Eduwell Journal

2019年12月号 vol.82

インクルーシブ教育を実現するカナダの教育制度とは?(後編)-子ども一人ひとりの特性を重視した指導と教育環境の整備

2020年09月29日 17:09 by Miwa_Hosogoe

カナダでは、障害者や健常者といった枠もなくして、個人の才能を伸ばし、お互いの違いを尊重することを大切にしています。そして、共生のあり方を学ぶインクルーシブ教育を実現させています。日本がこれからインクルーシブ教育を進めていくうえでの参考になる仕組みをご紹介します。

前編(学校教員・教師の学びを支え、多様な専門家がチームでサポート)の記事に引き続き、後編では、カナダのインクルーシブ教育に不可欠なエデュケーション・アシスタント(EA)、アコモデーション、教育環境などについてご紹介します。


(photo by University of Toronto)

子どもたちを個別サポートするエデュケーション・アシスタント(EA)

カナダのインクルーシブ教育の実現で大切な役割を担っているのは、エデュケーション・アシスタント(EA)と呼ばれるアシスタントです。障害の重度によって一人の生徒に一人担当でついたり、数名に一人ついたりします。EAが基本的に個人サポートをしているので、クラスの担任の先生は実際の教科やクラス全体の指導をすることに集中できます。


(photo by Continuing Studies at UVic)

「自分だけ大人のサポートがついて、生徒的に嫌ではないか?」という質問もあるかと思いますが、カナダの子どもたちは、幼少期から人それぞれにあった課題や支援があるというのが分かっており、そういったアシスタントがついていることが当たり前になっているので、それほど問題はないみたいです。

EAがいることで、担任の先生だけでなく、子どもにインクルーシブ教育について教えられる大人がクラスに複数名いるのは他の学生にとっても理念やサポートを学ぶことが出来ます。

EAになるためには、基本的に1年の勉強と現場での実践でプログラムを終了する必要があります。短大や教育委員会などで受講することが出来ます。多くの場合、障害をもったお子さんのお母さんや、福祉に興味がある人がなります。

カリキュラムは、インクルーシブ教育についての理論や、各障害に対してどうサポートしたらいいのか、チームサポートについてなど教育委員会での実践をたくさん取り入れながら勉強します。


(photo by Powell river school district)

自己肯定感を高めることがインクルーシブ教育の基本

とにかくカナダの教育は、子どもたちをほめまくります。特に小学校の時には毎月20名ぐらい表彰されます。「笑顔が素敵だった賞」「挨拶がたくさんできた賞」「数学をがんばった賞」「英語をがんばった賞」など、ほぼ全員が何かの賞を受け取っています。「自分でも取れる賞がある!」と思って子ども達も努力します。

インクルーシブ教育では、英語が最初できない移民の子が英語を学ぶということも特別支援で必要なことで、そういった子にもたくさんの賞が用意され、徐々にクラスに溶け込めるようになっていきます。

カナダの教員が取り組んでいる子どもたちを褒めて、認める姿勢は、そのまま生徒に伝わり、生徒も自分の能力を伸ばすことを楽しみ、生徒同士お互いを尊重するようになります。


(photo by Powell river school district)

具体的な支援方法がわかるアコモデーション

カナダの教員や指導員が子どもの指導を行なう際に、必ず確認するのがアコモデーション(Accommodation)です。アコモデーションは、個人の特性にあわせて、どうやって指導したら良いのか先生や指導員に渡される指導参考書です。具体的な支援方法がリストされています。これは州政府で統一されています。障害の種類や個人の能力にあわせて作成されます。以下は参考にと思い、いくつか例を出します。


・テストは時間を通常の1.5倍にする。
・フォントの大きさは18フォントにする。
・課題を終えるのに通常の学生の1.5倍の期間設ける。
・数学と、英語は特別支援級で学ぶ。
・音楽、その他の教科は一般のクラスで受ける。
・LDの学生の指導で、筆記試験の代わりに面談や課題でテストを行う


1カ月か2カ月に1回チームが全員で集まり、どう指導していったらいいのか相談します。本人もできるだけ参加して自己理解を深めます。


(photo by Powell river school district)

インクルーシブ教育が実現できる学校環境の整備

インクルーシブ教育の実現には、学校の環境もとても大事です。発達障害や多動、聴覚過敏、身体障害など、様々な個性を持った学生が入校してきます。

そういった学生さんにとって必要な機材、教育ツール、教室以外で学生が落ち着ける部屋などが完備してあると、先生も全部を自分の教室で取り組む必要がなくなります。EAと協力しながら、必要に応じてその設備が使えるので授業も取り組みやすくなります。

