Eduwell Journal

2018年2月号 vol.60

全国の求人倍率が1.0倍超なのに、まだ地方に仕事がないの?-地方に足りないのは、「そこそこ生産性の高い仕事」

2020年03月09日 12:50 by shoko_hatano

数年前から盛り上がっている地方創生ブーム。それに伴い、地方移住を促進する動きが続いていますが、地方移住で最もネックと言われるのが仕事です。移住を考えたものの、仕事が見つからないという理由で踏み切れない人も多いのではないでしょうか。

一方で、2017年の平均有効求人倍率は1.50倍。都市部だけのことではなく、全ての都道府県で有効求人倍率が1.0を超えています。求人はあるのに、どうして「仕事がない」と感じてしまうのでしょうか?

実は私自身、東京という街の暮らし難さが我慢できなくなり、昨年10月に宮崎県日南市に移住しました。今回は、自分が移住してみて思ったことや、移住した日南市の取り組みをご紹介したいと思います。


(宮崎県日南市・南郷道の駅オーシャン広場)

地方に足りないのは、「そこそこ生産性の高い仕事」だった

地方の「仕事のなさ」について、正社員の求人が少ないとか、給料が安いとか、色々な切り口で語られてきましたが、生産性の高さで考えるのが一番分かりやすいかな、と思っています。「生産性」とは、ざっくり言えば「時間あたりで生み出せる価値」です。生産性が高い仕事であればあるほど、難易度は増し、高い能力が求められ、高い報酬が得られます。もちろん、地方にも医師や弁護士といった高度専門職や、世界シェアNO.1の技術を持つ会社の社長など、生産性の高い仕事をしている人たちはいます。ただ、そこまでではない、という人のための「そこそこ生産性の高い仕事」がないのです。

「そこそこ生産性の高い仕事がない状態」とはどういうことか。具体的な仕事で例えると、色々と気を遣うので、部活で例えてみます。

あなたは、小学校から野球をしていて、高校でも野球部に入ろうと考えています。プロを目指すほどではないので、甲子園常連校みたいなところには入れません。そこまで練習に時間も労力もかけられないし、そんな強い学校に集まってくる選手を押しのけてレギュラーを取り、試合に出られる気もしません。かと言って、常に1回戦負け状態の部で負け続けるのも嫌です。野球に打ち込めるのも高校までだと思うので、自分に合ったレベルのチームで、それなりに頑張って、勝ったり負けたりしたいと思っています。

さて、私は野球はやりませんが、野球に限らずこのくらいの感覚で部活に取り組む人は少なくないでしょう。しかし、人口の少ない地方になると、甲子園常連の私立高校と、1回戦負けの公立高校しかないかもしれません。結果として、高校に野球部はあるけど、(入りたい野球部じゃないから)入らない、ということが起きます。

これが、「地方に仕事がない」の正体ではないかと思っています。

そこそこ生産性の高い仕事があると、少しずつキャリアアップできる

ここまでの話で、「そこそこを目指すなんて、志が低すぎる!みんな甲子園を目指せばいいじゃないか!」そんな声が聞こえてきそうです。地方移住でいうと、「地方に仕事がない?起業すればいいじゃないか!」という感じですね。よく聞くフレーズです。

起業促進すること自体は否定しませんが、「そこそこ生産性の高い仕事」があるということは、その地域の仕事の難易度にグラデーションがあるということです。

Lv.5の一回戦負け高校と、Lv.100の甲子園常連校だけでなく、Lv.20とか、Lv.50とか、色々なレベルの高校がある、ということになります。多くの人は、Lv.5から急にLv.100にはなれません。レベルを着実に上げていくためには、そのレベルに沿ったミッションをクリアする必要があります。

東京は単純に求人が多いだけでなく、あらゆるレベルの仕事があります。多様なレベルの仕事があるということは、自分のレベルに合わせて経験を積み、ステップアップしていけるということです。いくら求人があっても、その求人がLv.5とLv.100だけだったら、Lv.50の人は躊躇してしまいます。

