Eduwell Journal

2020年1月号 vol.83

民間フリースクールへ補助金等の公的な支援が難しい理由-「公の支配」に属さない教育事業に対する憲法89条の壁

2020年05月26日 12:24 by eduwell_journal

2017年2月に「教育機会確保法」(義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する法律)が施行され、文部科学省をはじめ、多くの自治体でも不登校の子どもたちに対する支援について議論される機会が増えています。

「フリースクールなどの学校以外の場における教育機会の確保が必要だ」という声とともに、主に保護者が利用料を負担し、厳しい自主財源の中で運営されているフリースクール等への公的支援の必要性も言及されるようになりました。

しかしながら、現状は、法的な後押しがあっても、公的な支援がなかなか進んでいません。なぜ、民間フリースクールへ補助金等の公的な支援が難しいのか、教育支援を行なうNPO法人や公益社団法人の役員を務め、現在、尼崎市理事、尼崎市教育委員会参与などを務める能島裕介さんにお伺いしました。


能島裕介(のじま ゆうすけ)
特定非営利活動法人ブレーンヒューマニティー顧問・公益社団法人チャンス・フォー・チルドレン理事
神戸生まれ。関西学院大学在学中に阪神・淡路大震災で被災。友人らとともに被災した子どもたちの支援活動を展開。大学卒業後、住友銀行(現・三井住友銀行)に入行するも、学生時代にやっていた活動を法人化するため退職。2000年、特定非営利活動法人ブレーンヒューマニティー設立。理事長に就任。2017年同法人理事長を退任し、顧問に就任。現在、尼崎市理事、尼崎市教育委員会参与などを務める。


民間フリースクールへ補助金等の公的な支援が難しい理由

「公の支配」に属しない「教育」事業には公金を支出できない


日本国憲法 第89条
公金その他の公の財産は、宗教上の組織若しくは団体の使用、便益若しくは維持のため、又は公の支配に属しない慈善、教育若しくは博愛の事業に対し、これを支出し、又はその利用に供してはならない。


一般的にはあまり知られていないかもしれませんが、わが国の憲法にはこのような条文があります。この条文を素直に解釈すると、「公の支配」に属しない「教育」事業には公金を支出できないと読めます。

昨今、民間のフリースクールに対して、補助金等の給付を求める動きがありますが、民間のフリースクールへの公金の支出は、まさに教育の事業に対する公金の支出であり、憲法89条との関連が議論されることになります。

そもそも、どのような理由で89条のような規定が設けられたのでしょうか?その趣旨については憲法学者の間でも議論があります。

一つは民間で行われている慈善や教育の活動に対して行政が介入することを予防し、その自主性を確保するための規定であるとする自主性確保説、二つ目は公共性の高い事業に対しては公費が濫用されやすいことからそれを予防するためであるとする公費濫用予防説、三つ目は教育等の慈善事業については宗教団体が行う事例が多いことから、それらへの公金の支出を禁止して政教分離の原則を補完するものであるとする中立性確保説です。

また、「公の支配」の意味についても議論が分かれています。政府は「会計、人事等につき国あるいは地方公共団体の特別の監督関係のもとに置かれているということ」(平成5年2月23日参議院文教委員会 内閣法制局長官答弁)という見解を示していますが、学説によってはもっと緩やかな関与であっても「公の支配」と言えるとするものもあります。

ただ、いずれにせよ教育の事業に対して公金を支出するには、一定程度の行政の関与が必要であるということになります。私立学校には私学助成という形で公金の支出が行われていますが、これは私立学校が法律に基づいて設立され、その運営についても行政の監督に服していることから「公の支配」に属していると考えられているためです。もちろん、私学助成に対しても違憲である主張する憲法学者も存在しています。

「公の支配」に属しない「教育」事業には公金を支出できない

「公の支配」に属しているとするための条件とは

では、フリースクールに補助金を給付するために、フリースクールを「公の支配」に属するものとすることは妥当なのでしょうか?

もちろん、「公の支配」がどの程度、厳格なものかにもよるでしょうが、私学助成を例に考えると、「公の支配」に属しているとするためには、次のような条件が必要であると示されています。


(1)学校教育法により学校の設置や廃止の認可、そして閉鎖命令ができる。
(2)私立学校法により学校法人の解散命令ができる。
(3)私立学校振興助成法により収容定員是正命令、予算変更勧告、役員解職勧告などができる。

これらの規定を総合的に勘案し、こうした特別の監督関係にあれば公の支配に属していると解している。(平成15年5月29日参議院内閣委員会 内閣法制局第二部長答弁)


