ひみつ基地

2019年4月号 vol.74

なぜ、若者は地方の中小企業に就職しないのか?(前編)~変わらない地方の中小企業と、変わり続ける若者の意識のギャップ

2019年04月10日 15:38 by shoko_kawahara

地方でキャリア教育に取り組んでいると、「地元に残るようにしてほしい」「もっと地元の中小企業に就職させたい」といった要望と出会います。体験や学習を通じて地域を知り、魅力を知り、「地元に残ってほしい」「戻ってきてほしい」ということです。

もちろん、地域との関わりの中で魅力を感じ、結果的に地元への定着につながることがあるかもしれません。しかし、それだけで全てが解決するのでしょうか?私は現在、宮崎と熊本で中高生向けのキャリア教育や企業の採用・定着支援に取り組んでいます。そこで見えてきた地方中小企業と若者とのギャップについて、お伝えしたいと思います。

若者に対する「PR不足」という誤解

若者が地元の中小企業に関心を向けない原因として、よく言われるのが「PR不足」です。「接点が少ない」「知る機会がない」だから「まずは目を向けてもらいたい」と言われます。

しかし、忘れてはいけないのは、「知ってもらえたからといって、選んでもらえるわけではない」ということです。そこには、就職が複数の選択肢を比較して一つだけを選ぶ、相対評価であることの影響も大きいと思っています。

  絶対評価 相対評価
主な対象 食べ物や衣服、日用品などの消耗品 就職する企業や結婚相手、住む地域や家など
選ぶタイミング 日常的。同じものを並行して購入し、利用することもできる 人生の節目。同時に複数を選ぶことはできない
選び方 パッと見た印象や評判、値ごろ感など。繰り返し選ぶことで自分の好みを見つけられる 情報収集をしたり、比較をしたりして、自分に合うかじっくり考える
失敗した時 簡単に捨てたり、買い換えたりできる 変えるには大きな労力や費用がかかる


相対評価ということは、どんな良さがあっても、それらを上回る選択肢が一つでもあれば選ばれない、ということです。条件の良い選択肢がすでに複数あるのに、それを下回る選択肢にまで目を向けて知ってもらおうというのは、非常に困難です。

ある高校の先生は、生徒は年間休日が100日以上の求人票しか見ない、と言っていました。2,000件以上来ているので、休日数の多い順に見て、2桁になるともう見ないそうです。少し残念な気もしますが、それだけの量の求人から選ぶとなると、分かりやすい数字での足切りは仕方ないでしょう。

若者は条件の裏に何を求めているのか?

一人前にもなっていないうちから給料や休日数、福利厚生といった条件面を気にすることを批判的に見る人は少なくありません。しかし、その背景に目を向けてみるとどうでしょうか?

実は私の弟が大学4年生で、ちょうど就職活動中だったので話を聞いてみました。給料を気にするか聞くと、「平均年収500~600万」とのこと。金額もさることながら、意外だったのが初任給ではなく平均年収を気にしていたことです。理由を聞くと、「家族を養うとなったらこれくらい必要だと聞いた」ということでした。

また、休日を重視する傾向の裏には「自分のペースを崩したくない」という声があると聞きます。「自分の趣味の時間を十分に確保したい」「急な残業や飲み会で予定を乱されたくない」「休日勤務や三交代制だと友人と予定が合わないから嫌だ」といった具合です。

つまり、何となく数字を見ているわけではなく、「将来、自分の家族が養えるかどうか」「仕事に縛られた生活にならないか」という人生設計やライフスタイル全体を見ていることが分かります。

国際情勢の変化や急速な技術革新、大規模な震災など、予測不可能なことの多い現代社会では、どんな大企業でも永年安泰とは言えません。終身雇用制度に現実味はなく、「滅私奉公で一生会社と共に」という感覚を持つことは難しいでしょう。以前はワークライフバランスという言葉でワークとライフが並列に扱われましたが、今は「ライフの中にワークをどう位置づけるか」という所まで変化していると感じます。

拡大する教育現場と企業とのギャップ

学校教育も大きく変わろうとしています。社会の変化に対応するため、「知識・技能」だけでなく「思考力・判断力・表現力」といった能力や「主体性・多様性・協調性」といった姿勢も学力に含まれる、と定義されました。すでにその指針に基づいた教育の仕組みは動き出しています。2020年には大学入試センター試験がなくなって新しい試験となり、2022年度までに小中高全ての学習指導要領が新しいものへ移行されます。

一方で、地方の中小企業の方から「自分で考えるような頭のいいやつは要らない。根性でまずは従ってくれればいい」と言われたことがあります。教育が社会の変化を追いかけているはずなのに、その教育にも置いて行かれているとすれば、致命的です。

そうでなくとも、教育現場では毎年新しい学生が入ってくるため、常に変化を求められます。しかし、地方の中小企業となると新卒採用も数年に1度、1名だけ採るということも少なくありません。その結果、人材に対する扱い方やコミュニケーションの取り方のギャップも拡大しています。

ある高校の先生は、「何をしたら叱られるのか浸透していないうちは叱らない」と言っていました。ルール自体が認識されていないのに叱ると相手が理不尽に感じてしまうので、ルールが浸透するまでは、「こういうケースがあったけど、こういう理由で禁止されている」ということを全体で共有するに留める、ということでした。

その話を聞いた企業の方からは「つべこべ言わずに黙ってついてこい、はもう通用しないのか」と言われましたが、それが通用した時代はとっくに終わっています。さらに言えば、すでに社内にいる若手社員もそういった昔ながらの指導を受けずに社会に出ているということなので、それを前提に接する必要があるのです。

進学した若者たちが就職する受け皿がそもそもない

若者の地元定着というテーマに関わり始めて驚いたのが、そもそも地方には新卒は高卒採用しかしていない企業が数多くあることです。高卒しか採用していないということは、高等教育機関に進学して戻ってこようとしても、仕事の受け皿がありません。一方で進学率は右肩上がりで、就職者の割合は今や全国で17.6%。九州各県でも25~30%に過ぎません。さらに高等学校の生徒数自体が323万6千人と、過去最高だった平成元年の564万4千人と比べると4割以上も減っています。(平成30年度学校基本調査)この限られた層の地元就職率を数パーセント上げることに躍起になったり、地元企業で取り合ったりしても、地域の人手不足の問題は解決しません。

もちろん、「大卒OKにすればそれで良い」というわけではなく、それぞれに見合った仕事内容や条件の提示が必要です。弟は、「高卒しか採用していない(大卒採用の枠がない)企業は受けない」と言っていました。「せっかく大学に行ったのに意味がなくなるから」だそうです。

人は誰にでもできる仕事、どこでもできる仕事であれば、条件が良い方を選びます。良い条件を提示するか、その人の意欲や専門性を活かせる仕事を用意するかです。

若者の地元定着を「就職する高校生が地元企業に就職すること」とすれば伸びしろはなく、かといって進学した若者たちが戻って就職する受け皿もない、となれば打つ手はありません。変わるべきは自治体の定住促進施策でも、学校の進路指導でもなく、受け入れる企業である、と強く感じています。

前編は問題提起で終わってしまいましたので、後編にて解決策のご提案ができればと思います。

>>後編に続く

【関連記事】全国の求人倍率が1.0倍超なのに、まだ地方に仕事がないの?-地方に足りないのは、「そこそこ生産性の高い仕事」

教育・研修プランナー 川原祥子

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