Eduwell Journal

2013年09月号 vol.7

今なお続く被災家庭からの悲痛な声-被災地で急速に広がっている「子どもの貧困」とは?

2020年05月23日 21:58 by yusuke_imai



東日本大震災から2年半が経過しました。今回は、被災地のことについて書きたいと思います。

私たちチャンス・フォー・チルドレン(CFC)は、阪神・淡路大震災の被災児童支援を原点とするNPO法人ブレーンヒューマニティー(BH)を母体に設立した団体で、東日本大震災を契機に一般社団法人チャンス・フォー・チルドレンとしてBHから独立しました。また、私自身も神戸市の出身で小学2年生のときに震災を経験していることもあり、被災地の支援に対しては個人的にも特別な思い入れがあります。

被災地で起こっている問題は被災地だけの問題ではない

さて、時間が経過するごとに震災関連の話題は少なくなっていますが、被災地ではまだまだ多くの課題が残されています。

ここで誤解を恐れずにいうと、「被災地で起こっている問題は被災地特有の問題ばかりではない」ということです。むしろ、被災した地域が抱えている課題の多くは、現在日本全国で既に起こっている課題であったり、あるいは今後10年間のうちに日本全国で起こり得る深刻な課題が非常に多いと言えます。このような日本全国で起こっている(または起こり得る潜在的な)課題が、震災を契機に一気に表面化した状態だと言ってもいいのではないかと思います。

震災によって起こる「子どもの貧困問題」。貧困は次世代に連鎖する

被災地において、私が一番の課題と捉えているのは、今急速に広がりつつある「子どもの貧困問題」です。

震災によって、子どもたちは親や家族を失い、友達を失い、家や大切にしていたモノを失いました。子どもたちの精神的なダメージは本当に測り知れず、長期的なケアが絶対的に必要です。

しかし、震災で失ったものはこれだけではありません。非常に現実的な話をすると、子どもたちは大切な人やモノと同時に「お金」を失いました。もちろん「お金」がすべてではありません。でもなぜここで「お金」を強調するのか?それは、物質社会の日本において、「お金がない」という状況が、子どもたちから様々な機会を奪い、結果的に子どもたちから人や地域とのつながりや将来の可能性といった大切なものを次々に奪っていくからです。

そして最も恐いことは「貧困が次世代に連鎖する」ということです。「貧困の連鎖」は既に日本国内で起こっている問題です。貧困家庭に生まれた子どもたちは、様々な機会や人との繋がりを失い、低学力・低学歴を生み、不安定な就業を生み、社会的な排除にあい、最終的には生まれてくる次世代の子どもも不利な状況から人生をスタートしなければならない構造が出来上がっています。

今、子どもの貧困問題が最も深刻化しているのは被災地ではないかと思います。

被災家庭から届く悲痛な声

被災家庭からは震災から2年が経った今なお次のような声が届いています。


『現在、私には高1、高2、高3の子どもがおります。高2の息子は「家計に迷惑をかけられない」と、就職することに決めました。高3の長男と高1の長女はできれば進学をしたいと言っております。震災で家族全員、職場が流されてしまい、祖父母の収入は年金とわずかの給与収入だけになり、我々夫婦の収入だけでは6人生活していくので精いっぱいで学習塾に通わせてあげる余裕がありませんでした。先日、学習塾の体験学習に友達に誘われていきましたが娘は「授業料が高いので遠慮する」と言っていたので、申し訳なく思っていました。』


子どもたちを見ていて、強く感じるのは、特に中学生以上の子どもたちは、家庭の経済状況に対して非常にセンシティブであるということです。子どもたちは、自分の家庭が経済的に苦しい状況にあることがよくわかっています。優しい子ほど、やりたいことを我慢します。そして、親も子どもが我慢していることをよくわかっています。でもお金がないから親はどうしてあげることもできません。

