ひみつ基地

2019年10月号 vol.80

子どもにとって「地域のつながり」は、本当に必要なのか?-社会課題に対する「つながり」という万能薬の幻想

2019年10月10日 16:34 by editorial_desk

「居場所」「地域」「つながり」。

どれも子どもの暮らす環境で必要そうなキーワードではあります。しかし、そのキーワードを合言葉にした時、これから新たに出会える子ども、そして、その支援者がどれほど生まれてくるでしょうか。

ある程度、学習支援や子ども食堂、居場所作りの実践や認識が広がった段階で、次の一手としてネットワークづくりや支援者の支援が活発に行われていますが、課題にぶつかっている取り組みが多いことも現状です。先述の合言葉とは、少し違った合言葉が必要となっている局面に来ているのかもしれません。

子どもも大人も精一杯の時代

日々、私が子どもと関わる中で、よく聞く言葉を挙げるとすれば、「疲れた」「しんどい」「めんどくさい」です。「今日、どうやったん?」と聞くと、大体がこの3つの言葉で表現されます。もちろん、たまには「聞いてや!今日なー、めっちゃいいことあってん!」と勢いよくでその日に起きた嬉しいことを共有してくれることもありますが、関係が長くなるほど日々の愚痴を聞くことが増えます。

だからこそ子どもとの活動では、「一緒に過ごすこの時間だけでもゆっくりできたり、休めたり、発散できたら」と考えながら準備やネタを収集していますが、流れてくるニュースを見てると、怒りや悲しみを感じる話題の方がどうしても多いような気がします。

学校の話を聞いても、「今日な、後ろの友達がな」「〇〇さんが、、、」と常に人とうまく付き合わないといけない緊張状態にある人間関係の中で苦労していることが伺えます。「今日やる気でえへんわ」と自動販売機に売っているエナジードリンクを買う姿を見ると、日々の生活でどれだけの疲れに向き合い、「頑張ること」を必要とされているのかが伝わってきます。

疲れているのは「子ども」だけではありません。子どもに関わる大人、つまり、親や学校の先生、学童の職員や保育士さんなど、子ども支援に携わる専門職の人たちも疲弊している話をよく聞きます。せっかく「子どものために!」と良い関わり方や活動をされていても、その表情と姿を見るたびに、どうしても休めない現状や求められる結果の厳しさに、何か根深いものを感じます。


(子どもたちは、活動に来たらまずはクッションめがけて走ってきます)

なぜかつながることができない地域

大人も子どもも疲弊していく中で、あらゆる社会課題に共通した解決のキーワードとして挙げられるのは「孤立」に対しての「つながり」です。少子高齢化で情報化社会の結果、「地域のつながりが薄くなり孤立が深刻化している」といった文脈のもと、どうにか「人と人をつなごう」とする活動や動きが増えてきています。

恐らく「子ども食堂」もその時代の流れの中での一つの動きで、地域の中で子どもとつながりを作ることで多様な関わりから人生を豊かにし、将来の選択肢を広げ、「いざ!」という時に備えることを目指しているところが多いと思います。しかし、実践を重ねていくうちに、多くの団体が同じ課題にぶつかりました。

地域がつながれば諸々の問題は解決するはずなのに、なぜかつながることができない。「子どもと出会えない」「学校や行政と連携ができない」「運営する組織の中でうまくいかない」と言われてきたように、多くの悩みが「人とつながりたいけど、つながることを拒まれる」もしくは、関係がこじれることが慢性的な問題となり、行き詰まっていました。なぜ、「つながり」が逆に「しがらみ」になるのでしょうか?また、つながることが本当にベストな選択肢なのでしょうか。


(楽しく実験中。大人側が楽しく失敗しながら試行錯誤仕込みをしてます。)

ネットが生み出す「つながり」と「分断」

多くの団体がネットの活用で新たなつながりを作ろうとする動きもよく聞きます。広報発信の強化、クラウドファンディングの挑戦、署名運動など、組織運営面の課題とこれからの社会変革の取り組みとして挙げられることは多いです。

