ひみつ基地

2017年08月号 vol.54

高校中退のひとり親の学び直しを支える-将来の選択肢を広げる!学び直しを阻むいくつものハードルとは?

2017年08月14日 17:18 by yamaguchi_masashi

先日、「高校生が妊娠したら退学になる」ということに対して、学ぶ権利や進路の機会が奪われ、結果として、生活に行き詰まり、その子どもも貧困状態に陥ってしまうという記事が話題になっていました。私が取り組んでいる高校中退者に対する学習支援の中でも、高校中退したひとり親の方に受講を頂いています。

一般社団法人new-lookでは、高校中退者に向けた個別学習塾TOB塾を運営しています。TOB塾には高校中退者をはじめ、通信制・定時制高校生や全日制高校・中学校不登校の人たちが、自分らしい人生を創るために通ってきています。TOB塾には、進学も就職も起業も自分を見つめなおす人も、いろんな一歩を踏み出そうとしている塾生がいます。

進学となるとまずは高卒認定試験を突破するか、定時制・通信制高校などに通って高卒資格をとり、その後は、大学や専門学校に進みます。就職なら資格を整えながらの就職活動を展開していきます。

TOB塾では、世間一般の「~しなければならない」「~しなさい」ではなく、「どうしたい?」「そのために何をする?」と話を聞きながら整理していきます。判断することも、行動することも、自分自身との対話が必要になってきます。本当は、少しずつ自分の興味関心や感情、好きなところや嫌いなところなどに出会いながら、それを受け入れつつ、なりたい自分に近づいていくことが理想です。しかし、それを「強制的に向き合わせる」ではない方法で、進めていこうと思うと難しいのです。

「自分1人の人生をどうしていくのか」を考えるのも精一杯向き合いながら、なんとか進んでいるという状況の塾生が多いのですが、ひとり親の方の場合は、その状況にプラスして「子どもの人生」も背負っていることになります。

始まりは普通の問い合わせから

TOB塾では、「ひとり親家庭の方向けのコース」を特別に設けていたわけではありません。ある日、夜に働いている方からの問い合わせを頂き、看護学校を目指す塾生さんからPACサポートが始まりました。PACサポートは、親が子どもと一緒に通塾できる、親御さんのための高卒認定取得プランです。その方は、小学生になる2人のお母さんでした。今までのお仕事、家事、育児の上に、高卒認定を取得して、看護学校の入学を目指すことを目標としていました。

幸いその方の親御さんからの援助もあり、お仕事はセーブしながら、勉強が始まりました。ブランクもあり、慣れない勉強へのハードルは大きいです。もちろん、塾にいる時の勉強量では、高卒認定の合格も難しいのですが、家に帰るといつも通り家事・育児が待っていて、勉強も思うように進みません。


(PACサポートでは、子どもを連れて通塾できるように、様々な配慮をしている)

当事者が利用できない国の制度

厚労省の「高等学校卒業程度認定試験合格支援事業」が始まったのもその頃です。この事業は、より良い条件での就職や転職に向けた可能性を広げるため、ひとり親家庭の親の学び直しを支援するものです。受講費用の2割(最大10万円)を受講後に支給され、また高卒認定を合格すると受講費用の4割(合計最大15万円)が受け取れる制度です。ただ、この制度は「受講前の相談」が必須となっていたため、結局利用することはできませんでした。

この制度は、後払いであることもその利用のハードルを押し上げているのですが、そもそも問い合わせ数が極めて少ないことが分かるような応対で、「セミナーなどのプログラムを想定しているので、個別学習のような形態が認められるかはわかりません」「ご本人が相談に来られないと詳しいことはお答えできません」など、本当にひとり親の方々の生活を具体的・現実的にイメージされて支援事業ができたのか理解に苦しむことが多くありました。一体どういった方が、どのような形でこの制度を利用しているのでしょうか?

そうこうしながらも、TOB塾に通われていた先のひとり親の方は、高卒認定自体はそこまでハードルの高いものではないので、高卒認定の取得ができました。その後、看護師・准看護師など、色々な道を考え、どのように進むかを相談していましたが、最終的には受験勉強が難しいという結論に至り、夜のお仕事に戻っていかれました。望む進路まで並走できなかったことは、TOB塾の敗北ですが、今でもこの難題に対してどのような有効な手立てがあるのかと考える日々です。

身近に立って初めて垣間見える大変さ

ひとり親の方が学歴などを得て次のステップに進むことは、普通の高校中退者の方に、プラスで子どもがいるだけという簡単なイメージで越えられるものではありません。

ストレスもそうですが、一つの物事の大きなストレスよりも、多方面からあれこれとストレスがかかるほうが、人は折れてしまいやすいと私は考えています。「高校中退」というものを乗り越える時に、「生活」「仕事」「世間体」「プライド」など、様々な難しさがあるのですが、これに「勉強」を抱えるだけでもかなり大変な状況になります。さらに「育児」が追加された時は、その難しさは飛躍的に上がってしまいます。「育児」そのものの大変さだけでも、少し調べればいくらでも目にすることができます。そのような状態から、高卒認定を取得して、さらに高等教育機関に通ったり、就職に有利な資格を得ようと思ったりした場合、どれほど大変なことでしょうか。


(筆者自身も母子家庭で育った高専中退者であり、同様の若者たちの力になりたいとTOB塾をはじめた)

いくつものハードルを超えていくことの難しさ

まず、第1のハードルとして、高卒認定を取得の場合は、もともとある「家事」「育児」「仕事」に加えて、「集中できる勉強時間」、それに勉強を教えてもらおうとすれば、その「費用」も必要になります。また、それらが整ったとしても「学力」が着実に身についていく保証はありません。第2のハードルとして、大学などの高等教育機関に通う場合は、「高度な試験対策のための勉強時間」、それによって得なければならない「学力」、塾や参考書、受験料などの「費用」が必要となります。そして、合格した場合には、第3のハードルとして、大学などに通う「時間」「費用」が必要となってきます。他にも大小問わず、目に見えないハードルがたくさん存在します。子どもを抱えながら、このハードルを飛び越えていける人は、どのような人でしょうか?

今、PACサポートでつながっているひとり親の方々は、幸いにもその保護者の方からの援助がある方々です。それだと何とかやっていける可能性があります。しかしながら、妊娠がきっかけで高校を辞めて、親との関係も悪いという形だとかなり困難な状況になります。たとえつながりが持てたとしても、残念ながらそこから先の見通しは厳しいでしょう。

TOB塾では、できるだけ自分の力で人生を創っていくことを目指しているのですが、ひとり親家庭の親御さんについては、「果たしてその方だけの力で、この状況を突破できる道筋を見つけることができるのだろうか?」と全く別の角度のアプローチが必要であることを痛感しています。ただ、自分たちでできることを最大限模索しつつ、新しい可能性を開けるように動いていこうと試行錯誤しています。


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