ひみつ基地

2018年2月号 vol.60

小さく産まれた「子どもの貧困対策法」を大きく育てるために(前編)-成立から5年!「子どもの貧困対策法」ができるまで

2018年03月12日 11:38 by editorial_desk

「子どもの貧困対策法」が成立から2018年6月で5年を迎えます。今回は法律ができるまでにどのようなことがあったのかについて、対策を推進する「公益財団法人あすのば」代表理事の小河光治さん、副代表理事の村井琢哉さんにお話を伺いました。


小河光治=写真左=
1965年、愛知県生まれ。8歳の誕生日に父が交通事故にあい8年間、寝たきりの末、他界。交通遺児育英会と日本育英会の奨学金で進学。大学卒業後、あしなが育英会に専従。26年間の勤務後、2015年に公益財団法人あすのば代表理事に就任。内閣府「子どもの貧困対策に関する検討会」構成員(2014年)。

村井琢哉=写真右=
1980年、京都府生まれ。子ども時代より「NPO法人山科醍醐こどものひろば(当時は山科醍醐親と子の劇場)」に参加。学生時代はキャンプリーダーや運営スタッフを経験し、常任理事へ。2013年より同団体の理事長を務める。2015年に公益財団法人あすのば副代表理事に就任。京都府子どもの貧困対策検討委員。


「地域で子どもたちをどう見守っていくか」がはじまりだった

村尾:よろしくお願いします。まずは「子どもの貧困対策法」ができるまでの経緯やきっかけをおうかがいしたいと思います。

小河:2009年秋に民主党政権に変わって、はじめて子どもの貧困率が発表されました。それを受けて、親を亡くした学生たちが7人に1人という数字の高さに「親を亡くした子どもの支援のレベルじゃない」と、対策法の成立を呼びかけたことがひとつのきっかけです。

当時、私は神戸に勤務していたのですが、その時から与野党を超えた議員の検討会が開かれていたと聞いています。

村井:代表をしている山科醍醐こどものひろばでは、地域で子どもが豊かに育つ環境づくりをしてきていました。そのなかで、集団行動やコミュニケーションが苦手な子ども、不登校・いじめ・発達障害などに対して個別に関わる活動が行われてきました。

それらの背景には、ひとり親で子育てをしていて、収入を得るための仕事に時間を割くことで親子のコミュニケーションがなかなか取れず、最近は子どもが学校にも行けていなくて・・・という話もありました。

「週末だけじゃなくて、平日にも活動があれば嬉しいな」というお母さんの声から、週に一回でもその子と一緒にご飯を食べてみようかと2010年から夜の子どもの生活支援の活動がはじまりました。

同時に、そういった状況に陥らないためには社会で子どもの貧困を理解してもらう必要性も感じていました。同じ時期に活動の延長線で、子どもの貧困についての発信もはじめました。

小河:学生たちが呼びかける集会は、2010年に発足した研究者や市民団体などによる「なくそう!子どもの貧困」全国ネットワークと一緒に開催していました。

村尾:当時、私は大学生で仲間たちやネットワークのみなさんと「署名も集めると良いんじゃないか」と話していことなどを覚えています。

村井:2012年夏にはネットワークが京都で集会を開き、僕たちはその実行委員会を担いました。その時に、ふとしたきっかけで生まれたのがヴィジュアルノベル「仁の物語」です。

村井:僕たちは地域で活動をやっているので、経済的に苦しい環境にある子どもたちに同じような場所が増えていったら良いなという発信が中心でした。大きく子どもの貧困を語るのではなく、まずは地域で子どもたちをどう見守っていくか。そのなかで共感が生まれて、発信力を高めていくことができました。

対策法の成立は、今までの運動やアクションの積み重ねがあったから

小河:私にとっては、2011年に起きた東日本大震災が大きな出来事でした。被災地のシングルマザーが「私は、震災で死んでいれば良かった」と語った記事を読んだ時、大きなショックを受けました。

震災で大切なお父さんやお母さんを亡くした子どもたちに支援が集まる一方で、元々ひとり親家庭で育ってきた子どもたちには、ほとんど何も支援がない状態でした。いたたまれない気持ちでいっぱいになりました。

村井:民主党政権に変わった時代は、「年越し派遣村」をはじめとする反貧困の運動に焦点が当たる時期でもありました。従来から行われてきた人権や労働問題に対する運動など、色んなうねりが反貧困という形で表に出てきました。

村尾:2008年のリーマンショックや反貧困の運動、民主党への政権交代、東日本大震災など、実は対策法に色んな源流がありますよね。

村井:色んな源流があって、どれが「子どもの貧困対策法」のスタートなのかは、はっきりしないと思います。学生たちが呼びかけたこともひとつとしてありますが、みんなが「つくろう!」となれたのは今までの運動やアクションの積み重ねがあったからこそだと考えています。

また、当時は子どもという視点では虐待やいじめなどに焦点が当たり、その要因を探っていくと経済的困窮や社会的孤立が背景に見えてきたから「子ども」と「貧困」のキーワードが結びつきやすかった部分もあるのではないでしょうか。

村尾:さらに振り返ると、1990年代のバブル崩壊後に自殺が急増した背景や、格差の広がりや雇用のあり方などが変わる新自由主義への動きにもつながってきます。

村井:そうした時代に生きた子どもたちが大学生に多くなってきたことも、学生たちが呼びかけた背景としてあるかもしれません。バブルの景気で一気に生活の水準が高騰し、習い事や大学へ進学すること、携帯電話やパソコンを持つことなどが「当たり前」になっていった時代です。

それらが「当たり前」として求められるなかで、格差が広がり「選べる・選べない」を実感した子ども・若者たちが多くなり、周りにもそういった同年代が増えていたから声をあげやすかったのかなと考えています。

無い袖は振れない。あくまで対策法の成立はスタートラインだった

小河:2012年冬に自民党へ政権交代があり、2013年に入ってから話が本格的になりました。

正直、対策法の成立は難産でした。当時、関わっていた誰もこれで良しとは思っていなかったけれど、無い袖は振れないので「小さく産んで大きく育てる」という想いがありました。

村尾:2013年春に留学から帰国して、学生の呼びかけも「とりあえずつくる」ことが目的化していることを感じました。

小河:それは事実で、実際に生活保護の切り下げ議論もセットで対策法が成立しました。だからこそ、成立後の動きや今の活動に話がつながっていきます。

村井:十分なスタートではなかったからこそ、どの財源を削る・削らないという議論ではなく、どうしたらその財源を増やしていけるのか。いかに「困っているみんなを受け止めていくか」という理想を、愚直に言い続けて実現していく仕掛けが必要でした―。

「子どもの貧困対策法」は、親を亡くした学生たちが成立を呼びかけたことがひとつのきっかけでした。しかし、掘り下げてみると、バブル期からその景気の崩壊、格差の広がりや反貧困の運動、リーマンショック、東日本大震災など成立までに様々な源流があることを確認できました。そして、課題も残るなかで対策法は成立することとなります。

次回の後編は、対策法ができてからの話を振り返ります。さらに子どもの貧困への理解が深まり、その解決へ向けた一歩が大きく踏み出される1年になることを切に願っています。

>>後編:「子どもの貧困対策法」の成立から5年間のあゆみ

村尾政樹(公益財団法人あすのば・事務局長)

  



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