Eduwell Journal

2020年4月号 vol.86

学びの多様性を尊重できるラーニングダイバーシティへ③-地域に多様な学びの場をつくり、学びの権利を保障する

2020年09月17日 10:42 by eduwell_journal

2020年2月15日にタワーホール船堀(東京都江戸川区)において、NPO法人ダイバーシティ工房が主催し、「地域に多様な学びの場を〜これからの学びのあり方をさぐる〜」と題したセミナーを実施いたしました。

これまでの記事(発達障害の有無に関係なく、全ての子どもたちに必要な視点)では、一般社団法人子ども・青少年育成支援協会の理事で臨床心理士の村中直人氏に講演についてお伝えしました。本記事では、村中直人氏コーディネートのもと、和泉薫氏(NPO法人キッズドア)、綾部太輔氏(NPO法人ダイバーシティ工房)、木村砂織氏(東京シューレ葛飾中学校)、熊谷一亮氏(NPO法人eboard)の4団体のパネルディスカッションの様子をご紹介します。

「学びの機会の多様性」「学びの方法の多様性」の問題について、各団体がそれぞれの団体の取り組みをもとに議論していきました。


(写真左手から和泉氏、綾部氏、村中氏、木村氏、熊谷氏)


和泉薫(NPO法人キッズドア 元・第1事業部 部長)

「すべての子どもたちが夢や希望を持てる社会の実現」を目指し、東京都、宮城県、千葉県にて学習支援事業を実施。東京都では教育庁及び8つの区の委託事業を請け負っており、江戸川区内では小学校5年生~高校生世代までを対象に、21箇所で学習会を開催。
学習支援だけにとどまらず、キャリア教育や体験ワークショップの機会を通じて、子どもたちが様々な職種、年齢の大人と出会うきっかけづくりも行っている。

綾部太輔(NPO法人ダイバーシティ工房 発達支援事業部マネージャー)
「すべての子ども達が多様な価値観に出逢い自立して生きていける社会」を目指し、市川市を拠点に保育園、放課後等デイサービス、無料学習教室等、多様な成長過程の子ども達への支援を実施。
放課後等デイサービスは近隣の江戸川区、船橋市でもスタジオplus+の名称で展開。発達障害の特性により学校生活や社会生活での生きづらさを抱える子ども達への学習と生活スキルの支援を通し、困り感の軽減と自己肯定感の向上をサポートしている。

木村砂織(学校法人東京シューレ学園 東京シューレ葛飾中学校 校長)
2007年4月に開校した私立中学校。母体であるフリースクール東京シューレは、1985年に親・市民によって、不登校の子が通う居場所・学び場として設立。
葛飾中学校には、デコボコルーム、個人学習室など、学校独自の空間が作られ、子どもたちが自分の安心できる居場所を見つけたり、自分のペースで学ぶことができたりする工夫が施されている。2020年4月には東京シューレ江戸川小学校を開校した。

熊谷一亮(NPO法人eboard コンテンツマネージャー)
eboadは、「学びを諦めない社会へ」をミッションに、どんな環境にあっても学びのチャンスを届けられるよう、テクノロジーと人の手を組み合わせて、すべての子ども達の学びが支えられる社会の実現を目指している。
個人のご家庭での利用のみならず、教育現場においては、全国の現場で蓄積された活用ノウハウや、学習サポートについての研修を提供。学力だけではない、学び方や学習意欲・自信につながる場づくりを実践。


学校以外の学びの場や居場所も大切にする

和泉氏:私たちの学習支援には、学校でうまくいっている子もいるし、逆に学校に居場所がない子ども、不登校の子どもも多くいます。学校では休み時間に本を読んでいたり、トイレに行くだけだったりする子どもが、ここ(学習会)に来ると人気者であったり、話が上手であったりすることがあります。

子どもたちにとって、いつもと違う自分を演じられる場所があることは、とても大切です。そう思い合える関係を築くために、子どもとスタッフやボランティアさんがお互いにニックネームで呼び合うことを大切にしています。

子ども達が学校以外で行ける場所があることがすごく大事であると感じます。ただ「ここに合わさなければならない」と思ってしまうと、学校以外の場所でも苦しくなってしまうかなと思います。「ここが合わなかったら次のところに行ければいいや」と思えるくらいが子ども達も楽なのです。


