ひみつ基地

2019年10月号 vol.80

なぜ、外国籍の子どもは特別支援学級の在籍率が高いのか?-拙速な判断で日本人の子どもの2倍以上に!

2019年10月10日 16:08 by editorial_desk

日本国内に住民登録している外国籍の子どもたちの中で、現在、小学校・中学校の義務教育学齢に相当する子どもは、約12万4千人と言われています。海外から日本へ来た子どもたちの日本語能力が十分でないケースは少なくありません。言葉がなかなか通じない中で、自治体・行政が子どもの状況を正確に把握していくことは難しい状況です。


(筆者撮影:YSCで学ぶ多様な子どもたち。障害者手帳を持つ子どもたちのための特別クラスも開講されている)

言葉の問題か、発達障害か判断がつかない

毎日新聞による海外にルーツを持つ子どもたちの現状を追った連載「にほんでいきる」に掲載された2019年9月1日の記事によれば、外国人が多く暮らす25の自治体が調査したところ、公立小学校・中学校に在籍する外国籍の子どもの5.37%が「特別支援学級」に在籍していたことがわかりました。この25の自治体のすべての児童生徒の特別支援学級の在籍割合は2.54%なので、外国籍の子どもたちの特別支援学級の在籍率は、その2倍に上ります。

「外国からきた子どもたち 支援学級在籍率、外国籍は2倍 日本語力原因か 集住市町調査」2019年9月1日・毎日新聞

なお、本記事では、下記のように指摘をされています。


日本語以外にスペイン語やポルトガル語のIQ検査に対応する診療所「四谷ゆいクリニック」(東京都新宿区)の阿部裕院長は、IQ検査について「『鎌倉幕府を開いたのは誰か』『七夕はいつか』に似た設問があり、日本文化を知らないと不利になる」と指摘。


四谷ゆいクリニックの阿部先生のご指摘の通り、日本語を母語としない子どもたちにとっては日本語のみでのIQ検査や、日本文化の共有が前提となる設問は正確な測定を妨げる可能性があります。また、子どもたちの母語で同様の検査ができる機関がごく限られていることで、「ことばの問題の可能性」に気づいた場合であっても、それを追求することが難しいのが現状です。

筆者が運営している海外ルーツの子どものための専門教育支援事業「YSCグローバル・スクール」(以下、YSC)でも、「発達障害があるのか、言葉の問題など別の課題を抱えているのかの判断がつかない」と学校側より紹介されてきた子どもたちが何名かいます。丁寧な関わりの中で、YSCでも「発達の課題がありそうだ」と思えるケースもあれば、機能的な障害はないだろうと思われるケースもあります。

(海外にルーツを持つ子どもと若者を支援するYSCグローバル・スクールの授業の様子)

南アジアにルーツを持つCさんのケース

南アジアにルーツを持つCさんは、外国人保護者が日本で働くために、生後間もなく親戚のもとに預けられました。YSCにやってきた時は、13年ぶりに離れ離れで暮していた実親と再会し、日本で水入らずの生活をスタートさせたばかりでした。

親御さんとCさんが日本と外国とで離れていた間、親御さんはたびたびCさんを預けていた親戚に連絡し、わが子の学校での様子や日々の成長を確認していました。しかし、毎日忙しく日本で働く中で、Cさんに会うために帰国する事ができず、電話口での親戚からの報告などが唯一のわが子の成長を確認する手段だったそうです。

来日後、CさんはYSCで日本語の集中クラスを受講した後、公立の中学校に転入しました。支援が日本語学習から教科の学習に移行すると、Cさんが2桁のたし算、ひき算にも苦労していることがわかりました。当然、中学校での授業にはついていくことができず、しばらくすると学校側から、特別支援学級での学習を勧められました。

親御さんは特別支援学級を見学し、一般の学級よりは環境がわが子に適していると感じたため、特別支援学級でのサポートを承諾しました。しかし今度は逆に、特別支援学級側から「もっと障害の重い子どもたちで精一杯なので、一般級に」と言われ、受け入れが進みませんでした。

その後、結局、Cさんは中学校への毎日の通学をいったん見合わせ、YSCの昼間のクラスに通って学習支援を受けながら、中学校生活への復帰を目指していきました。YSCではCさんのニーズに応じたサポートを提供できたこともあり、Cさんはスポンジのように新たな学習内容を吸収していきました。現在は高校2年生。充実した学生生活を過ごしています。

子どもたちの教育・生育歴の多様性に着目を!

