Eduwell Journal

2020年4月号 vol.86

韓国の学校や市民が取り組む「民主的な教育」とは?①-子どもの幸せを真ん中に置く「革新教育」の広がり

2020年05月25日 17:23 by eduwell_journal

熾烈な受験競争のイメージが強い韓国の教育。その一方で、そのあり方に異議をとなえるかたちで、「代案教育」(オルタナティブ教育)「代案学校」(フリースクール)が広がりを見せている国でもあります。

また、公立学校の中でも、「革新学校」(イノベーションスクール)と言われる公立のオルタナティブスクールともいうべき学校が増えてきており、子ども主体の民主的な教育を目指す教師のネットワークも構築されています。

2020年2月8~11日に、「EDUTRIP in 韓国」が開催されました。「EDUTRIP」は、「世界の教育に学ぶ旅」がコンセプトで「Demo」が企画運営しています。教育先進地や、問題を抱える国や地域を訪問するツアーを2008年から実施し、多くの教育関係者や、教育を学びたい方がこれまで参加してきました。

今回、「EDUTRIP in 韓国」のツアーに参加し、韓国の教育について学んだことや感じたことをより多くの人に発信したいと思い、ツアーの内容をレポートします。

今回のツアーでは、全国教職員労働組合(全教組)、教育連帯体CIATE(シアット)、実践教育教師の会、アハ!ソウル市立青少年性文化センター、PEACE MOMO、ソウル市立恩平青少年未来進路センター(クリキンディセンター)という6つの施設を見学しました。全3回に分けてご紹介したいと思います。

全国教職員労働組合(全教組)を訪問して

初日は、「全国教職員労働組合(以下、全教組)」に訪問し、全教祖国際部長のファンヒョンスさんからお話を伺いました。

全教組とは、1989年に結成された教韓国の職員の労働組合です。主な取り組みとしては、受験競争の教育政策からの脱却を図り、法律的な整備や民主的な教育政策の提案を行っています。

以下、ファンさんから伺った内容をもとに、韓国の教育の制度や歴史、課題に分けて説明していきます。


(全国教職員労働組合のオフィス入り口)

韓国では大学受験が将来の進路を大きく左右する

一つ目は、教育の制度についてです。韓国は日本と同じく6.3.3.4制です。韓国の大学、専門学校の進学率として、高校から大学への進学率が81.5%、特性化高校から大学への進学率が71.1%だそうです。学ぶ科目は、国語、社会、道徳、数学、科学、体育、音楽、美術、英語等の教科があります。

また、授業時間は、小学校では40分、中学校では45分と、制度は日本とほとんど変わりありません。ただ、日本と大きく違うところは大学受験です。韓国は大学受験が将来の進路を大きく左右するので、高校生はみんな必死に勉強をして、大学受験に臨みます。

そのため、韓国の高校では、授業が17時に終わった後22時まで放課後学習の時間があります。今では必修ではなく自主的に勉強したい人のみ勉強するとのことですが、ほとんどの生徒が放課後も学校で勉強しています。

二つ目に、教育の歴史についてです。元々は、書堂(日本でいう寺子屋)が学校の始まりと言われています。

1890年代から教育の改革期が始まり、入試向けの競争主義が始まりました。植民地支配中、日本式の学校教育と同じ仕組みが敷かれたので、解放後も日本の教育の影響が色濃く残りました。


(中央は全国教職員労働組合のロゴ。右側がファンヒョンス氏。左側が主催者の武田緑氏)

学力は高いが、学校における幸福度は他国に比べて低い

三つ目に現状の教育の課題についてです。世界でも韓国の教育の質は高く、OECDの学力調査(小学4年生対象)では、世界の中で数学は2位、科学は1位を記録しました。しかし、学問に対する興味は、数学は50位、科学は48位と低い現状があります。

また、学校での幸福度、満足度調査では、韓国は約60%と他国に比べて低いことも問題点として挙げられていました。この理由として、入試のストレスや学校の序列化が指摘されています。休み時間にほとんどの生徒が机で寝ている光景も珍しくないそうです。


(全国教職員労働組合での講演の様子)

地方を中心に広がる「革新教育」

全教組としては、偏差値重視、成績至上主義の学校から、試験や評価を廃止し、子どもたちが自ら主体的に学ぶことができるような学校づくりを目指しています。

2017年保守派の朴槿恵(パク・クネ)政権から進歩派の文在寅(ムンジェイン)政権に変わって以降、韓国全体でも「革新教育」への関心が高まっているそうです。

2018年、この地方自治体の選挙では、15/17の州で「革新教育」を支持する教育監が選ばれました。この結果、教育の政策が今後大きく変わっていくことが期待されています。

“幸せは成績順ではない”

私は、ファンさんの話の中で、「幸せは成績順ではない」という遺書を書いて自殺したある女子生徒のエピソードを聞き、とても心が痛みました。

この「幸せは成績順ではない」という言葉がきっかけで、教師たちが成績至上主義からの脱却を求め、声を挙げました。現在の全教組の出発点といえる出来事だそうです。

私も、幸せは成績順ではないように思います。学校は「成績」を求める場ではなく、「幸せ」を求める場であってほしいです。

日本も韓国も教育の質は高いように思いますが、子どもの「幸せ」、「余裕やゆとり」、「豊かさやwell-being」「生きがいや生き方」について考えたり、感じたりする時間が少ないように感じています。