今なお、われわれの東北事務局に被災家庭から、「助けてほしい」という声が届くことには、このような背景があります。

また、仮設住宅で暮らしている子どもの状況も深刻です。次のような声も届いています。
 

『現在プレハブの仮設住宅に暮らしていますが近隣の住人から、うちの部屋の明かりが隣のお宅にもれ「明るくて寝れない」と苦情が。なので仮設では夜遅くまで勉強することができず、息子も悩んでいます。親として勉強のできる体制を整えてやりたいのですが、今の家庭状況では塾へ通わせることもできず。このままでは震災を理由に自分が進むべき進学の道をあきらめてしまうのでは?と、とても心配です。私たちのように仮設で勉強できずに悩んでいる子供たちがたくさんいらっしゃいます。』

 


『私の家族は何とか九死に一生、紙一重で生きられました。しかし残ったものは何もなく、もちろん家・家具自体ないし、車2台、バイク1台、物置4件、牛4頭、畑・水田合わせて4.5ヘクタール失いました。大切な思い出や趣味で集めていたものも何一つありません。狭い仮設住宅では騒げば怒られるし、知らず知らずに子供たちもストレスがたまっています。』


被災地はもうがれきも撤去されて、復興に向かっていると思われている方もいらっしゃるかもしれません。しかし、未だに壁の薄いプレハブの仮設住宅で暮らしている人たちがたくさんいて、様々な課題が表面化しています。



学力テストの結果にも影響


このような生活環境の悪化は、子どもたちに多大な影響を及ぼします。ちょうど先日、平成25年度の「全国学力テスト」の結果が公表されましたが、最も大きな震災の被害を受けた宮城県の結果を見ると、小中学生のテストの平均点は全国33位と、前年の17位という結果から大幅にダウンしました(単にテストの順位を県別に並べることに対して色々と思うこともありますが論点が違うのでここでは触れません)。特に小学生では全科目で正答率が低下しており、県の教育委員会も震災の影響が出始めた可能性も考慮して原因分析を進めています。

結果の概要を詳しく見てみると、「学校の授業の内容がよくわかりますか?」という質問に対して「YES」と答えた小学生の割合は、平成24年度までは国語・数学ともに全国平均以上だったのに対して、平成25年度では両科目ともに全国平均を下回っています。私は、少なからず震災による生活・学習環境の悪化や教育機会の喪失が要因の一つなのではないかと思います。

このように被災地では、震災による経済的なダメージや生活・学習環境の悪化によって既に子ども達は学力低下の傾向が見えてきており、「貧困の連鎖」が起こる危険性を強く感じています。

ちなみに、CFCでは震災から2年以上が経過した2013年5月に、被災3県を中心に支援を受ける子どもたちを募集したところ、97名の応募枠に対して1200名以上の応募がありました。
 
CFCのような小さな団体では十分な周知ができていない状況を考えると、被災地では、潜在的にはこの数倍の経済的困窮状態の子どもたちがいることが予想できます。

被災地で「貧困が連鎖しない社会の仕組み」をつくる
 
非常に暗い話になってしまいましたので、最後に少し前向きな話をします。最初に、「被災地の課題は被災地特有のものではない」と言いました。この問題は日本全国で起こっています。視点を変えると、被災地において「貧困が再生産されない社会の仕組み」を作ることができれば、日本全国の「子どもの貧困問題」も解決できるということです。私たちが被災地の課題解決に力を注ぐその先には、日本の「子どもの貧困問題解決」という大きな目標があります。

とは言いつつも、まずは目の前の子どもの支援に全力を注ぐことが第一です。「人が育つ」ということは、「地域が育つ」ということ。地域を作っているのはその地域の「人」だからです。「被災地の復興」って、とても難しい言葉ですが、結局はそこにいる人たち一人ひとりを支えること、次に生まれてくる子どもたちを支えることなんじゃないかと思っています。

微力ながら、被災地の子ども達の支援にこれからも死力を尽くしていきたいと思いますので、ぜひ、応援をよろしくお願いします。

Author:今井悠介
大学在学中に、不登校児童等の支援に携わる。卒業後、株式会社公文教育研究会(KUMON)に入社し、子どもの学習指導や学習教室のコンサルティング業務に従事。東日本大震災後、チャンス・フォー・チルドレンを設立し、代表理事に就任(2014年に内閣総理大臣の認定を受け、公益社団法人化)。全国子どもの貧困・教育支援団体協議会幹事を兼務。共著「東日本大震災被災地・子ども教育白書2015」。

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