Eduwell Journal

2019年12月号 vol.82

日本の性教育を変え、子どもを性被害から守る!-行政や学校、専門家が取り組む日本の先進事例5選

2020年03月09日 12:43 by asuka_someya

時代遅れと言われている日本の性教育。ニュースや新聞などのメディアでも、子どもたちの性被害の話題が取り上げられるようになってきました。世界の潮流に追いつくには、まだまだ時間がかかりそうですが、行政や学校、専門家、保護者などが問題意識を高め、連携を図っていく必要があります。

以前の記事(日本の10代の妊娠中絶は1日約53件!他人事ではない若者の性のリアル-性教育が性行動を助長するという誤解)では、秋田県教育庁・秋田県教育委員会が地元の医師会と連携し、医師による性教育講座を県内の高校・中学で行い、10代の人工妊娠中絶率が1/3にまで中絶率が減少した先進事例をご紹介しました。今回の記事では、行政・自治体や学校、外部講師による取り組み、YouTube等のSNSによる取り組みに分けてご紹介していきます。

長野県が全国初の「子どもを性被害から守るための条例」を制定

長野県は、平成28年に子どもを性被害から守ることに特化した全国初の条例として「長野県子どもを性被害から守るための条例」を制定しています。条例を制定した背景について、以下のように説明しています。


長野県はこれまで住民運動、事業者の自主規制、行政の啓発により、県民運動として地域ぐるみで青少年の健全育成に取り組んできたが、インターネットや携帯電話等の発展・普及などの社会環境の大きな変化の中で、子どもの性被害が増加し、看過できない状況になっている。

このため、性教育等の充実や県民運動の活性化、性行為等に対する処罰規定、被害者支援を含む条例の制定により、これまで青少年の健全育成を県民運動中心に取り組んできた長野県の伝統と特性を生かした子どもを性被害から守るための新たな仕組みを作るものである。

(「長野県子どもを性被害から守るための条例」より引用)


(長野県子どもを性被害から守るための条例について:保護者(大人)向けリーフレット)

これは、日本のどの地域においても共通して向き合うべき問題ではないでしょうか?

そして、この条例では子どもへの性被害の予防策として、「人権教育・性教育、情報モラル教育の充実」や、「子ども、保護者等が性に関する相談をすることができる体制の充実」や「子どもが安心して過ごせる居場所の整備の推進」が明記されています。

性教育についても教育員会が作成する「性に関する指導の手引き」の改訂・充実化、教員向け研修の実施、中高生や特別支援学校高校生向けのパンフレットの作成と配布、指導啓発DVDの作成・配布、地域における性教育の講演会の経費支援の他、インターネットの適正使用の講演会の実施が行われています。

その一方で、長野県といっても広域であり、その意識が各市町村・地域にまで浸透していくためには、ある程度時間がかかることが予想されます。

対話を取り入れた性教育のカリキュラムを実施する私立学校

学校独自の取り組みとして、性教育のカリキュラムを作っている学校もあります。中学1年から高校3年まで、オリジナルのテキストを中心に性をあらゆる側面から学ぶ「吉祥女子中学・高等学校」や、ジェンダーを学ぶ「正則高等学校」が有名です。

今回は、「大東学園高等学校」の取り組みを取り上げたいと思います。同校では、一方的ではない生徒との相互のコミュニケーションの中での「性」の学びを実践されており、大東学園高等学校の教員で一橋大学等でも講師を務める水野哲夫先生にお話しを伺いました。

(大東学園高等学校 水野哲夫先生)

大東学園高等学校の総合学習「性と生」において、教員同士がチームを組みながら授業内容を検討しながら進めています。クイズやゲームを取り入れながら生殖についての科学的な知識や性の多様性を学んだり、人間が性的な関係を持つ意味、交際関係を含む様々な人間関係やそこから感じた感情などを生徒自身も考え、向き合っていきます。

たとえば、「デートDV」といった恋愛関係の中での暴力を取り上げる際には、まず「人間関係」という広い枠組みから以下の3点を生徒に問いかけます。


1.これまでどんな人間関係を経験してきたか?
2.人間関係の中で自分が「受けた、得た、感じた」プラスのものとマイナスのもの
3.どんな要素がプラスとマイナスを分かつのか?


