ひみつ基地

2018年2月号 vol.60

子どもが暮らす「まち」に働きかけるソーシャルワーク-子どものケアに留まらず、仕組みにアプローチしていくこと

2018年02月14日 17:27 by takuya-murai

2013年に子どもの貧困対策の推進に関する法律ができて、早5年。NPO法人「山科醍醐こどものひろば」(京都府京都市山科区)の地域における子どもの貧困問題への実践も8年目となります。

私たちが子どもの貧困対策への取り組みを始める前から、各地で実際に困難を抱えた子どもに関わり続けていた方々もたくさんいらっしゃいますが、改めて「子どもの貧困対策」という言葉をつけて実践したことで、注目もされるようになりました。また、「自分たちの地域の中で同様に活動をしたい!」というご相談もたくさん受けました。


(「山科醍醐こどものひろば」での生活支援プログラムの様子)

「子どもの貧困」に関する様々な活動が生まれた5年間

この5年近くの間に全国各地で問題意識を持った方々の動きのおかげで、多くの活動が生まれました。結果として、各地での活動に注目が集まり、特に「子ども食堂」については、多くの方に知られる言葉にもなってきています。そして、まだわずかですが、社会に向けて、現在の貧困状態について周知され、自己責任に解決を求めるのではなく、それぞれの人権を脅かす現在の社会システムへの批判と、再構築を呼びかける動きも生まれています。

もちろん、以前より地道に取り組まれてきた方々もいらっしゃいますし、その土台があるからこそ、周知・啓発が徐々に生まれてきているのだと思います。これまであまり行われてこなかった実態調査や数々の「子どもの貧困」に関する専門書の出版、また、全国各地で毎日のように講演会なども開かれています。そのことにより、「子どもの貧困」に向き合うにあたって、地域の中での子どもや家庭へのケアに対するアクションの充実と、問題を引き起こす原因を社会・環境側に捉える必要性も語られるようになりました。

支援は増えても変わらない子どもたちの状況

しかしながら、直接的なケアについては、個々の話として理解されても、大きな仕組みの話として議論すると、「自己責任」や「親の責任」が表出し、支援の変化を停滞させています。研究・調査の結果としての理屈は、正しいのですが、日々忙しく暮らしている一般家庭からすると「私たちもしんどいのに!」という思いも強く、支援への理解や納得を得ることが難しいと感じる場面も多くありました。

あわせて、活動は増えてきているけれど、けして次々と出会う子どもの状況は変わっていません。政策的に作られる「居場所」を、子どもたちが居場所と感じることができずに「近づかない」「定着しない」というような声も聞こえてきました。「ケアも不十分」「制度や仕組み的な変革も納得してもらえない」という状況です。

「支援や仕組みの型や枠組みは出来ても、十分に機能できていない」という声を聞く中で、子どもが暮らす「まち」と子どもとの出会いをどのように構築していくのか?また、その子どもが抱える困難と、その困難が与える子どもへの影響について理解を深めていくのか?問題の解決に向けて、実際にどのようなアクションをしていくのか?という一連の流れについて見直しが必要だと感じています。


(「山科醍醐こどものひろば」での学習支援プログラムの様子)

共に解決策を考えて作っていくこと

今、まだ活動がないのであれば、地域の力を集結して構築していくことや、政策的不備であるなら提案していくこともこれまで以上に必要になっていきます。まちの皆さんの納得ともに進めていくためにも、一部の専門家や団体だけではなく、共に解決策を考えて、作ってくことが必要です。

NPO法人「山科醍醐こどものひろば」では、「地域のすべての子どもたちが、心豊かに育つ社会環境・文化環境を実現する」ことを目指し、「子どもを変える・育てる」ことへの働きかけではなく、環境側に働きかけ、「子どもが育つ」を応援してきました。これは仕組みというよりは、その思いをどのような眼差し、言葉がけ、姿勢、振る舞いといった一人ひとりの行動から活動まで浸透させることができたら良いという文化づくりでもあります。

社会の仕組みを変えていく、新しい仕組みを選択していくといっても、選ぶのは市民の皆さん自身でもあります。だからこそ、地域の子どもたちとの活動を通じながら、改めて何を大事にしていくのかということを考えていくことが必要なのだと感じています。


(全国各地で「子どもの貧困」に関するシンポジウムや研修が行われています)

まちの子どものソーシャルワーク

今後の「子どもの貧困」対策には、子ども・家庭との出会い、ケアだけに留まらず、子どもが暮らす「まち」、そして、仕組みへのアプローチを意識していくことが必要となります。また、仕組みが機能していうためには、活動を動かす人のあり様、まちの文化への働きかけまでもが求められているのではないかと考えています。

これまで述べてきた想いから「まちの子どもソーシャルワーク」を2018年1月下旬に出版いたしました。前回の「子どもたちとつくる貧困とひとりぼっちのないまち」を出版したときと同様に、幸重忠孝さんとの共著となります。

ソーシャルワークの実践や理論を踏まえつつも、専門的な知識がなくても読みやすいように、専門用語をできるだけ使わず書いたつもりですので、気軽に手にとっていただければ幸いです。

NPO法人山科醍醐こどものひろば 理事長 村井琢哉

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