Cさんの親御さんが、Cさんが中学校の通常級でも、特別支援学級でも適切な学びの機会が得られないとわかったころ、YSCのスタッフにこうつぶやいています。

(Cさんを預けていた親戚からは)
「ちゃんと学校行ってるって聞いてたんだけどね」
「こんなにできないなんて、知らなかった」

と、困惑した様子でした。Cさんが暮していたのは南アジアの、途上国の中でも都市部から離れた地方。山間部にある小さな町では、一般家庭でもあまり教育水準が高くなかった可能性が考えられます。さらに、特に女の子に対する教育があまり進んでいない地域であれば教育機会から遠ざけられていた可能性も否定できません。

Cさんのように、海外ルーツの子どもたちの中には「日本語があまり得意でない」だけでなく「日本語を必要としない算数の基礎計算も苦手」という子どもたちがおり、出会った大人が驚いてしまうことがあります。

「中学生なのに、2桁の足し算もできない」状態の海外ルーツの子どもがいた場合に、だから「発達の課題があるかもしれない」とだけ考える事は拙速であり、子どもの本来のニーズや困り感の元を見えなくしてしまいます。

「もしかしたら、出身国で教育へのアクセスが悪く小学校通学もままならなかったのかもしれない」
「もしかしたら、出身国の教育カリキュラムが異なることが要因かもしれない」
「もしかしたら、日本語の問題の意図が理解できていないかもしれない」

また、Cさんとその親御さんのように、親子が長年はなれて暮した後に、日本に子どもを呼び寄せたという家庭の場合は、いくら保護者であったとしてもその子どもの状況や性格、性質や経歴などをつぶさに把握しているわけではないかもしれません。そういったケースも含めて、海外ルーツの子どもたちの持つ、前提条件の多様な可能性に周囲の大人が気づけるかどうか、で命運が分かれてしまうと言っても過言ではありません。

海外ルーツの子どもたちが増加する現在、特に彼ら、彼女らとの関わりを持つ可能性の高い教育・福祉関係者の方々には、ぜひ、「日本以外の国で暮してきた子ども」のバックグラウンドの多様性を念頭において頂きたいと思います。


(YSCグローバル・スクールでは、子どもの日本語教育専門家による授業のオンライン配信も行っている)

特別支援学級の教員が海外ルーツの子ども支援を担当している理由

「日本語がわからない子どもは、特別支援学級の先生にお願いしているよ!」

以前、筆者が地方の教育委員会に依頼されて講演のために訪れた際に、待合室で学校関係者の方に言われたのが、この言葉です。

地域の学校で支援体制がゼロというわけではないけれど、近年はそれを上回る数の海外ルーツの子どもたちの増加に対応が間に合わないことも増えてきたそうです。その結果、学校の中で手の空いている人が特別支援学級の先生だけという状況になることが多いと言い、「何もしないで教室に放置してしまうわけにはいかないから」と、特別支援学級の教員が海外ルーツの子ども支援も担当しているという状況だと言います。

「外国籍の子どもの特別支援学級在籍率が全体の2倍」の背景には、こうした学校における日本語等学習支援体制の不十分さが関係している場合もゼロではないと見られます。海外ルーツの子どもたちの、学校における教育支援体制整備はようやく、政府が思い腰を上げたばかりの状況です。すべての子どもたちが、適切な支援環境にたどり着けるようになるまで、公的支援の拡充を待っていては間に合いません。

支援団体の知識や経験も活用し、地域全体でサポートを!

学校の中だけで対応していこうと考えれば、「日本語学級がなく、一般級でついていけないなら特別支援学級」と言うように、限られた選択肢の組み合わせで子どもにとって何が最適か、を判断せざるを得ません。学校や自治体は、NPO等の支援団体が培ってきた知識や経験を積極的に活用していくことで、「発達障害かもしれない」と考える手前に、教育制度や文化を含めたバックグラウンドの多様性に関する情報や、第三の学びの機会を選択肢として得る事ができます。

今後、海外にルーツを持つ子どもたちの増加は必死です。多様な、すべての子どもたちが十分に学べる環境の整備と、教育機会の保障に向け、政府の対応を待つだけでなく、地域全体でその推進に取り組んでいく必要があります。

NPO法人青少年自立援助センター 定住外国人子弟支援事業部統括コーディネーター 田中宝紀
 
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 外国にルーツを持つ子どもたちをご支援ください!
 
 
YSCグローバル・スクールは原則として保護者の方よりいただく受講料で運営されていますが、スクールでのサポートを必要とする外国にルーツを持つ子どもたちのうち、約30%が困窮・外国人ひとり親世帯に暮らしており、経済的な負担が難しい状況です。こうした子どもたちが経済的な格差により日本語教育や学習支援機会へのアクセスが閉ざされてしまうことを防ぐために、「学内奨学金制度」を設置しております。
 
ぜひ、日本に生きるすべての海外ルーツの子ども達が安心して学び、日本社会へ巣立つことができるよう、プロジェクトへのご協力をお願いいたします!

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