Eduwell Journal

2020年2月号 vol.84

福祉の届かない子どもや若者へのアウトリーチとは?(後編)-大切なのは、本人による問題解決のプロセスに寄りそうこと

2020年02月27日 19:06 by eduwell_journal

名古屋駅前の繁華街やSNS などで、子ども・若者に対して声をかけ、つながりをつくる活動に取り組んできた荒井和樹さん。従来の児童福祉の取り組みとは異なるアプローチで注目を集めてきました。今回、これまで実践してきたアウトリーチを体系化し、方法論やスキルをまとめた「子ども・若者が創るアウトリーチ~支援を前提としない新しい子ども家庭福祉」を出版されました。

前編(退学していった生徒が気になり、繁華街のフィールドワークへ)では、荒井和樹さんが若者たちへのアウトリーチをはじめるまでの経緯を伺いました。後編では、アウトリーチの目的や形態、実践に向けた留意点について伺います。


(NPO法人全国こども福祉センター:名古屋の夜の繁華街近くでアウトリーチに出かける荒井さん)


荒井和樹(あらいかずき)
NPO法人全国こども福祉センター理事長、保育士、ソーシャルワーカー(社会福祉士)
北海道苫前郡出身。元児童養護施設職員。全国こども福祉センター設立者。日本福祉大学大学院社会福祉学研究科修士課程修了。修士(社会福祉学)。
2012年に特定非営利活動法人「全国こども福祉センター」を設立。現在は同法人理事長、日本福祉大学非常勤講師、名古屋市立大学非常勤講師、同朋大学実習担当教員、愛知県・岐阜県子育て支援員研修講師、給付奨学金の受給者を対象としたソーシャルワーカー、日本財団夢の奨学金奨学生選考委員会の委員を務めている。


様々な分野で用いられる「アウトリーチ」とは?

アウトリーチは、直訳すると、「(外に)手をのばす」という意味があります。オックスフォード現代英英辞典では、「とくに相談機関や病院など、援助を提供する機関に来ることができないか、あるいは来ることを好まないような人たちに対して、サービスやアドバイスを提供する機関の活動」と説明されています。

アウトリーチは、イギリスの慈善活動(友愛訪問)が起源といわれています。その後、医療や福祉分野だけでなく、音楽や芸術、教育分野でもアウトリーチの必要性が認められ、広がっていきました。用語の普及にともない、その概念も多様性を帯びていきます。

例えば、芸術や音楽分野のアウトリーチでは、参加や鑑賞を促すだけではなく、「交流」や「体験」のほか、「相互理解」や「協創」など、双方向的な普及活動として発展してきた経緯があります。アウトリーチを広義に解釈すると「交流」や「相互理解」などの双方向の意味も含まれるということになります。

一方的に(支援を)届けることがアウトリーチ?

現在、日本の福祉分野で実践されているアウトリーチのほとんどは、危機介入や支援を目的とした「専門家主体によるアプローチ」が特徴的です。中には、「支援を求めることができない」「援助機関を利用しない」方々のニーズを正確に把握する前に、援助機関側が一方的に目的を決めてしまっているケースも少なくありません。


(NPO法人全国こども福祉センター:支援の受け手ではなく仲間として迎える活動

2016年8月に公開された映画「ポバティー・インク あなたの寄付の不都合な真実」でも、支援が地元産業を破壊する事例が次々と紹介されています。

「多くの農民が農業をやめた」
「援助を受けて、依存してしまった(自分たちでは生産できなくなった)」
「援助を受け取るのではなく、以前のように米を作り、輸出をしたい」

上記の映画は、善意の支援が経済的自立を妨げている現実を伝え、貧しい人たちは操られる対象でも、解決されるべき問題でもないということを提起したのです。

アウトリーチは、現地調査と社会分析が第一!