さらに、この生産性という縦軸の選択肢の豊富さに加えて、東京は横軸(=仕事や職種の種類)も豊富です。部活で言えば、ハンドボール部もあれば演劇部もあれば茶道部もある、といったところでしょうか。そして、そのそれぞれで、Lv.5の部もLv.20の部もLv.100の部もあるのです。

単純な数ではなく、種類に注目して企業誘致をした日南市

私が移住した宮崎県日南市は、商店街の再生と、IT企業の誘致で話題になった地域です。

2013年に、当時33歳の若さで当選した崎田市長、そして、市長が民間から登用したマーケティング専門官の田鹿氏の下、「日本一組みやすい自治体」としてIT企業の誘致に取り組んできました。2016年4月に1社目がオープンして以降、今は準備中も含めて14社が進出を決定しています。

ITベンチャー企業の誘致なので、従来の工場の誘致のように、数百人規模の雇用が一度に生まれる、というわけではありません。日南市が行っているのは、「事務職」の誘致なのです。

地方での「事務職」の仕事は、市役所や銀行など、一部に限られます。冒頭で、有効求人倍率が1.0を超えていると書きましたが、職種別に見ると実は1.0を超えている職種と、超えていない職種があるのです。地域によって差はあると思いますが、事務職においては、日南市の有効求人倍率は0.7。つまり全く足りていないのです。

一方、企業にどんなメリットがあるかというと、端的に言えば「採用」です。東京も圧倒的な人手不足で、ITベンチャーともなると、なかなか優秀な人が来てくれず、採用に苦労しているところは少なくありません。しかし、地方に行けば、まだまだ採用の余地があります。

もちろん、事務職の仕事が少ないということは、事務職の経験がある人も少ないということ。東京のような即戦力は難しいかもしれません。しかし、採用するにあたっての競合が少なく、転職リスクも都市部に含めて低いため(転職先となり得る競合も少ない)、採用コストを抑え、それを研修費に回して育成すればよいのです。

(日南市で初のIT企業のポート株式会社。宮崎県・日南オフィスの様子)

地域の人材・教育の力で、企業を集めることができる

「仕事を作れば、人が戻ってくる」という発想で、企業誘致を進める自治体は多くあります。一方で、「採用したい人がいれば、企業の方が来る」ということが起きています。卵が先か、鶏が先か、という議論にはなりますが、実際に地方にサテライトオフィスを作ったものの、人が採れなくて困っている、という企業の話も聞きます。企業誘致をするにあたって、地元にはどんな仕事へのニーズがあるのか、また、どんな仕事への適性がある人材がいるのか、調査した上で誘致する企業の業種や職種を検討する必要があるでしょう。

また、この時に重要になるのが、地元の教育機関(主には高校や大学、職業訓練校等)だと思っています。何も、東京の人材に匹敵するようなグローバル人材を育てなければいけない、というわけではありません。地元の産業や仕事に貢献できる人材を育てれば良いのです。

私が勤めるポート株式会社は、就職活動生向けの情報サイトを運営しており、日南オフィスで働くスタッフの大半が、そのサイトに掲載する記事のライターをしています。IT企業というと、エンジニアやプログラマーなどの専門職がイメージされがちですが、ライター職ですので、必要なのは文章力や、タイピングの速さだったりします。

人の動きは正直です。魅力のあるところに人は集まり、魅力のないところから人は出ていきます。地域が魅力的な人材を育てれば、魅力的な仕事が生まれ、さらに魅力的な人が集まり、魅力的な仕事が集まってくるでしょう。外から人や企業を呼ぶことばかりが注目されますが、中と外の相乗効果によって、地域の仕事は魅力的になっていくものと思います。そんな渦中に興味のある方は、日南でお待ちしています。

教育・研修プランナー 川原祥子

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