そして、その人間関係の一つとして恋愛関係や暴力について取り上げていきます。また、性別・ジェンダーを明示しないイラストを活用したり、男性から女性への暴力に限らず、女性から男性への暴力もあり得ることなど、フラットな見方ができるように心がけているとのことです。

このような科学的な知識に基づき、多様性を前提にした対話を通した性の学びから、生徒が次の年に授業を受ける生徒に向けてのメッセージを書くという中で、このような言葉も出てきたそうです。
「初めは性に関する言葉が出てきて恥ずかしいと思うかもしれないけど、それを笑うのは子どもと一緒。だって、1+1=2と言って、みんな笑わないよね?それと同じで、この授業は性について、そして未来の自分に必要な知識が学べるものだよ!」

「包括的性教育の必要性の理解が進む中で、行政や学校側の姿勢は依然として硬直的ですが、すべての子ども達に性教育が必要という『声』が現場を動かす力になるはず」と水野さんはお話しされます。

このような一部の私立の学校内の取り組みということにとどまらず、良い事例については健康教育におけるカリキュラムの見直しにも検討されるべきではないでしょうか?なお、水野さんは、“人間と性”教育研究協議会においても積極的に教員や性教育に興味を持つ人向けの学びの場づくりにも取り組まれています。

助産師などの専門家講師による講座

性教育を担う人材は教員に限られるわけではなく、専門家の存在も重要です。助産師の土屋麻由美さんは、小学生や未就学児の子どもとその保護者が一緒に学べる性教育講座(性の健康講座)をされています。ピルコンともこれまで2回、「親子で学ぶ性(せい)のおはなし」講座を夏休み期間に行っていただきました。

男女の身体の違いや命の誕生、プライベートゾーンについて、紙芝居や胎児の模型を使って説明します。子ども達の素直な反応を受け取りながらユーモアを交えてあたたかく楽しい雰囲気の中でお話しいただく講座は、子どもたちからも保護者からも大好評です。

(助産師の土屋麻由美さん)

また、全国の避妊教育に積極的な医師による「避妊教育ネットワーク」という組織があり、各地域で精力的に講演活動をされています。日本産婦人科医会の女性保健部会では、思春期から中高年期の女性のライフステージに合せた健康課題についての情報提供を行っており、中高生向け性教育講演用のスライドの公開等もしています。

情報モラル教育から伝える「こころのSNS」

情報モラル教育に特化した取り組みとして、(株)教育ネットは、横浜市を拠点に首都圏近郊を中心に講師派遣のサービスを提供しています。同社のお助けネットインストラクターとして活動する清水夏樹さんは、具体的なネットやSNSのトラブルの事例から以下のことを重要視しています。


・フィルタリングなど具体的な対策を知ること
・子どもの利用状況を把握し、「子どもを危険から守るための」家庭でのルール作りを子どもと話し合うこと
・子どもに「行動の結果」を想像させることで自らの行動に対する責任感を持たせること


そして、「こころのSNS」という、子どもの気持ちを受け止める承認(承認のS)、子どもの興味・関心を知る認識(認識のN)、相談できる雰囲気づくり(相談のS)の考え方が大切であると啓発されています。

(お助けネットインストラクターの清水夏樹さん)

若者に身近なメディアYouTubeの活用

10代~20代のYouTube 利用率は95%という調査結果もあるほど、若者にとってテレビ以上に身近なメディアになっていると言っても過言ではないYouTubeですが、「性教育YouTuber」として活躍する助産師のシオリーヌさんなど、SNSの活用可能性も見過ごすわけにはいかないでしょう。

筆者が代表を務めるNPOピルコンでも、上記のような講師を招いての講座の他に、アメリカの性教育NGOが製作し、無料公開されている子ども向け性教育アニメ動画「AMAZE」を翻訳・吹き替えをし、YouTubeで発信しています。

AMAZEは、子どもたちが性の健康や豊かな人間関係について、楽しく信頼できる情報により学べるようにアメリカのNGO「AMAZE.org」によって製作されたものです。AMAZEの動画は様々な言語に翻訳され、世界中の子ども・若者や保護者、教育・医療関係者に活用されており、ピルコンではクラウドファンディングでの翻訳資金の調達に成功し、現在より多くの動画の翻訳を進めています。

2019年2月には新動画の発表会ができればと思っておりますので、ぜひ、イベント情報をご確認ください。また、次回、AMAZEの翻訳経緯や特徴、家庭や教育現場での性教育での活用の可能性をご紹介します。

NPO法人ピルコン 理事長 染矢明日香

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