Eduwell Journal

2020年3月号 vol.85

高校の「総合的な探究の時間」で必ずぶつかる3つの壁とは?-はじめてからが勝負!実践例から学ぶ指導と授業のポイント

2020年09月17日 22:09 by shoko_hatano

学習指導要領の改訂により、高等学校の「総合的な学習の時間」が2022年度から「総合的な探究の時間」に変わります。特に地域の課題解決型学習(PBL)は、島根県の隠岐島前高校の取り組みが注目を集め、地方創生ブームを追い風もあり、多くの高校ですでに取り組まれています。

一方で、「はじめてみたものの、イメージしていたように進まない!」と途方に暮れる声も耳にします。中でもよく聞く3つの壁と、その対策についてご紹介したいと思います。

「探究」の壁①:生徒たちの圧倒的な「やらされ感」

せっかく学校内を説得して探究的な活動を取り入れたのに、生徒たちが受け身で主体的に取り組んでくれない。最初のうちは「徐々に自分で動けるようになるだろう」と先生が引っ張ってみるものの、それが年度の最後まで、次の学年までと続くと準備する側の心も折れてしまいます。

そもそも「地域課題の解決策を考えよう!」と言ってすぐにのってくれる高校生はごく僅かです。「高校生にできることなんてない」、「正解がないなら、どう頑張ればいいのか分からない」、「受験勉強に関係がない」などなど。新しい学びへの戸惑いや抵抗感は生徒も先生も同じでしょう。

文部科学省の資料によると、探究的な学びとは、「①課題の設定→②情報の収集→③整理・分析→④まとめ・表現」のプロセスを発展的に繰り返していくもの、とされていますが、この「やらされ感」を防ぐには、①の課題設定が重要です。課題はすなわち活動の取り組む動機(モチベーション)に直結します。

この動機付けが上手くいっている学校は、まず地域活動に参加をしたり、早い段階でフィールドワークを行ったり、と外に出る活動をしています。いくら教室で情報をインプットし、「この地域の課題って何だと思う?」と問いかけたところで、机上の空論にしかなりません。

宮崎のある高校生の発表で、「最初は学校の最終プレゼンで優勝したい、という気持ちだけだったけど、多くの地域の方に協力してもらい、この人のために頑張りたい、その想いに応えたい、と思うようになった」という話がありました。直接の触れ合いがないと出てこない言葉です。

そのグループは観光がテーマだったのですが、当初は発信を増やして多くの観光客を呼び込もうと考えていました。しかし、地域の方からオーバーツーリズムの問題や、地域で大事にしていることなどを聞き、最終的にはその町の良さをじっくり味わってもらえる体験付きの宿泊プランの作成にたどり着きました。このように、実際に自分たちが見聞きしたことの中からしか、実感のこもったテーマは生まれないのです。

まずは、生徒を外へ出すこと。できれば地域の清掃活動でもお祭りの手伝いでもいいので、地域の人と一緒に活動をして、「ありがとう」をもらって、地域の誰かの役に立つことの楽しさを知った上でテーマを考えられると、当事者意識が全く違ってくると感じます。


(日南学園高等学校でのプロジェクト学習で個別グループへの指導を行う著者)

「探究」の壁②:進まない議論に追い打ちをかける「時間不足」

「何時間あっても話し合いが平行線で結論が出ない」、「高校生にやらせるには高度すぎるのでは?」という意見もよく聞きます。

しかし、なぜ、それが起きるかというと、生徒に丸投げしているからです。一般企業において、経験のない新入社員に新企画を丸投げすることはまずあり得ません。現場で経験を積ませたり、考え方や進め方などのスキルトレーニングを行ったり、アドバイスや進捗管理を行う上司や先輩がいたりするものです。

私もいくつかの学校でチームの進捗を見るメンターを務めたり、チームビルディングのワークショップやプレゼンテーションの講座をしたりします。ただ、それをやっていると議論に十分な時間が割けず、かといって放っておくと何時間あっても進まない、という状況も目の当たりにしてきました。

実際には、探究の授業時間だけで全てをカバーすることは不可能なので、他教科で補完するしかありません。統計データの見方は、数学で学べるはずですし、文献の読み方や文章の書き方は国語で学べるはずですし、歴史や地理に基づく地域産業の見方は社会で学べるはずです。