確かに時代としては、多くの子どもや若者がSNSを介してつながり、若手の集まりではちょっとした打ち合わせから企画までネットを使ってのやり取りが一般的です。これからの時代にインターネットツールの活用は、取り組めば新たな成果が出そうなツールかのように思えます。

しかし近年、SNS上でのいじめや、失言や炎上が注目されるように、本来はコミュニケーションの質をよくするはずだったツールが、むしろ人間関係と社会の分断を促している側面もあります。ニュースやSNSのコメント欄では一方的な正論が飛び交い、それが共感されるか否か24時間絶えず評価されます。そういったしんどさから避難した経験はありませんか?

子どもと出会うため、新たな支援者と出会うため、支援者同士のつながりを作るため、社会の連帯を作るため、いろんな目的や規模感があると思いますが、今一度、本当にネットに投げた言葉が人とつながるためのものなのか、人を正すためのものなのか立ち止まって考える必要があるのかもしれません。

一緒にそばにいたい人ってどんな人?

みなさんは子どもと関わる時、どんな表情をしていることが多いでしょうか?ポジティブな表情でしょうか。環境や場面によっては厳しい表情をせざるを得ないことの方が多いでしょうか。

子どもから見て大人という存在は、すでにパワーバランスで上位にきます。子どもに比べて必然的にしわの多い大人は、無表情であったとしても少し怖かったりします。そして、疲れが慢性化している大人であれば、その雰囲気も伝わってきます。

例えば満員電車の中で、無表情、疲れた顔をしている大人に囲まれた時、みなさんはどう感じるでしょうか?今の地域で子どもが暮らす環境ではそこまで極端にいかなくとも、それに近い状況にあると思ってもいいかもしれません。見渡せば、疲れた大人、無表情な大人、イライラしてる大人、どこにも楽しそうで、ゆとりのある大人を、家や学校といった子どもの生活空間で見かけることは難しいです。

そんな日常で、嬉しいことや楽しいことを共有できるのは誰でしょうか?自分がちょっと頑張らないといけなくなった時、誰かに助けてほしい時、声をかけやすいのはどんな人なのでしょうか。


(子どもと関わる時、どんな表情をしていますか?)

「Peace-keeper」か「Peace-maker」か

「武器はPeacekeeper、楽器はPeacemaker」という言葉があります。平和を維持するのは武器、でも平和を作り出すのは楽器という意味です。

「子どもの貧困」の分野においては、「社会の理不尽な構造や偏見に対して、怒りや悲しみを訴え、その共感に人がつながり、社会が変わること」が、これまでの注目されてきたソーシャルアクションでした。当事者の声なき声に光を当て社会全体に理解を広めることが、社会の変化を促してきました。

しかし、逆に光を当てることによって、「自分はそこまで大変じゃない」「自分のほうが大変」としんどさの比べ合いが起きてしまったのも事実です。「ここまでしんどくならないと誰も助けてくれないのか」と、支援に対する条件は依然として多く求められ、必要とする支援までのハードルが高まりました。誰もが疲れ、将来に良いイメージを持ちづらい時代で、人と人とが支え合うのに大きな理由がまだまだ必要な時代のようです。

「ペンは剣よりも強し」というように、言葉は小説や歌詞のように人を癒やすものにもなりますが、人を傷つける武器にもなります。なぜ、人がここまで孤立と分断の道を選んだのか。いろいろ要因はあると思いますが、一つは「正しさのしんどさ」が原因だと私は感じています。武器によって理想の「こうあるべき」といった社会や地域のつながりを求めすぎなのかもしれません。

あるべき社会像やなるべき大人を議論するより、暮らしたくなる地域や、なりたい大人を語ったり、ちょっと実験したりすることの方が楽しそうです。「武器」を否定するわけではなく、これから人と人とがつながりたくなる「楽器」を開発することも合わせてやってみるのが、時代の突破口のひとつになると信じています。

三宅正太NPO法人山科醍醐こどものひろば・スタッフ)

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