アウトリーチは、上記の国際支援と同様に、介入の側面が強い(支援)手法です。積極的な介入は、与える影響も強いことから、現地調査(フィールドワーク)を行い、対象者の意見を積極的に取り入れていくことが重要です。

ところが、国内ではアウトリーチの具体的な方法論は体系化されているとは言い難く、知見の蓄積も十分ではありません。以下に紹介する方法は、「子ども・若者が創るアウトリーチ~支援を前提としない新しい子ども家庭福祉」からの一部引用です。介入の具体的方法やアウトリーチのスキルについて、もっと知りたいという方は、書籍をご参照ください。

1.フィールドワーク

何度も足を運び、顔を合わせ、対話を重ねることで、正確なニーズを把握することが可能です。そのためには事前調査とフィールドワーク(現地調査)が不可欠といえるでしょう。事前調査は、複数の候補地でフィールドワークを行うことが推奨されます。国内で実践されているアウトリーチは、「家庭」への訪問が主流となっていますが、家庭を拠り所としない対象者の場合、会えないこともあります。

事前調査を行えば、候補地が、アウトリーチに適しているかどうかを分析すること、候補地を絞り込むことが可能です。たとえば、どこなら出会えるのか、どこなら介入の負担を軽減できるのか、アクセスしやすい場所かどうか、という点に着目するとよいでしょう。

2.社会分析

フィールドワークで取得した情報をもとに、街の状況や人々の様子、出来事などを丁寧に観察します。具体的には、以下のような点を見ています。

・どのような人や集団がいるのか
・どのような特徴(髪型や服装、持ち物など)をしているのか
・通行人はどのような人で、どの方向に向かう人が多いのか
・どのようなお店があるのか
・通りを行き来する車や、路上駐車の様子はどうか、
・どのような呼び込みや勧誘行為が行われているのか、
・スカウトやキャッチはどのような人たちで、どのような手法をとっているのか
・子ども・若者の間では、何が流行していて、どんな話題が多く取り上げられているのか

上記は一例ですが、マスコミなどが社会問題だとして報道している状況と、実際の現地の様子とが必ずしも一致しない場合があることにも気づきます。


(NPO法人全国こども福祉センター:パトロールに見せない繁華街でのアウトリーチの活動

3.目的をきめる

援助機関によってアウトリーチの目的は大きく異なります。「全国こども福祉センター」では、フィールドワークによる調査と社会分析で得た情報をもとに目的を決めています。目的とは、「被虐待児の救出、保護」「犯罪抑止」「多世代交流」など、最終的に到達したいゴールのことです。

ここで重要なポイントは、子どもたちのニーズや問題意識をできる限り尊重することです。援助機関や専門家としての目的もあると思いますが、それを押しつける形ばかりでは、自尊心を傷つけたり、不信感を抱かせてしまう恐れがあります。特に、地域や年齢が大きく異なるような場合は、互いの考え方や価値観の違いを知るための予備調査として、同条件の対象から意見を聞き、流行やトレンドを抑えておくと良いでしょう。

4.介入

対象者と接触し、人間関係をつくるために働きかけを行います。介入の段階を3段階に分類すると、①喚起(知ってもらう)の段階、②接触(出会いから人間関係づくり)の段階、③交流(信頼関係づくり)の段階に大別されます。①喚起の例では、チラシやポスター、看板設置、SNSによる宣伝広告、着ぐるみを使う、身振り手振りをするなどの方法が挙げられます。視覚や聴覚に訴え、知ってもらうことで、本人からアクセスできる機会を増やします。


(NPO法人全国こども福祉センター:全国の行政・教育機関・民間団体などで、子どもや若者の支援に関する講演を行っている

アウトリーチに「副作用」はあるのか?