つまり、学校の設置については法律や政令等により人事や予算、設備等について厳格な基準が設けられ、運営においても行政機関から様々な指導や監督を受けることとなります。

しかし、そもそもフリースクールは画一的な学校教育の限界を超え、多様な教育機会を提供しようとするものであり、学校のように行政機関による細かな指導や監督に服することは、その良さや特徴を大きく阻害させる危険性があるものと思われます。もちろん、フリースクールの中には行政機関による「公の支配」に属することに特に抵抗感のないところも存在するかと思いますが、その割合は決して多くはないものと思います。

その一方で、不登校の児童、生徒の数は増え続けており、フリースクールが果たす社会的な役割も大きくなっています。また、公的な補助などもなく運営されているため、その財源は保護者等が負担する月謝や市民等からの寄付金、民間の財団等からの助成金等に頼らざるを得ず、安定的な財源の確保に苦労している団体も少なくありません。

保護者の経済的負担も大きなものになっています。平成27年度に文部科学省が行った調査によるとフリースクールの月額会費(授業料)の平均は約33,000円に達しています。(文部科学省・2015年 小・中学校に通っていない義務教育段階の子供が通う民間の団体・施設に関する調査

不登校の子どもたちの支援において重要な役割を果たしているフリースクールの運営の安定化を図るとともに、保護者の経済的負担の軽減を図るためには、何らかの形で公費の支出を行うことは非常に重要であると思います。ただ、それには憲法89条が大きな足かせになっているのです。

子どもや保護者に対する補助」としての公費の支出

「子どもや保護者に対する補助」としての公費の支出

最も根本的な解決としては、憲法を改正するということが考えられます。ただ、いうまでもなく憲法の改正は非常に高いハードルであるとともに、89条以外も含めて改正の議論が広がることなどを考えるとあまり現実的な解決策とはいえないでしょう。とはいえ、公教育の限界を乗り越えようとしているフリースクールにとって、私学助成のような「公の支配」に属するという選択も、そのよさを大きく阻害する可能性があります。

そのような中で一つの選択肢として「学校外教育バウチャー」(スタディクーポン)の活用が考えられるように思います。

学校外教育バウチャーとは、民間の教育事業の費用支払いに使うことができるクーポン券(バウチャー)を特定の子どもや保護者に対して提供するという取り組みで、わが国においては公益社団法人チャンス・フォー・チルドレンが関西の生活保護世帯の子どもたちや東日本の被災した子どもたちなどを対象に提供を行っています。同法人以外でも大阪市などは自治体の政策として、学校外教育バウチャー事業を実施しており、その利用先にはフリースクールなども含まれています。

所得格差による子どもの教育格差を埋める新手法「学校外教育バウチャー」
(引用:所得格差による子どもの教育格差を埋める新手法「学校外教育バウチャー」の仕組みと特徴とは?

学校外教育バウチャーは、フリースクールなどを運営する事業者に対する補助金などではなく、特定の子どもや保護者に対する補助であると位置づけられています。そのため、憲法89条が禁止する「教育の事業」への補助には該当しません。これにより、フリースクールなどに通う子どもたちや保護者の経済的な負担の軽減を図ることが可能になります。

多くのフリースクールは自団体への補助に強いこだわりがある訳ではなく、利用者の負担を軽減したいと考えているように思います。特に経済的に困窮している家庭にとっては、フリースクールの費用を負担できないがゆえに、学びの機会を失うことにもつながります。このようなことを少しでも減らす取り組みとして、学校外教育バウチャーは一つの選択肢になり得るように思います。

もっとも、この議論がさらに進んで行くと私立学校に通学する子どもやその保護者に対してもバウチャーが利用できるようにするべきだとの主張も出てくるように思います。そして、それが現実のものになると「学校外教育バウチャー」と「学校バウチャー」との境目が非常に曖昧になってきます。

今回の記事では割愛しますが、私は「学校バウチャー」にはついて慎重な立場をとっています。そのため、不登校の子どもたちの支援を目的に学校外教育バウチャーを導入したとしても、学校バウチャーとの境目を明確にし、実質的な学校バウチャーの導入につながらないよう厳格に制度設計をしていく必要があると考えています。

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Editor:Eduwell Journal 編集部
Eduwell Journalでは、子どもや若者の支援に関する様々な情報を毎月ご紹介しています。子どもや若者の支援に関する教育や福祉などの各分野の実践家・専門家が記者となり、それぞれの現場から見えるリアルな状況や専門的な知見をお伝えしています。「Eduwell」は、本メディアがテーマとしてきたEducation(教育)、welfare(福祉)、well-being(ウェルビーイング)の3つの言葉をつなぎ合わせて作られた造語です。本メディアは、子どもや若者を対象とした社会教育事業に取り組んでいる認定NPO法人「夢職人」が発行しています。


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