Eduwell Journal

2019年3月号 vol.73

「子どもの貧困対策法」施行から5年。対策大綱の見直しに向けて(後編)-「子どもの人権」が守られる仕組みと関わりへ

2020年05月23日 23:36 by takuya-murai

「子どもの貧困対策の推進に関する法律」が施行されてから5年が経ち、2019年夏には対策大綱の見直しが行われる予定です。前編(「貧困の子どもさがし」で終わらない!数値目標が焦点に)では、この5年間をふりかえり、筆者が感じてきた課題を整理するとともに、市民からも数値目標を提案してくことの必要性をお伝えしました。後編では、これからの支援のあり方を中心に考えたいと思います。

支出を増やさずに済むための支援

資金不足が起きる背景には、「支出」の問題もあります。教育は義務教育、ただ生活を送るだけの衣食住といった当たり前にも多くのお金がかかります。

これからの時代は「情報」にどのようにふれていくか、「友人」たちとどう交流するかも子どもたちには重要なことです。そのための標準がスマートフォンなどの所持であり、活用となります。

生きているだけで何かとお金がかかる時代ですが、生活を市場に委ねて消費したにも関わらず、収入として返ってこない(賃金は上がらない)のだから暮らしは苦しくなります。このような状況であればその不足分をお金で補うか、市場から取り戻すという感じで現物給付(お金を使わずに利用できるように)することで支出を増やさないようにする必要があります。

住宅では、公営住宅の目的外利用での空間提供や若者の住まい兼就労支援の場などの活用がでてきていますが、空き家も増えるなかで、その財産すら市場にというのではなく、市民の暮らしを支える活用や仕組みづくりが必要ですし、それができるような政策提案も大切になります。

それぞれの企業の大きさに合った支援

先日、大手コンビニで「子ども食堂」を始めるという話がでてきました。子どもの交流くらいの場としては良いのだと思いますが、「子ども食堂」という言葉と「子どもの貧困」という言葉が結びつきやすい状況の中で、この展開としては、「子どもの貧困対策に取り組みはじめた」と思われてもおかしくないかもしれません。

もし、子どもの貧困対策に取り組むなら、子育て中のパートの方も多いでしょうし、生活費に困っている方もいるでしょうから、まず給与アップや労働環境の改善にお金を使うのが先なのではないかと思います。24時間営業の是非も話題になっているという点からもそもそもの事業モデルの転換も取り組んでほしいですね。

一方で、深夜に行き場のない若者が集ったり、認知症の方が何度も買い物に来るなど、全国各地にあって巨大なインフラとなったと言われるコンビニだからこそ、交流や困難への気づきなど「入り口」としては可能性があります。

実際にコンビニから支援センターや公的窓口につながることが地域の中でも起きています。その点では新しい活動をはじめるよりも「何かあった時にはどこに連絡すればよいのか?」「どうコミュニケーションをとればよいのか?」をうまく伝えていき、実践していただくといったことで、かなり状況が変わるのではないでしょうか。

このコンビニの話に限らず、他の企業でも給与面とその企業の大きさだからこそできる提案や動き方があるのではないかと思います。市民の善意でできる交流事業と同じようなことよりダイナミックに動かしてみて欲しいです。

このような民間の善意やチャレンジといった私的な支援がこれだけ必要ということは、それだけ公的支援が不足している証拠でもあり、そのダイナミックさで経済対策だけでなく、ぜひ、社会保障政策への提案も一緒に声を上げていただきたいと思います。

「子どもの貧困がある」ことを知る段階から、人権面での理解へ

貧困支援に限らず、何かと公的な支援や公教育では「条件」や「制約」が大きいのが今の社会です。元々このような各種「条件」や「制約」、「成果」「効率」「管理」「指導」といったものに縛られることが、解決できるどころか「生きづらさ」を口にする若者たちと多い中で、条件付き対策にどこまで効果があるのか考え直す必要があると思います。

無条件に人が生きていけること、そして、成功も失敗も受け止めて生きていけるような社会の安心があれば、子どもや若者たちが社会を信頼して一歩踏み出すのだと思います。しかしそのためには、社会自体が改めて一人ひとりの「人」が抱えるものへの理解に向けた意識が必要なのではないかと感じています。

「子どもの貧困」という言葉は広がりました。児童虐待などもそうかもしれません。しかし、昨今のニュースなどを見ても、問題や計算式を解くかのような対応か、問題数が多いから回答者が混乱するような状況しかなく、子どもが置き去りになっている状況に陥っており、結果、子どもが傷ついています。

「子どもの貧困がある」という言葉を知る段階は、そろそろ終わりにして、問題に当てはまる「貧困の子どもさがし」ではなく、一人ひとりの子どもが今どうなのかに意識を向け、その子どもの人権が守られる仕組みと関わりができる状況に変わっていかないといけません。

その中で公的責任・社会保障として整備し直す部分、問題解決のための専門家の配置、子どもたちの困りごとに関わる市民の意識、それらの仕組みや支援・活動を担う「人」の姿勢・価値・倫理を日本全体で一致して、この5年間でバージョンアップさせないと「貧」「困」の両方が改善していかないのだと思います。

「社会の未来を支える子どもたち」から「子どもたちの未来を支える社会」という視点へ

「社会の未来を支える子どもたち」というキャッチフレーズはよく耳にします。一方で、「子どもたちの未来を支える社会」という言葉はあまり耳にしません。単純に「子どもたち」と「社会」を入れ替えただけですが、政策的な議論になると前者の表現になりがちです。しかしそれでは「子ども」を見ていません。

現在は、「子ども」に限らず「人」を見ていない動きが多く、誰かが得をすれば、誰かが損をする社会です。ビジネスではそんな勝ち負けが当たり前かもしれませんが、負けても人生が終わらない、人権が阻害されないためにも社会の仕組みで支えていくことが大切なのではないかと思います。

法律や大綱を見直していく上で、その内容だけでなく、このような視点にも着目していただき、文言一つずつ議論をしていきたいです。

>>前編:「貧困の子どもさがし」で終わらない!数値目標が焦点に

Author:村井琢哉
NPO法人「山科醍醐こどものひろば」理事長。関西学院大学人間福祉研究科修了、社会福祉士。子ども時代より「山科醍醐こどものひろば(当時は「山科醍醐親と子の劇場」)に参加。学生時代には、キャンプリーダーや運営スタッフを経験し、常任理事へ。ボランティアの受け入れの仕組みの構築等も行う。副理事長、事務局長を歴任し、2013年より現職。公益財団法人「あすのば」副代表理事、京都子どもセンター理事、京都府子どもの貧困対策検討委員。
著書:まちの子どもソーシャルワーク子どもたちとつくる貧困とひとりぼっちのないまち

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