チャイムの音を音楽にしていたり、目で見てすぐわかる時計や、発達障害が楽しめる遊具、各種勉強機材、落ち着ける部屋、アロマセラピー、セラピー犬、音楽療法、マインドフルネス(瞑想)の導入、色々なアートが飾ってあるアットホームな教室などなど工夫できることがたくさんあります。


(photo by Powell river school district)

州の文科省が運営するテクノロジーセンター

障害にあわせたテクノロジーの支援もあり、BC州では統括センターがあります。どんな先端技術で支援できるのか色々アドバイスやテクノロジーについて機材を借りることが出来ます。

例えば、視覚障害の学生さんが普段使う機材は個人でも持っていますが、試験の際には、そういったセンターから借りた同じ機材でテストを受けてもらいます。ADHDの学生が使っている電子ボールペン(音声が録音される)を使うと、注意欠損の学生さんがどこで注意がとんだか自分のノートと音声を照らし合わせることで自己理解や支援の手がかりになります。

コンピューターソフトや、その他の教育現場で実際に役立つ技術がたくさんあるので、先生方は自分のクラスに入った学生さんの特性に合わせた支援についてセンターへ相談して教育環境を整えます。


(photo by Powell river school district)

みんなが安心して子どもの教育を楽しめる教育現場

本当に色々な学生さんを指導するのは大変なことだと思います。きっと先生方の中には、「インクルーシブ教育って本当にできるの?」と思われる方もいるかもしれません。

私自身2019年5月に行った教育者ツアーでパウエルリバーにある100名の小学生の内30名が障害者という学校を訪問した時に、本当に出来るんだと改めて感じました。

校長先生を筆頭に先生達がみんな笑顔で楽しそうに先生をしていました。目も耳も不自由な学生さんがみんなに混ざって楽しそうにクラスに参加していました。

チャイムも音楽になっていたり、時計もビジュアル補助が付いていたり、多動の学生が落ち着けるアロマがたいてある素敵な部屋があったり、勉強ができる学生にはギフテッドの先生が個人計画書も作ったりと、いたれりつくせりでした。

これまでご紹介してきたポイントを網羅した教育現場は、先生も生徒も保護者もみんなが安心して子どもの教育を楽しめる教育現場になることが分かりました。


(photo by Powell river school district)

実際にインクルーシブ教育を実現できているカナダの教育現場を視察することは、先生方の自信や、スキルアップに役立つと思います。当方でもご案内する教育者向けのツアーを実施しておりますので、ぜひ、カナダへお越しください。

>>前編:学校教員・教師の学びを支え、多様な専門家がチームでサポート

Author:細越美和
Westcoast International Education Consulting in Canada Ltd. 代表。2004年にカナダ・バンクーバーにカナダ留学を支援するウエストコーストインターナショナルを設立。質の高い英語教育、多文化理解、才能教育に力を入れ、これまでに4,000人以上の留学生をサポート。15年間に渡り、発達障害や視覚障害を持つ留学生もカナダのインクルーシブな教育環境で支援経験あり。
さらに、カナダの教育システムの研究・広報活動として、カナダ州立教育機関の正式な日本窓口としてカナダと日本の教育機関の提携業務や日本の教育者向けのカナダ教育機関見学ツアー、カナダ大使館フェアでの州立教育機関のサポート等を行っている。

本記事を書いた記者の記事一覧



本物のカナダの教育を実際に見に行きませんか?


(写真提供:カナダBC州サレー市教育委員会)

ウエストコーストは、「国際教育を通じて、将来的に国際的な視野を持ち、日本の地域社会の発展に貢献できる温かい心を持った日本人の育成」をミッションとして、日本とカナダの教育の架け橋になれるよう、カナダ留学に興味をお持ちの方のサポートとともに、日本の教育機関や教育者とカナダの教育機関・教育者との交流を推進しています。

◆カナダ教育機関との提携に興味をお持ちの教育関係者様へ
カナダの州立教育機関(大学や高校など)は、世界全体とカナダ自身の国際教育の発展に貢献するという観点から、他の国の教育者、教育機関との交流を積極的に行っており、日本の教育機関や教育者との連携にも強い関心を持っています。高校間や大学間の交換留学プログラム作りや日本の高校とカナダの州立カレッジの進学面の連携などにご興味をお持ちの学校関係者様がいらっしゃいましたら、カナダ州立教育機関とお繋ぎすることができますので、ぜひ、お問い合わせください。

◆カナダの教育を現地で体感するカナダ教育機関視察ツアーを実施しています!
カナダの教育現場を生で見てみたい、という方のために、カナダの州立教育機関の視察ツアーを社会貢献事業の一貫として実施しています。小学校教育から大学教育まで、ご要望に合わせてスケジュールを組むツアーです。ご興味がありましたらお気軽にお問い合わせください。

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