ひみつ基地

2017年09月号 vol.55

新任教員が語る!学校の教育現場のリアル(第一話)-いきなり繁忙期に!すぐに重要な「黄金期間」へ突入

2017年09月11日 13:37 by editorial_desk

文部科学省の「公立学校教職員人事行政状況調査」によれば、教育職員の精神疾患による病気休職者数は、平成23年度~27年度で約5,000名前後を推移しており、15年前と比較しても倍増しています。年代別にみると、50代が一番多く、年代が上がるごとに増えている状況です。一方で、新採教員が1年間の条件附採用期間(民間企業での試用期間)後に、精神疾患を理由として依願退職した者は、病気を理由とした依願退職者のうち8~9割となっており、増加傾向にあります。苦労して試験勉強を乗り越え、志を持って学校教員となった若者が病んでしまうことは、個人にとっても、社会にとっても非常に残念なことです。

今回の連載記事では、学校教員の新任一年目に着目し、どのような問題が教育現場で起こっているのか考えます。実際に新卒で首都圏の公立小学校に勤務経験があり、心身ともに不調となった過酷な勤務を経験しているAさんからお話をお伺いしました。学校教員1年目の苦悩は、どこからくるのでしょうか?学校現場の「リアル」な実情をお伝えします。

学級運営をする上で最も重要な「黄金の三日間・一ヶ月」

編集部:Aさんは、大学卒業後、そのまま学校の先生になったんですか?

Aさん:はい、そうです。新卒採用で小学校の先生になりました。配属校が決まった後、着任前に担任を受け持つことは知らされていたのですが、実習の経験だけでいきなり学級担任という重役が務まるのか、とても不安でした。

編集部:そうなんですね。働き始める際に不安があることは、どんな仕事に就く際も同じだと思うのですが、学校ならではの特殊な事情というのは、何かあるのでしょうか?

Aさん:学級運営をしていく上で一番重要とされる時期は、「4月」と言われています。この時期をどう過ごすかによって、一年間の良し悪しが決まるとも言われています。その重要性を表した言葉として、「黄金の一ヵ月」や「黄金の三日間」と言われることさえあります。

働くことすら初めてで、どこに何があるかさえ分からないときに、この大変重要な期間がやってきます。4月1日に着任してわずか1週間程度で子どもたちが登校してくるので、その後はベテランであっても、新卒であっても、変わらないパフォ―マンスを求められることが、相当なプレッシャーでした。

編集部:「黄金の三日間」「黄金の一ヶ月」は、初めて聞きました。何事も初めが肝心とはよく聞きますが、子どもたちと信頼関係を築いていく上で、初めの時期は確かに重要ですね。とはいえ一週間という時間があれば、他の先生と相談したり、心の準備をする時間はあるような気がしますが。

Aさん:「4月」は、学校全体としても年度初めの時期です。体制が変わり、ただでさえバタバタとしている中で、前年度からの引継ぎや、今年度の計画などについて、ありとあらゆる会議があり、時間が相当割かれます。自分の学級の準備だけをしていれば良いというわけではありません。

この時期に発生する、学級運営以外の仕事内容をざっと挙げてみますと、「職員室の机の移動」「前年度の担任教諭から、子どもの情報の引継ぎ」「入学式の段取りの確認、会場設営」「校務分掌の担当決め、前年度からの引継ぎ」「学年で使用する副教材(漢字や算数のドリルなど)の決定・注文」などがあります。業務の大小はありますが、これらのことが次から次へとやってくる忙しさ、慌ただしさは新年度ならではです。年間の中でも特に忙しい繁忙期が年度初めにやってくるので、学校全体としても慌ただしく、初任者に対してのサポートが十分とは言えません。

編集部:なるほど。採用されていきなり繁忙期とは確かに辛いですね。学校全体としても慌ただしいのなら、何かわからないことがあっても聞きづらそうですね。

Aさん:そうですね。忙しい先生たちを見ると、何か聞いたり、お願いしたりして、自分のために時間を使ってもらうのが申し訳ない…と思うことはよくありました。あとは、初任者がよく陥りがちなのが、「分からないことが分からない」という状態です。当然全てが初めての経験で、何が必要なのかそもそも分からないので、何を聞いていいのかすら分からないのです。漠然とした不安を抱えたまま、学級担任として責任をもち、一年間子どもと過ごす生活が始まると思うと、ワクワクした気持ちよりも、不安や怖いという気持ちの方が大きかったです。

編集部:少しでも不安を解消して、子どもたちと新年度をスタートさせるにはどうしたらよいか、何かコツなどはあるのでしょうか?