挙げ始めるとキリがありませんが、これこそ新指導要領で推進されている、探究を軸にした「カリキュラム・マネジメント」でしょう。探究の時間だけで何とかしようした結果、時間が足りなくなり、先生にも生徒にも大きな負担がかかっているという場面も見かけます。

また、「カリキュラム・マネジメント」は、学校の「育てたい生徒像」が前提になります。普段は1から10まで全て先生の言うことを聞くように、という指導を受けていれば、この時間だけ「自由な発想で」と言われても意見は出ません。学級活動や学校行事の中で生徒同士の関係が育まれていなければ、議論の中で反対意見を言うこともできないでしょう。自由度の高い探究の場での姿が、まさしく社会に出てからの生徒たちの姿になるのではないでしょうか。


(日南学園高等学校でのプロジェクト学習でレクチャーを行う著者)

「探究」の壁③:つい口を出したくなる「ありきたり」なアイディア

先にお伝えしておくと、高校生が斬新な企画を思いつくことは稀です。斬新な企画というのは、数多くの企画を知り、様々な経験を積む中で、その要素を組み合わせたり、別ジャンルから持ち込んだりすることで生まれるからです。高校生には、その知識も経験も足りません。

もちろん、企画(方法)は斬新でなくても、目的(理想状態)に高校生ならではの視点を発揮することはできます。しかし「斬新」と「突飛」は異なりますので、過度に斬新さを求めると本質からずれるように感じます。

そして、探究活動で最も難しいのが、関わる大人が「正解」を持たないようにする、ということです。正解のないはずの探究において、大人が正解を持った瞬間、生徒たちは正解があることに気付いてそれを取りに来ます。

課題設定の際に地域の大人や役所の方が来て話をする学校もありますが、その大人が「この市は人口減少が問題だから、市外流出の抑制に取り組んでいる」と話せば、流出の抑制が必要だ、と生徒たちは影響を受けます。本来、人口減少とは単なる現象であって、それを問題とするかどうかは捉え方次第です。

そして、影響を受けたまま実際に取り組みを始めると、生徒たち自身も市外に進学や就職しようとしていたことに気付きます。その結果、自分たちは地域に残りはしないけど、この地域には魅力がたくさんあるから発信しよう、みたいな矛盾をはらんだ表面的な結論で終わってしまうのです。

話し合いの中でも、大人はつい良かれと思って口を出してしまいます。「こういうアイディアもあるんじゃない?」「それより、こっちの方がいいんじゃない?」失敗しないように、何とか時間内に形になるように、具体的に提案をします。しかし、その大人のアイディアを否定することは、高校生には難しいものです。

具体的には大人のファシリテーション力などの方法論になるので、細かくは言及しませんが、個人的には最終プレゼンの実施も良し悪しかな、と思っています。プレゼンがあり、さらにそこに優劣がつくとなると、見栄えの良いものを生徒も先生も意識してしまうからです。

もちろん、協力してくれた地域の方に対して報告の場を設定する、ということは大事なことだと思いますが、「何をやったか」ではなく、「そこから何を学んだか」が大事なので、プレゼンが最終ゴールで振り返りがない、なんて事態は避けて欲しいものです。


(著者の企画した「まちのジョブシャドウイング」のふりかえりの様子)

生徒の「探究」を進めるには、まず先生の「探究」が必要

実践事例や設計方法は本やメディアの記事にすでにたくさん紹介されていますので、そちらを参考にしていただきたいと思いますが、それ通りにやったとしても、最初から上手くいくことはありません。今回ご紹介した3つの壁は、代表例に過ぎず、他にも色々な課題が出てくるでしょう。

高校生ですから、不慣れなこと、できないことはたくさんあります。しかし、それを生徒たちの限界と諦めず、どんな手順、環境、関わり方であれば主体的に取り組めるのか、試行錯誤を続けたとき、日本の教育現場は大きく変わるのではないかと期待しています。

Author:羽多野祥子
教育・研修プランナー。1987年、熊本県八代市に生まれる。東京の大学に進学し、卒業後は企業の新卒採用を支援する会社で営業職に就く。その後、研修企画会社を経て教育関係のNPO法人で新規事業の立ち上げやマネジメントを経験し、2018年10月に宮崎県日南市へ移住。現在は「地方と都市部の教育格差を解消する」をミッションに掲げ、フリーランスとして中高生のキャリア教育や企業の社員研修などに取り組む。

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