Eduwell Journal

2019年2月号 vol.72

「子どもの貧困対策法」施行から5年。対策大綱の見直しに向けて(前編)-「貧困の子どもさがし」で終わらない!数値目標が焦点に

2020年05月23日 23:38 by takuya-murai

2014年1月17日に「子どもの貧困対策の推進に関する法律」が施行されました。あの日から5年が経ちました。

「子どもの貧困率」という数字だけを見ると、2014年8月にまとめた「子供の貧困対策に関する大綱」に影響を与えた「16.3%」という数字から、2018年発表の「13.9%」は改善しています。

しかし、その目安となる所得の中央値や貧困線となる金額は変化していません。そのため、大きな改善というよりは最低賃金の上昇や、その時の就労状況での多少の分布が変化したくらいのことであり、実態改善とはほど遠い状況です。

この5年の間には消費税増税もあり、「子どもの貧困率」だけを見て一喜一憂している場合ではないと感じています。

(市民協働フォーラム「届けよう!市民の声」の様子)

地域の実情にあった動きがはじまる!これからの5年

法律が出来てから様々な動きが生まれてきたことと、全国各地で善意の市民による挑戦により「子どもの貧困」という問題が存在するという認識は広がりましたが、解決はまだまだこれからです。

そこで2018年12月に「なくそう! 子どもの貧困」全国ネットワークと公益財団法人あすのばでは、市民協働フォーラム「届けよう!市民の声一子どもの貧困対策大綱の見直しに向けて」を実施するなど、これまでの動きを振り返り、改善していくための動きが出てきています。

フォーラムの配布資料(PDF)
「あすのば」の提言資料(PDF)
「あすのば子ども委員会」で10代、20代の若者が大綱を読み込んだ企画報告

子どもの貧困対策議員連盟でも議論されるなかで、市町村単位での対策の必要性もあがり、何かを変えなければいけないということだけは共有されはじめています。全国をまわるなかでも地域差はかなり大きいため、その地域の実情にあった動きがはじまっていくのがこれからの5年になると感じています。

2019年1月8日東京新聞:子ども貧困対策 市町村も 超党派議連、法改正を検討

全国各地で行われている「貧困の子どもさがし」

この10年間で「子どもの貧困」の言葉そのものの認知は随分広がりました。相対的貧困という考え方をもとに、日本の中にも貧困があることを伝える大きな役目を果たしました。(とはいえ、まだまだ「知らなかった」「初めて知った」と他分野での講演などで言われることは多いです。)

結果として各地では、それぞれの考えで「貧困の子どもさがし」が行われることになりました。

「貧困の子どもさがし」は、現代を生きる子ども一人ひとりの困りごとへの着目より、探し手のもつ貧困像が影響し、探し手が「見つけられない」や「イメージとちがう」という戸惑いにつながることになりました。

何より子ども自身が「隠れてしまう」「気づかれないようにする」状況も生み出してしまい、子どもたちの中でも「活動をたくさん活用できる」人たちと「活動に近づかない・近づけない」人に別れるような状況にも陥っています。

また、認識のズレは偏見や、現代の子どもの甘えや親の自己責任に問題をすり替えさせ、排除・孤立を強化してしまった部分もあるかもしれません。その点、国民運動と政策的に打ち出したものの、十分な理解促進が進んだとは言えないため、表面的なPR活動の域を超えていけてないとも言えます。

貧困をなくすために必要な最低賃金の向上

貧困をなくすという点では、「お金にまつわること」と「人生・生活の困難にまつわること」の大きく2つに捉えることができます。当たり前のことですが、金銭面の解決は「収入を増やす」か「支出を減らす」となります。

収入を増やす面では、働くことができる人は給与が増えることが求められます。仕事の内容にもよりますが、少なくとも最低賃金があがっていくことでその面は改善していきます。

政府の政策的にも最低賃金向上については取り組まれていますが、順調とは言えません。ぜひ、政策的にも後押ししていただき最低賃金向上を達成してほしいところです。ここは労働者の声としての運動も大切になる部分ではあると思います。

やはり、所得の中央値や貧困線自体の水準があがった上で貧困率が改善していくことが必要だと思います。ちなみに月収で5万円、年収で60万円の賃金向上を目指すなら、時給では300円ほどの向上になります。

連合:2018年度地域別最低賃金額

数値目標をどのように盛り込むか?

貧困対策法・大綱の見直しでは数値目標をどのように盛り込むかも焦点です。ぜひ、この点は研究者のみなさんにも積算して頂き、貧困率とか就業率といった全体の数字ではなく、個人にどれくらいお金を増やせればよいかと目標して提案していくことが必要かと思います。

ちなみに、現在、子どもの貧困の状況を測る指標の見直しも進んでいますが、このような給与とかに限らず、市民から政策の数値目標などは、提案してみることは必要だと思います。

内閣府:子供の貧困に関する新たな指標の開発に向けた調査研究報告書

指標の議論から、貧困率のような比率だけではなく、子ども・家庭がどのように「なる」ことを求めているのかという視点で何ができるのかを検討し、数値目標化を目指しても良いのかもしれません。

そのために子ども・家庭に関わる私たちの行動目標も市民として考えてみると、社会保障、公的責任としての支援を運用する「中の人」の意識も、支援が届く前に子ども・家庭に出会う人々の関わり方が変わるのではないかと思います。


(市民協働フォーラム「届けよう!市民の声」の様子)

生命の危機にならなければ支えてもらえない

収入は給与所得だけではありません。特に働くことができない、働いても資金が不十分という世帯は多いです。収入を得るために働きすぎて子どもとの関わりが持てない、体を壊し、将来的に生活に困る状況に陥るという家庭とも出会うことは少なくありません。

「他の親族やまわりがもう少し助けたらなんとかなるだろう」という声もありますが、それができないから「困っている」のです。だからこそ社会で、さらに社会保障の仕組みで支え合うことが大切なのです。

現状では明確に所得がないことや、わかりやすく生命の危機がわかってもらえなければ支えてもらえないことが多いのです。一方で所得が貧困線より少し上回っていたり、見た目で困難が認識しずらいといったことでは支援の必要性を理解してもらえない。この状況は本人自身も自分たちでなんとかできると認識していることも多い。結果的に後手に回ってしまいます。そして不明確な困難が何重にも重なり、こじれたその状況にまでなってからでは簡単には回復できない上に、困難が長期化します。

早期にちゃんと困難を受け止め、制度がしっかり機能していれば、子どもの分野に限れば長くても10数年で子ども自身が収入を得られる状況になります。どうにもならなくなってからの制度利用は、その先何十年も制度を使う可能性があります。

どちらが子どもやその家庭の人生を豊かなものにできるか考え、制度の運用や充実を図っていく必要があります。

>>後編:「子どもの人権」が守られる仕組みと関わりへ

Author:村井琢哉
NPO法人「山科醍醐こどものひろば」理事長。関西学院大学人間福祉研究科修了、社会福祉士。子ども時代より「山科醍醐こどものひろば(当時は「山科醍醐親と子の劇場」)に参加。学生時代には、キャンプリーダーや運営スタッフを経験し、常任理事へ。ボランティアの受け入れの仕組みの構築等も行う。副理事長、事務局長を歴任し、2013年より現職。公益財団法人「あすのば」副代表理事、京都子どもセンター理事、京都府子どもの貧困対策検討委員。
著書:まちの子どもソーシャルワーク子どもたちとつくる貧困とひとりぼっちのないまち

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