Aさん:矛盾しているかもしれませんが、周りの先生を「自分から」頼りに行くということです。残念ながら、初任者を慮ってサポートするほどの余裕は、周りの先生方には無いです。誰かのサポートを受身で待っていてはダメです。新学期が始まれば、子どもたちが頼りにするのは自分であるので、不安を抱えたまま教壇に立ってはいけないなと。「なんだか不安だな」という気持ちは全て口に出して相談しましょう。私の場合も、自分から頼れば、力になってくれる先生は何人かいました。

子どもにとっての「4月」という時期とは?

編集部:初任者、学校全体にとって「4月」が一番の繁忙期であることはわかりました。一方、学校に通う子どもたちにとって、「4月」はどんな時期なのでしょうか?

Aさん:「4月」は子どもにとって、精神的に負担のかかる時期です。新しい友達、新しい先生、新しい学習内容など、新しい環境に慣れていくのに精一杯であり、大きな不安を抱えています。その影響が子どもの行動に直接表れることもあります。その一つが「登校しぶり」です。励まして何とか登校できる場合もあれば、前年度の学級の複雑な人間関係を引きずっていたり、もともと不登校ぎみだったりすることもあります。心の問題なので、原因によっては対応の仕方にとても神経を使います。

編集部:なるほど。前年度の事がよくわからず、かつ自分も余裕がない状態で、いきなり繊細な対応が求められるのは確かに辛いですね。そのような問題が起こった時に、周りは助けてくれるのですか?

Aさん:「登校しぶり」のような難しい問題は、「自分ひとりで抱え込まない」のが鉄則です。まずは学年主任に相談し、場合によっては管理職にも相談します。「どうしよう」と悩んだらすぐに相談することを心がけてください。自分の学級の問題だから自分が解決しなくては…と抱え込む必要は全くありません。新学期が始まる前に、登校しぶりの子がいたらどうするべきか?を事前に確認しておくのもいいと思います。

編集部:「登校しぶり」以外に、子どもの対応で難しさを感じた場面はありますか?

Aさん:子どもが先生を試してくる場面です。4月に着任した新しい担任の先生に対して、子どもはとても興味があります。心から信頼して頼ってよい存在なのか、どんなときに怒るのか、気になります。そこでわざと先生を困らせるような発言や行動をして、先生がどう出てくるか見ている場合があります。実際私も、子どもたちに試されているかも…と思ったことはありました。これを逆手にとって子どもの信頼を勝ち取れるといいのですが、初任者にとってはかなり高いハードルだと感じます。

編集部:「試されている」と分かればまだ対応ができそうですが、余裕がないとそれすら気づかずに過ごしてしまいそうですね。指導法のコツはありますか?

Aさん:もし子どもが試すような行動をとってきたら、毅然とした対応をすることが必要です。そのために、自分の中で指導の基準を持っておくことが重要だと考えています。例えば「時間を守る」ということについて。もし、授業開始の3分遅れで教室に入ってきた子どもがいたら、どうしますか?ここで、「3分くらいだからいいか」とスルーすると後が大変です。「先生がスルーした=先生が認めた」ことになります。次に5分遅れ、10分遅れて…とだんだんひどくなります。10分遅れでやっと注意するとどうなるでしょうか?「3分ならいいのになぜ10分はダメなのか」「あの子は遅れても注意されなかったのに私には注意した」と不満を持ち、子どもとの信頼関係を築くのが難しくなっていきます。

編集部:子どもって、大人が思っている以上に、大人の行動や言動をよく見ていますもんね。

Aさん:そうですね。矛盾していることや一貫性のないことには、子どもたちは敏感です。特に高学年になるとそれが顕著になります。自分にも子どもにも分かりやすい指導の基準をもって、ブレずに、何度でも伝えていく根気強さが本当に必要です。信頼を築くのはウルトラCの画期的な方法があるのではなく、こうした小さな積み重ねだということが、痛いほどわかりました。

有難うございました。次回も引き続き、「一年目」にスポットを当てながら、教員として感じた難しさや問題点などについて、お話を伺っていきたいと思います。

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