際セクシュアリティ教育ガイダンス――教育・福祉・医療・保健現場で活かすために)今回は、世界の性教育の最先端スタンダードである『ガイダンス』で示される「セクシュアリティ教育」の論理的根拠とそのポイントについて取り上げていきたいと思います。


「ガイダンス」原著の英語版は、HPより無料で閲覧可能です。
International technical guidance on sexuality education(UNESCO)

だれもが性的に健康である権利、そのための教育を受ける権利がある
 
そもそもこの「セクシュアリティ」という言葉を聞きなれない方もいるかと思います。セクシュアリティとは、「性の権利宣言」(2014年改訂)の中で「生涯を通じて人間であることの中心的側面をなし、セックス(生物学的性)、ジェンダー・アイデンティティ(性自認)とジェンダー・ロール(性役割)、性的指向、エロティシズム、喜び、親密さ、生殖がそこに含まれる」とされています。性を様々な側面からとらえることから、セクシュアリティ教育は「包括的性教育」とも言われます。
 
また、1999年に出された「性の権利宣言」において、「性の権利は望みうる最高の性の健康(セクシュアル・ヘルス)を実現するために不可欠」であり、すべての人が「包括的性教育を受ける権利を有」し、「年齢に適切で、科学的に正しく、文化的能力に相応し、人権、ジェンダー平等、セクシュアリティや快楽に対して肯定的なアプローチをその基礎に置くものでなければならない」とあります。つまり、性の学習を子どもたちに保障していくことが、人権の観点からも不可欠であると20年ほど前から提唱されているのです。
 
日本においても、性行動が低年齢化する一方で、晩婚化が進み、性的な成熟から結婚に至るまでの時期が長引いています。加えて、インターネットやSNSなどのコミュニケーションツールも進化しており、若者は、性についてのリスク(性的虐待や性的搾取、意図しない妊娠や性感染症)にさらされやすい状況となっていますが、親や教師などの身近な大人が性についてタブー視したり、認めないことにより、多くの場合子ども・若者がリスクに面した時にはその状況は悪化します。
 
『ガイダンス』では「若者が責任ある選択をするための科学的で正しい知識やスキルを、年齢に応じ、その文化にあったかたちで身に着けることで、性行動が慎重化し、リスクを減らすことができる」と述べられています。つまり、性について適切な情報を提供し、性について考えたり、議論したりする機会をつくることにより、性行動は促進されるのではなく、むしろ慎重化することが世界中の性教育を研究した結果として分かっているのです。
 
 
効果的なセクシュアリティ教育のポイントとは?
 
では、効果的なセクシュアリティ教育のために、必要なポイントとは何なのでしょうか?『ガイダンス』は効果的な性教育について、その特徴を18項目にまとめています。その中でも特に以下の3つの視点が強調されています。
 
1.若者が直面するかもしれない具体的な状況とその具体的な予防方法を明確に扱うこと
2.科学的で正確な情報が論理的な順序で与えられること
3.積極的に生徒を巻き込み、子どもたち自身が考え、様々な見方、考え方、表現の仕方があることを発見できること
 
すなわち、具体性、情報の正確性、そして子どもたち自身が考え、また様々な考え方にふれることが重要なポイントなのです。
 
そして、『ガイダンス』では、対象を4つの年齢グループ(5~8歳、9~12歳、12~15歳、15~18歳以上)に分け、学習内容と学習目標をそれぞれに設定しています。その内容項目としては、性行動だけではなく、人間関係(家族、友情、結婚など)や、価値観、文化、人権など、非常に多岐に渡り、その中身においても多様性が前提とされています(たとえば、家族の項目では、「家族にはさまざまな種類の家族が存在する」から始まります。)年齢に応じてどのようなポイントを伝えるべきかについて詳しく記載されているので、ぜひ性教育に関心のある方はもちろん、子どもに関わる方は普段のコミュニケーションの中でも健康で健全な人間関係や自意識を育むうえで役立つと思います。
 
埼玉大学教育学部教員で、社団法人"人間と性”教育研究協議会・代表幹事、『ガイダンス』の翻訳者の一人でもある田代美江子氏は、「東アジアにおいても、韓国、台湾、中国はいずれも性教育の制度的基盤を整えつつあり、『ガイダンス』が求める国際的な包括的性教育の進展に呼応する可能性を広げているのに、日本の文部科学省は未だに性教育を積極的に推進する姿勢は示しておらず、極めて深刻な状況にあります。『性の権利』としての性の学習を子どもたちに保証していくことが重要です。」と語っています。
 
時代が変わり、子どもたちがアダルトサイトや漫画等、不確かな情報から性を学ぶ前に、まずは大人が性の伝え方を学び、学校でも家庭でも、適切に子どもたちに伝えていくことが必要ではないでしょうか?

NPO法人ピルコン 理事長 染矢明日香

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