ひみつ基地

2018年12月号 vol.70

婚姻歴のないひとり親にも寡婦控除の適用を~生きづらさを抱える未婚・非婚の母と子どもたちを支える

2018年12月10日 22:27 by akaishi

ひとり親の家庭等の税負担を軽くするための控除として、寡婦控除というものがあります。結婚しないで子どもを育てている未婚・非婚のひとり親には適用されていません。この状況について、現在、税制調査会でも検討されています。今回の記事では、寡婦控除の問題についてお伝えします。


(ひとり親家庭の親子を対象としたイベントの様子:NPO法人しんぐるまざあず・ふぉーらむ)

ひとり親の家庭等の税を軽減する寡婦控除
 
「寡婦」という言葉を辞書で調べてみると「夫に死に別れて再婚しないでいる女性」と説明されています。この寡婦控除はもともと第二次大戦後、戦争未亡人の方たちが夫を亡くし生活に苦しんでいたことから創設されました。その後、離婚母子にも拡大され、扶養親族のいない死別の寡婦にも拡大されてきました。

税金とは社会のみんなが負担したお金を集め、それを国や地方自治体が学校や保育園や病院をつくったり運営し、みんなが病気になったり働けなくなったときでも困らないように社会保障のためのお金を負担したりするためのものです。負担はその人の税を払う力(担税力)によって多くなったり少なくなったりするように設計されています。

ちょっとだけ税の仕組みをもお伝えしておきます。「所得」というのは、「収入」とはちがいます。給与所得を得ている人の場合は、収入から給与所得控除を差し引いた額(=給与所得)から、さらに様々な控除をひいた額が所得です。所得控除には社会保険料控除、生命保険料控除、配偶者控除、扶養控除といった様々な種類があります。その中の一つが寡婦控除です。自営業の人は、収入から経費を引いたものから、さらに上記のいろいろな所得控除を引いた額が所得です。

この所得に税率をかけると、所得税が決まります。所得によって、保育料が決まったり、介護保険料が決まったり、就学援助がもらえるかどうかが決まったりします。寡婦控除という控除が適用されるかどうかが税金や福祉サービスの利用料などに影響するわけです。
 
では、寡婦控除はどのような人に適用されるのでしょうか。



このうち、「なし」とある部分は寡婦控除が適用されない部分です。未婚(婚姻歴のない)母子家庭の母、父子世帯の父には、寡婦控除が適用されない形になっています。

細かい部分ではありますが、表の中では、「婚姻歴のない」と書いています。「婚姻歴のない」という意味は、結婚後離婚あるいは死別し、その後、結婚しないで子どもを産んだシングルマザーには、寡婦控除が適用されるとなっているので、それ以外の人、ということになります。

控除ができた背景は、「寡婦でひとり以上の扶養親族を抱えているものは、職業選択が制限され、所得を得るために特別の労度を要し、特別の経費を要することが予想される」(議事録から)とされています。

つまり、一人で子どもを育てている人が、職業も限られるなど不利を負うなどの側面があり、税金を払える力が少ないので考慮しようという制度だったと思います。そうであるとすれば、結婚しているかいないかに関わらず、ひとり親は仕事では子育てと両立するために働ける時間も制限されて正社員になりにくかったり、特別の大変さや経費はあるはずです。

(ひとり親家庭の親子を対象としたイベントの様子:NPO法人しんぐるまざあず・ふぉーらむ)

「覚悟してお産みになったから」?

実は、筆者自身も結婚しないで子どもを産んだシングルマザーです。子どもはすでに成人しました。年末調整の時に「寡婦控除」欄にチェックできず、高い税金を払ってきました。まだ、子どもが小さかった30年くらい前のある日、大蔵省(今の財務省)の担当者と団体が交渉する場がありました。

「なんで寡婦控除は未婚の母には適用されないのですか?」
「覚悟してお産みになったからです」
「なぜ、離婚の場合には子どもを扶養している間だけなのに、死別だと終身寡婦控除がつくのですか?」
「亡夫の線香代、亡夫の親族との交際費だからです」

と、言われました。その頃、私は幼い息子と二人で暮らし、保育園で働いていました。給料は10万円ちょっとで、ギリギリだけどその割には楽しく暮らしてはいたのですが、でもこの言葉は本当に悔しかったです。「差別を知っていて産んだんだから、差別を甘受しなさい」と言われているように思いました。

