ひみつ基地

2019年5月号 vol.75

なぜ、若者は地方の中小企業に就職しないのか?(後編)-待遇改善や柔軟な労働環境は不可欠!外よりも中にヒントあり!

2019年09月12日 12:47 by shoko_hatano

地方でキャリア教育に取り組んでいると、「地元に残るようにしてほしい」「もっと地元の中小企業に就職させたい」といった要望と出会います。体験や学習を通じて地域を知り、魅力を知り、「地元に残ってほしい」「戻ってきてほしい」ということです。

もちろん、地域との関わりの中で魅力を感じ、結果的に地元への定着につながることがあるかもしれません。しかし、それだけで全てが解決するのでしょうか?

前編(変わらない地方の中小企業と、変わり続ける若者の意識のギャップ)では、地方中小企業と若者との間にどんなギャップがあるのか、その問題点をまとめました。後編では、企業は、具体的にどんな対応が必要となるか、私なりに提案したいと思います。

就職先の候補になるには、待遇改善は避けては通れない

厚生労働省の賃金構造基本統計調査(平成30年)によると、全国の平均賃金は306,200円。対して、私が住む宮崎県は235,100円、最も高い東京は380,400円です。

地方は物価が安いなどと言われますが、実際に移住した身からすると、家賃以外はほとんど変わりません。また家賃についても、一人暮らし用の物件であれば下がるのは月2~3万程度。この格差を埋めるほどではありません。地方の若者が低い給与でもやっていけるのは、実家暮らしが多いからでしょう。

東京の基準を目指す必要はありませんが、自分の立ち位置を知っておくことは重要です。近所の回転寿司チェーンのアルバイト(夜間)が時給1,000円を超えていたり、ドラッグストアの社員募集で年間休日100日以上を強調していたりするのを見ると、地方においても基準が上がっていることを感じます。誰にでもできる仕事であれば、条件の良い方が選ばれるのは、仕方ありません。

例えば体重150kgの人が婚活を始めるとします。その体型で良いと言ってくれる人もいるでしょうが、見た目で判断されて中身を見てもらえない、ということも少なくないでしょう。その体型のままで良いと言ってくれる人を探すのと、ダイエットをするのはどちらが大変でしょうか。

婚活であれば一人見つければ良いので前者でも良いかもしれませんが、社員は何名も採用しなければなりません。腹を括って後者に取り組まなければ、根本的な解決は望めないでしょう。ダイエットが食生活の改善と運動に地道に取り組むしかないように、待遇改善も地道に取り組むしかありません。そしてまた、ダイエットと同じように先延ばしにすればするほど、人並みに戻すのさえ難しくなります。

工夫次第で「体感」は改善できる

待遇改善だけでは追いつかないという場合、制度を工夫することで「体感」を変えることはできます。

個人的に応援したいのは、副業の解禁です。働き方改革の一環で推進されるようになってきましたが、もともと地方では収入が足りないために「会社に内緒でアルバイトをしている」という話を聞きます。公式に認めてあげれば、会社としてすぐに給与を上げられなくても、個々人が副業を通じて月収を上げることができます。大学もない地域だと、アルバイトの担い手も足りません。地域の人手不足の解消にもつながると思います。

労務管理面を考えるのであれば、並行してフレックスタイム制を導入したり、勤務時間の短縮や週休3日の雇用形態を設けたりして環境を整えると、より活用しやすくなるでしょう。前編で書いた通り、若者が待遇を気にする背景には、「将来、自分の家族が養えるかどうか」「仕事に縛られた生活にならないか」といったニーズがあります。給与や休日というのは、そのための手段です。

これらを全て自社で抱えて提供するのではなく、「自分でコントロールする余地を提供する」という柔軟性もこれからの企業に求められる姿勢だと思います。

スター選手に来てほしいなら、日ハムを見習う

これらの施策で、ある程度の人員は確保できるかもしれません。しかし、地方の中小企業のもう一つの課題は、経営幹部候補となる層の獲得です。現在いる社員より優秀な人材を採用したいと思っているケースもあるでしょう。その場合には、別の施策が必要です。

私は野球には詳しくないのですが、北海道日本ハムファイターズが大谷翔平選手の獲得をしたプロセスは印象的でした。最初からアメリカで挑戦すると決めた大谷選手に対し、母国プロリーグで力をつけて挑戦した方が成功しているということをデータで示し、投手と打者の二刀流を支持する育成プランを提案し、背番号や年俸などで相応の待遇を提示しました。交渉は4度に及んだと言います。

「最終的にメジャーリーグに送り出すなら意味がない」と言われるかもしれませんが、一時的だったとしても、こうしてスター選手を受け入れることの影響は大きいです。そもそも組織として、組織に合わせて人を入れるのか、入れたい人に合わせて柔軟に体制を整えられるのか、基本的なスタンスが問われます。

前者であれば、今いる社員より優秀な人材を採用するのは難しいでしょう。そのうえで、大谷選手獲得のような事例があると、「若手の育成・活用に熱心な組織である」というイメージがつきます。「大谷選手のような有望な選手が選んだチームである」ということは、他のプロ野球を目指す選手たちにも良い印象を持たれます。

短期間でも優秀な選手がいることでまわりの選手は触発されます。もしかするとそのまま残って続けてくれるかもしれませんし、メジャーに行って戻ってきてくれるかもしれません。人は誰しも自分を尊重し、自分を大事にしてくれる環境に惹かれるものです。自社の短期的な利益だけを求めて抱え込もうとすると、優秀な人材はそれを察して逃げていってしまいます。

「うちの従業員」ではなく、一人の社会人として扱う

 正確な言葉の意味とは異なりますが、私は従業員という言葉があまり好きではありません。雇う側(主)と雇われる側(従)の力関係を感じてしまうからです。心のどこかで主従関係と思っているから、少しでも安く使おうとしたり、上から命令を聞かせようとしたりするのではないでしょうか。

もし一人の社会人、一人の人として扱うのであれば、見合う対価を支払うはずですし、相手の考えや意思を尊重するはずです。「黙って言う事を聞いてくれればいい」とはとても言えません。

人材育成においても同じで、自社に適した「従業員」を育てるのではなく、他の環境でもやっていける「社会人」を育てると考えるべきでしょう。あのトヨタですら「終身雇用の継続は難しい」と言っている時代。一生雇ってもらえる保証もないのに、その会社でしか通用しない人間にされているとすれば、急いで逃げ出したくなるのも無理はありません。

人材募集というと、外の就職希望者がどんなニーズを持っているかに関心を向けがちですが、大事なのは今働いている人が満足しているかどうかです。すぐに変えられることは多くないかもしれませんが、今ある制度や仕組みを振り返り、これは会社の都合によるものか、働く人のためのものか、一つひとつ検証することから始めるべきなのかもしれません。

>>前編:変わらない地方の中小企業と、変わり続ける若者の意識のギャップ

【関連記事】全国の求人倍率が1.0倍超なのに、まだ地方に仕事がないの?-地方に足りないのは、「そこそこ生産性の高い仕事」

教育・研修プランナー 川原祥子

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