革新教育が子どもたちに「幸せ」を届けられるのかは私自身まだ分かりませんが、全ての子どもたちが、もっと生きやすい日々を送ることができればいいなと思いました。


(全国教職員労働組合の皆さんと「EDUTRIP in 韓国」の参加者での集合写真)

世界の教育のプラットフォームを目指す”CIATE”

二日目の午前中は、教育連帯体CIATE(以下、シアット)を訪れました。

シアットは、教育を通じて誰も排除されない社会や、より平等で正しい社会への変化を作ろうとしている市民・団体をつなげ、韓国の市民や社会の中で取り上げられている様々な教育に関する声を集める活動をしています。

ちなみにCIATEは、「Civil Alliance for Social Transformation through Education」の略称であり、「CIA」は韓国語で「種(たね)」を意味します。シアットが世界の教育のプラットホームになれたら…という思いが込められています。

メンバーのカンさんから、「教育を通じてよりよい社会を目指す」ことをテーマに、SDGsやシティズンシップ教育など、様々な観点からお話を伺いました。


(教育連帯体「CIATE」のオフィス入り口)

SDGsに即した教育政策

2015年に国連が定めたSDGsの4つ目「質の高い教育をみんなに」の中にある10個のターゲットのうち、4.7は以下のように示されています。

「2030年までに、持続可能な開発のための教育及び持続可能なライフスタイル、人権、男女の平等、平和及び非暴力的文化の推進、グローバル・シティズンシップ、文化多様性と文化の持続可能な開発への貢献の理解の教育を通して、全ての学習者が、持続可能な開発を促進するために必要な知識及び技能を習得できるようにする。」

シアットでは、この4.7に即した教育政策の必要性を提示しています。

シアットは、アジア南太平洋基礎・成人教育協議会(ASPBAE)や世界教育フォーラムなど、国際社会に関する会議やイベントに参加し、韓国で行っている教育政策を世界に届けたり、世界で行われている教育政策を韓国の市民社会に届けるといった「世界(global)と地域(local)をつなぐグローカル(glocal)な役割」を担っています。

カンさんは「国連を含めて、それぞれの国家が教育に責任をもてるようにするためにも、シアットが市民と世界を繋ぐ連帯体(ネットワーク)となり、民主的な教育が実践できているかモニタリングできるようになりたい」とおっしゃっていました。


(教育連帯体「CIATE」での講演の様子)

盛んに行なわれている民主市民教育

SDGs4.7の中でも、現在、韓国では、グローバルシティズンシップ教育が盛んに行われています。韓国では、持続可能な民主主義の発展を市民の資質と意識から支えるという意味で、「民主市民教育」と呼ばれています。

「社会科」の教科としてこの民主市民教育が行われているのに加え、民主市民教育の専門的教育機関のひとつである選挙研修院が学校と連携して授業を行ったり、中学生を対象に、選挙研修院と各市・道地域の選挙管理委員会が共同で政策決定や政治のプロセス等を体験するプログラムを行ったりと、様々な取り組みが行われているそうです。


(教育連帯体「CIATE」の皆さんと「EDUTRIP in 韓国」の参加者での集合写真)

どのような子どもを育てたいか?

カンさんは民主市民教育を通じて、「子どもたちが社会的、政治的、道徳的に物事を捉えられるようになって欲しい!」とおっしゃっていました。

現在、日本では、政治教育や民主主義教育、シティズンシップ教育があまり注目されていないように思います。「政治的中立」や「政治的行為の制限」という言葉が一人歩きしていて、政治について踏み込んだ教育ができていないように思います。

これらの教育を十分に受けていない子どもたちは、政治に関心がなく、自分の意見をもたずに「多数派に加わればいいや!」という考えをもってしまうかもしれません。

私自身の意見としてですが、「自分の意見を持ってそれを表現すること。」「人の意見を聞いて必要に応じて自分の考えを修正すること。」この二つを大事にすることが、民主的な教育を実践するうえで、学校としての重要な役割であるように思います。

シアットは「民主的な教育とは何か」について考えるうえで、とても良い機会になりました。

Author:Eduwell Journal 編集部
本記事の執筆は、流矢武旺が担当。Eduwell Journalでは、子どもや若者の支援に関する様々な情報を毎月ご紹介しています。子どもや若者の支援に関する教育や福祉などの各分野の実践家・専門家が記者となり、それぞれの現場から見えるリアルな状況や専門的な知見をお伝えしています。「Eduwell」は、本メディアがテーマとしてきたEducation(教育)、welfare(福祉)、well-being(ウェルビーイング)の3つの言葉をつなぎ合わせて作られた造語です。本メディアは、子どもや若者を対象とした社会教育事業に取り組んでいる認定NPO法人「夢職人」が発行しています。


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