Eduwell Journal

2017年07月号 vol.53

無料塾の目標・成果を「学力向上」や「高校進学」にするな!-「社会的自立」を阻害する高校以降の三大リスクとは?

2020年07月23日 13:01 by ymenjo
貧困家庭の子どもたちに対する支援活動は、「無料塾」(学習支援)や「子ども食堂」(生活支援)など様々な形で、全国各地で急速に広がっています。もはや「雨後の筍」状況は超え、すでに「竹林」化しはじめました。

実際に、私が関わっている学習支援も、愛知県高浜市の「ステップ」を皮切りに、愛知県内で、名古屋市、大府市、尾張旭市などへと広がり、具体的な実践と知見を深めてきました。しかし、子どもの貧困問題の根深さ、深刻さに比して、近視眼的で安易な取り組みが多く見受けられ、警鐘を鳴らす意味で、さらなる問題提起をさせて頂きたいと思います。

(愛知県高浜市の中学生・高校生を対象とした学習等支援事業「ステップ」の様子)
 
今ある「塾」を無料化しただけでは「貧困の連鎖」から脱出できない
 
学習支援の目標・成果を、「学力向上」と「高校進学」におくケースが多く見受けられます。学習支援事業には、そもそも自分から学ぶ習慣がない、学習嫌いの子どもたちが多く集まる傾向にあるため、懇切丁寧に個別指導する学習支援にとどまってしまい、それ以上の工夫がなされません。それなりに効果をあげますが、以前の記事でも指摘しましたが、学力をあげることにこだわりすぎると、手取り足取り教えてしまい、結果的に学習の他者依存度を高める結果となり、高校へ進学した後も、自ら学ぶことができずに、学習支援を必要とし続けてしまいます。学習支援事業は、その支援のあり方によって、社会的自立を遅らせる逆効果の副作用があることに早く気づかなければいけません。(子どもの貧困連鎖の問題は、単なる「無料塾」をいくら作っても不十分!-支援への依存を助長する危険性あり
 
また、今の日本の教育のなかでの「学力向上」といえば、生徒も大人も「相対評価」に考えがなっているため、学力が上がる=「順位があがる」ことに置き換えられてしまいます。この場合、成果をあげたとしても、税金を使って誰かを押しのけたにすぎず、社会全体で見た時、全体のパフォーマンスを上げたとは言えません。
 
この事業の本来の目的とは、「貧困の連鎖」からの脱出です。であるならば、その目標とは、「学力向上」ではなく「社会的自立」にあるはずです。学力向上は「社会的自立」を生み出す一要因にすぎません。むしろ、結果としての「学力」よりも「学ぶ力」、すなわち、「自ら主体的に学習に取り組む姿勢」「チャレンジ精神」「やりきる力」などがどれだけあるかが重要です。勉強に取り組むことは、自分を高めることへの努力ができるようになることです。「社会的自立」を目標にすると、目に見える学力を上げることに注力する塾等の教育とは、自ずと細かなところでアプローチが異なってきます。
 
「社会的自立」を目標とした学習支援の教育プログラムの開発へ
 
社会的自立を目標にしたプログラムは、「キャリア教育」を必須とします。挨拶や立ち振舞い、様々な大人たちとのコミュニケーション力、物事に率先して取り組む姿勢や、プロジェクトを企画したり、段取りをしたりする社会的スキルの向上は、高校受験そのものでは、直接評価の対象にならないので、学校現場でも必要性は感じていても後回しになりがちです。
 
高浜市で行われている学習等支援事業「ステップ」では、月1回ペースでキャリア教育の講座を設けたり、日常の学習のなかでも、PDCAサイクルを習慣化させる工夫などが盛り込まれています。
 
 
また、「なぜ、学ぶのか?」、なぜ「大人は勉強しろ、というのか?」についても、子どもたち同士で話し合う機会を設けたりして、「学び」を継続する自分の土台づくりにも注力をしています。
 
そもそも、数多く全国各地で行われている学習支援事業ですが、高校進学までの短い期間を対象に、「学習支援」しかやれないような予算と枠組みで行われているケースがほとんどで、「とにかく成績をあげて、高校に入ってくれればいい」といわんばかりです。本当の問題は高校以降に現れるのにも関わらずです。 

 
「社会的自立」を阻害する3大リスク
 
学習支援事業の目標を「社会的自立」においた場合、自立を阻害するリスクはいつの段階で、どのようなかたちで顕在化するのでしょうか?それを示したのが以下の図です。
 
 
子どもたちの「社会的自立」を阻害する3大リスクとは、「中退」、「卒業後、進路未決定・非正規労働」、「3年以内離職」です。それらのリスクは、高校に進学できたとしても、中退してしまったり、卒業できても、進路が決まらなかったり、アルバイトなどの非正規労働になってしまったり、就職できても3年以内に離職してしまうという3つのかたちで顕在化します。大学進学まで至っても3つのリスクは同様です。大学進学の場合、奨学金が卒業後返せなくなるリスクも上乗せされます。
 