線香代と亡夫の親族との交際費って今考えるとギャグみたいです。どんな高い線香なんでしょうか?いい香りがするのでしょうか?こんな回答しかできない、理屈が立たない対応をさせられる官僚の方々もお気の毒だなあと思ったのは、随分後のことです。

未婚・非婚のシングルマザーに認める「みなし適用」

近年、寡婦控除税制を改正する機運が高まってきました。10年前に3人のシングルマザーが寡婦控除税制の改正を求めて、日本弁護士連合会に人権救済の申立をしました。その後、日本弁護士連合会が寡婦控除税制は、「人権侵害です」「憲法の法の下の平等にも違反します」と認め、税制度を改正しなくても、自治体ごとに「寡婦控除があるとみなして、所得を計算して制度を適用するように」みなし適用を要望しました。

それを受けて、自治体でのみなし適用を求める動きができました。地方議会に陳情を出して、一つひとつの自治体で寡婦控除を婚姻歴のないひとり親を認めるように働きかけました。八王子市、立川市、新宿区と少しずつ自治体が増えていきました。

特に保育料を計算するときに、離婚と非婚では大きな差が出るので、保育料のみなし適用を求めていきました。200近い自治体で寡婦控除を「未婚・非婚のシングルマザー」に認めるようにみなし適用が広がってきました。

議会で審議する時に、「勝手に結婚しないで産んで、家族を崩壊させる」と批判されたこともありました。でも、親の生き方がどうであれ、何も責任のない子どもが差別されないようにして欲しいと伝えました。

そして、2018年には、厚生労働省が子どもや障害に関する25施策について、寡婦(夫)控除の「みなし適用」を実施するように政令を改正しました。また、与党の税制調査会は2018年末、2019年の税制を検討するときに「寡婦控除税制に未婚の母を加えるかどうかを決める」としました。


(ひとり親をサポートするために必要な知識を学ぶ「ひとり親サポーター養成講座」の様子:NPO法人しんぐるまざあず・ふぉーらむ)

調査からわかった未婚・非婚の母と子どもたちの生きづらさ

2018年10月~11月にかけて、93名の未婚・非婚シングルマザーにアンケート調査を実施しました。こんなアンケートはたぶん日本でも初めてだろうと思います。それによると、寡婦控除が適用されないことで、「税金が高くなって困った」人が6割以上いました。また、その結果、子どもたちにお金がかけられず、おもちゃを買えなかったり、狭い部屋に住んでいたり、保育料が高いため払えず、分納している人もいました。子どもを育てながら、負担が重いことで大変な思いをしていました。就学援助を受けられなかった人もいました。

こうした制度について、「差別」と感じている人、「肩身が狭い」と感じている人、「仕方ない」とあきらめている人、「子どもに申し訳ない」と思っている人などがいました。「未婚の母」というだけで、白い目で見られると感じ、知られるのが怖い、相談相手がいない、孤立感がある人が多い。社会的孤立が経済的貧困とあいまって、未婚・非婚の母と子どもたちの生きづらさをつくっていることがわかりました。

寡婦控除税制が未婚・非婚のひとり親にも認められるようになれば、どれだけこうしたひとり親を勇気づけるでしょう。その結果、子どもたちとの暮らしも良くなるだろうと思います。

私たちは少しずつ少しずつ、おかしなこと、困ったことがあれば、改めていけるように、国や地方自治体や議会に働きかけてきました。一つひとつは小さなことですが、結果として「社会は変えられるんだ」「私も変えることができるんだ」と思える人が増えていくことを願っています。

赤石千衣子NPO法人しんぐるまざあず・ふぉーらむ 理事長)

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 2019年度新入学に向けて、入学お祝い金事業を実施
 
 
ひとり親家庭の子どもたちが新入学される際、制服代そのほかの費用で困っておられる家庭が多いと思います。就学援助の入学準備金など、入学前の3月に支給される自治体も増えましたが、それでも費用が不足しているとお聞きします。
 
そこで、今年も「しんぐるまざあず・ふぉーらむ」では、500人のお子さんにお祝い金をお渡しする事業を実施いたします。対象となるご家庭からのお申し込み、ご支援を頂ける形からのご寄付を募集しております。

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