危機介入や支援を目的として活用されるアウトリーチ。その積極的な支援活動が、どのような意味を持ち、どのような影響を与えているのか、「副作用」も含めて理解しておく必要があります。医療分野でも、説明を受け、みずからの意思にもとづき、医療を受ける権利、拒否する権利があります。手術や投薬などの際も、リスクや副作用についても事前に説明されます。

しかし、善意を前提とした支援活動の多くは無条件に「正しい」とされやすく、支援と引き換えに発生するリスクについて説明されることはほとんどありません。

例えば、支援・被支援(支援を受ける側)の関係に分断してしまう、支援への依存を高めてしまう、地域での生活を困難にしてしまう、対象者を限定することで社会的偏見や新たな排除を生んでしまう、支援対象者の自尊心を傷つけてしまう、などのリスクが存在します。ところが、支援や介入を受けた(体験した)人からの批判的な意見や問題提起があまりにも少ないことに、私は強い危機感を抱いています。


(NPO法人全国こども福祉センター:繁華街で出会った若者と一緒に楽しむスポーツイベント)

イギリスの地域精神看護師のアウトリーチでは、「リカバリー(回復力)」を重視しています。

三品桂子氏によれば、「5回のうち1回の訪問の数分間が服薬に関する話し合いに充てられるだけであって、話題と活動は生活に関することばかりである。・・・(中略)・・・それは、病気や疾患に焦点を当てている限り、その人のリカバリーは促進しないという考え方も基づいて行われている。」

つまり、「地域で暮らすクライエントを患者役割から解き放ち、生活者として生きることに心血を注いでいる」と報告されています。(精神科臨床サービス 第11巻1号〈特集〉アウトリーチで変わる精神科臨床サービス

では、「患者役割」から解き放ち、「生活者」として生きるには、具体的にどのような取り組みが必要なのでしょうか?


(NPO法人全国こども福祉センター:学生ミーティングの様子。前後で食事の提供もしている。)

「問題」のすれ違い。当事者が実践主体となる取り組みへ

「(問題として扱われ)解決すべき対象として思われていたことに自尊心を傷つけられた」
「(専門家や支援者は)問題解決できたと思っている。なんにも解決してないのに…。」

専門家や支援者は、本人(生活者)とは違います。問題のすれ違いを防ぐには、支援を先行するのではなく、何度も足を運び、顔を合わせ、対話を繰り返すことが不可欠です。

上記の事例のように、他者が、貧困、障害、困難事例だと「問題」を決めたり、代弁したりすることで、自尊心を傷つけてしまったり、本人が取り組む機会を奪ってしまう恐れがあります。大切なことは、自分で問題を決め、本人が実践していく環境を用意すること、本人による問題解決のプロセスに寄りそうことです。それは、問題を乗り越える力、立ち直る力にも繋がります。


(NPO法人全国こども福祉センター:誰でも参加しやすいサークルのような雰囲気で活動している)

「全国こども福祉センター」では、社会的養護出身者や外国籍の子ども、不登校経験者など、10代のときに声をかけられた若者が集い、アウトリーチ活動を行います。支援の客体(受け手)の立場を経験した当事者世代が、実践する主体に回ります。「生活者」として生きるうえで基本的なことは、「私のことは私が決める」という当事者主権であると考えているからです。

何かを一方的に与えるのではなく、子ども本人が考え、実践できる環境を用意すること、すべての子どもたちの権利保障を体現していくことが、わたしたち大人の役割ではないでしょうか。そのための手段として、今後、アウトリーチ・スキルが活用されることを願ってやみません。

2017年8月号:積極的な「アウトリーチ」で、非行を未然に防ぐ取組みとは?-被害者・加害者のどちらも生み出さないために

>>前編:退学していった生徒が気になり、繁華街のフィールドワークへ

(Eduwell Journal 編集部)


子ども・若者が創るアウトリーチ~支援を前提としない新しい子ども家庭福祉
 

アウトリーチとは「手をのばす」という意味です。全国こども福祉センターは、名古屋駅前の繁華街やSNSなどで、子ども・若者に対して声をかけたり、スポーツや社会活動に誘って、つながりをつくる活動をしています。際立った特徴は、団体のメンバーである子ども・若者自身が、子ども・若者に対して声をかけている点です。
 
本書では、この新しいスタイルの児童福祉(子ども家庭福祉)の理念や活動内容を紹介しています。
 
 

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