これらのリスクを回避し、「学び」側の岸から、学びと社会の間にある河を渡り、「社会的自立」の岸にどう辿り着かせられるかが、学習支援事業の本当の効果です。その意味では、中学校の段階から卒業時までで学習支援事業の効果測定をしている自治体は、まだ近視眼的です。参加した生徒の中学校卒業後の状況を定期的に追跡調査し、これらのリスクに陥らない、もしくは陥りそうになったことを察知し、その際にしっかりと手が打てるための仕組みまでできて、ようやく「貧困の連鎖」を食い止める教育プログラムといえます。
 
その意味では、1~2年ではまだ端緒についたばかりの段階です。私たちが2年前にスタートした高浜市の「ステップ」も、まだ実施してから2年が過ぎた段階なので、初年度に中3だった子どもはまだ高校2年生です。今のところ、参加した生徒すべては進学し、中退は一人もいないことはわかっていますが、「学校をやめたい」と言い始めたり、不登校になってしまったり、様々な理由で生徒は上がったり下がったりしています。ステップが高校生を継続的に受け入れているのは、単に支援をする場というだけでなく、リスクが顕在化する前に手が打てるよう、絶えず相談される関係を継続するためでもあります。彼等がその後、就職等で社会のなかで安定して自立したことを見届けるまで、しっかりとみていく予定です。
 
中学卒業後も継続的に見守っていく仕組みは、この事業の説明責任を果たすことにもつながります。もし、貧困の連鎖が高リスクな子どもたちを一人、社会的自立までもっていった場合、その財政効果は、納税額でおよそ1千万円。生活保護に至る連鎖を食い止めたと考えた場合は、それに加えて3千万円程度の財政支出を減らしたといえる効果があると考えられるため、税金をかけた分をしっかりと回収していく説明責任を果たしたことにもなります。
 
「貧困の連鎖」を食い止めるもうひとつのカギは、高卒就職の支援
 
ここまで突き詰めてくると、どの種類の高校に進学をすすめるかも、学習支援事業の成果を上げる上で重要な部分になります。安易に普通科に進学を勧めてしまうと、その後は、大学か専門学校への道しか選択が選べず、社会的自立の意味では、さらなるリスクを内包することがわかります。それよりも職業高校を選び、しっかりと育ててくれる企業等につなぎ、高卒就職を充実させたほうが、「社会的自立」はより短期間で効果が出ることもわかってきました。
 
貧困家庭の学習支援は、大学等に進学する際の「給付型奨学金の充実」にも焦点があたっていますが、前記事に書いたとおり、大卒等を採用している企業に、より高卒就職の門をひらき、しっかりと育てる仕組みを官民協働で構築したほうが、より早く必要な資金も少なくて済むでしょう。(安易な「給付型奨学金」導入で見えなくなる本質的な日本の教育問題とは?-キャリア教育と10代から働ける環境の再構築こそ急務
 
学習支援等の事業に携わっている人々は、高学歴者が多く、支援のゴールを、学力向上から大学等への進学を前提に考えてしまう傾向がありますが、高卒就職の支援も、今後の効果を高める上での重要なカギになってくると考えられます。
 
いずれにしても、公費で運営されている「無料塾」は、単に既存の塾を無料化するという発想ではなく、「社会的自立」を目標におき、3大リスクに対応した実践的・実証的な仕組みづくりが求められているのです。

>>愛知県高浜市の学習支援事業の詳細(PDF)

Author:毛受芳高
一般社団法人「アスバシ」代表理事。1972年、愛知県生まれ。名古屋大学大学院人間情報学研究科修了。名古屋大学大学院人間情報学研究科在学中に、若者が夢や目標、アイデンティティを持てない日本の教育に危機感をもち、NPO法人「アスクネット」を創業。学校と地域の間をつなぎキャリア教育等を学校に提供する「教育コーディネート」を全国に先駆け事業化。その後、経済産業省のキャリア教育事業の全国のまとめ役となる「中核コーディネーター」を担い、「キャリア教育コーディネーター」の認定制度をつくる。2012年に、新たに一般社団法人アスバシを立ち上げ、愛知県内の公立、私立あわせて35の高校に3000名を超える高校生のインターンシップを普及する他、高卒就職の新しい形「高卒プロフェッショナルキャリア」を提唱し、推進している。また、東海若手起業塾実行委員会の代表もつとめ、東海地域の若手起業家の育成を行っている。

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