ひみつ基地

2017年12月号 vol.58

貧困状態の子どもに立ちはだかる「10歳・小4の壁」-自治体に眠るビッグデータから読み解く「子どもの貧困」

2017年12月08日 17:33 by editorial_desk

平成26年1月に「子どもの貧困対策の推進に関する法律」が施行されて以降、全国各地で「子どもの貧困」に関する調査が活発化しています。11月19日に国際フォーラムで行われた「日本財団ソーシャルイノベーションフォーラム2017」の中で、家庭の経済格差が子どもの成長に与える影響について、「貧困状態の子どもの学力は10歳を境に急激に低下する」「低学力のまま年齢が上がると、学力を高めることが難しくなる」といった国内での先駆的な研究の報告が行われました。

自治体の情報を統合した「子ども成長見守りシステム」

今回の調査は、大阪府箕面市が構築した「子ども成長見守りシステム」から得られたデータをもとに行われています。本システムは、市内に在住する0歳~18歳の全ての子ども(約2万5千人)が登録されており、各部署でそれぞれに管理されていた子どもの情報を個別に統合し、追跡での調査を可能としたものです。生活保護・就学援助等の行政情報、学童・スクールソシャワカーカーの利用等の教育施策情報、学力・生活週間といった情報を個別に確認することができるようになっています。

新たに調査を行おうとすると、多くのコストが生じますが、各自治体が元々保有しているデータを活用するため、一度、システムを構築すれば、新たな調査のコストが生じません。また、困難とされていた子どもが成長した後の状況を知る追跡調査も行いやすくなり、施策の効果測定も正確に行うことができます。学力、生活習慣、経済状況等を踏まえ支援が必要な児童を抽出できることも非常に有意義です。


日本財団・家庭の経済格差と子どもの能力格差の関係分析(速報版)より引用

貧困状態の子どもたちの学力は、いつから差がつくのか?

今回の調査の分析結果から、経済的に困窮している家庭の子どもと、そうではない家庭の子どもがいつ、どのように、差が生じるのか具体的な知見が得られました。貧困の連鎖を断ち切るうえで、教育の重要性はこれまでも指摘されていますが、何歳からその差が広がるのかこれまで明確にはわかりませんでした。今回の結果を見ると、9歳まではさほど差がないものの、10歳・小学4年生時点では明らかな差が生じています。学習や運動面でつまづきが増えると言われていた「10歳・小4の壁」は、実際に経済的に困窮している家庭の子どもたちの壁となっていたということになります。


日本財団・家庭の経済格差と子どもの能力格差の関係分析(速報版)より引用

「子どもの貧困」対策として無料塾等で受験期の子どもたちの学習指導を行っている方のお話を伺うと、「わからなくなったところまで遡って教えていく必要がある」という話をよく聞きます。以前に学んだことを土台に、次の内容について学んでいくため、できない・わからないを放置していると、どんどんそれが積み重なっていってしまいます。

調査結果から見ると、困窮していない世帯は、年齢が上がるにつれて学力が上昇する一方で、貧困世帯の平均的な学力は低下しています。また、学力が低い状態のまま年齢・学年が上がってしまうと、低学力が固定化していってしまうことがわかります。

日本財団・家庭の経済格差と子どもの能力格差の関係分析(速報版)より引用


日本財団・家庭の経済格差と子どもの能力格差の関係分析(速報版)より引用

早い段階での「非認知的能力」の育成が重要

今回の調査では、学力などの測定可能な力の「認知能力」の発達を促すとされている「非認知的能力」についても分析されています。非認知能力とは、忍耐力や協調性、自尊心などの個人の特性を指すものです。調査によれば、経済的に困難を抱える家庭と、そうではない家庭を比較すると、基礎的な非認知能力に関わる点について、小学校低学年時点から一定の差が生じていることがわかりました。また、学習習慣に関する点や、先生や友達との関係に関する点においては、年齢・学年が上がるにつれて、差が大きくなっています。

一方で、貧困状態にある子どもであっても、学力の高い子については、生活習慣や学習習慣が定着していたり、思いを伝える力が高水準となっていることがわかりました。ノーベル賞受賞者のHeckmanらの長期追跡調査の分析によれば、非認知能力がその後の認知的能力の発達を促し、その逆は確認できないとされており、早期に生活や学習の習慣を身につけていくことが学力の向上にも重要だということになります。

日本財団・家庭の経済格差と子どもの能力格差の関係分析(速報版)より引用


日本財団・家庭の経済格差と子どもの能力格差の関係分析(速報版)より引用

「子どもの貧困」に対して、より効果的な施策を進めるために

貧困の連鎖を絶つために、教育が重要であることは、多くの支援組織での共通の見解となっています。中学3年生、高校3年生などの受験が近くなってからの学習支援も必要ですが、一方で家庭とも連携を図りながら就学前後の早い段階から生活や学習の習慣を身につけられるようなサポートが必要となってきます。先述した通り、子どものわからない・できないを放置した状態で、年齢や学年が上がっていってしまうと、授業の進捗にもついていくことが難しくなり、本人の意欲もどんどん減退していってしまい、「自分には無理なことだ」と認識してしまうことは、容易に想像がつきます。多くの学校での授業時間が無駄な時間とならないようにするためにも、早期のサポートは不可欠だと考えられます。

自治体には、「子どもの貧困」の解決を図っていくために必要な重要情報が集まってきます。個人情報の保護について配慮しながらも、箕面市のようにいわゆる縦割りを超えた連携によって、社会課題の解決に必要な蓄積されたデータが活用されていくことは、自治体がより効果的な施策を実施していくために重要な取り組みです。今後、このようなシステムが他の自治体にも広がることで、地域の特性なども踏まえた比較ができ、より具体的な検証ができるようになると考えられます。

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