(和泉薫 氏:NPO法人キッズドア 元・第1事業部 部長)

木村氏:学校をつくってよかったと思うことは、フリースクールでは出会えなかった人たちと出会えたことです。学校という場所を選択し、いろいろやっていきたいと考えて選んでくれる人がいます。

一方で、私たちは「学校」ということで、中学校の3年間という期間が決められています。(不登校の期間があって)やっとシューレに入ったからには毎日登校しようと思っていたけれど、そうはならない人もいます。そういった場合、私たちは子どもたちに「無理してこなくていいよ」と伝えています。無理してきている子どもに対しては、「家でゆっくりしていいよ」と言うのです。学校に来ないことを否定的に見るのではなく、学校の仕組みの中にホームスクールの制度を取り入れ、家での学びも大事であることを発信しています。

ホームスクールを選択し、家で長い間、穏やかにやってきた子どもたちが、高校や大学では毎日通っているというようなことは、よくあることです。学校以外の場での学びがもう少し認められることで、子どもたちの負担が軽減されるのではないかと思います。不登校はまさに自分のあり方、学びのあり方がどうかというところを突き詰められます。私としては、学びの力をつけていくという点で(不登校は)かなり有効だと思います。


(木村砂織 氏:学校法人東京シューレ学園 東京シューレ葛飾中学校 校長)

村中氏:ホームスクールが取り入れられれば不登校という言葉が減ってくるのではないかと思います。「中学校だから中学生しか来られない」という学校で設けられるいわゆる生物学的な年齢制限も、そろそろ見直されていいのではないかと個人的には感じています。

一人ひとりの子どもの特性に応じた「学びの方法」の多様性

熊谷氏:私たちは「eboard」という動画とデジタルドリルを使った学習ツールを提供していますが、ツールが変わると、子ども達の学習に対する向かい方も変わってくると感じています。そして、子ども達の向き合い方が変わると、周りの先生方、支援者の向き合い方も変わっていきます。

例えば、私たちICTの教材ですが、PCやタブレットなどの端末を使います。紙と鉛筆だけ使っていると、中々文字認識が苦手な子はついていけないケースがありました。そうした子でもPCに入力することはできる場合があるのです。

また、今までは手書きの問題集しかなかったところに「ここの範囲は苦手だからeboardで復習してみよう」とか「今は試験が近いから動画を見るより、問題集を使って演習してみよう」など、自分の学習の時間になったときに、学びの選択肢が増えていることはすごく感じます。

先生たちにとっても、「動画で学習する」という選択肢が一つ増え、「今日、何やる?」という問いから入ることができます。それによって、子どもたちの学びの向き合い方も「昔、習った範囲に戻っていい」「未習の範囲を進めてもいい」と多様になっていると感じます。


(熊谷一亮 氏:NPO法人eboard コンテンツマネージャー)

和泉氏:私たちの場所でも作文用紙に作文を書くことは苦手で止まってしまう子どもがいます。しかし、パソコンを与えてWordで打つようお願いすると、スラスラ書き出し、あっという間に2,000字くらい書いてしまいます。その子は書けないわけではなく、ツールがあっていないだけだと考えられます。そのような部分を柔軟に対応するようにしています。

また、分からないことを言えなかったり、誰に言えばいいのかわからなかったりして、書いたふりをする子もいます。それならどうしようかと、一緒にやってみると意外と本人に合う方法を見つけられます。

綾部氏:みなさんのお話を聞く中で(発達障害をもつ子どもたちに対しての)自分自身の学習支援を振り返った時に、登山ガイドのようだと感じています。学習をしていくうえで、本人からしたら「難しい山=課題」を登らざるを得ない時もありますが、そんな時に、違う山からまず登ってみようと提案するのです。

その子にあった山を探すことは、その子にあった目標を見つけてあげることにもなります。登り方も変えていいし、途中で休憩してもいい。虫や花を見ながらゆっくり歩いてもいい。その子にあうツールがあれば、補助になる杖を使ってもいいのです。そうしながら自分なりの山の登り方を見つけて、一つずつ達成していってもらうことが「自立した学習者を育てること」だと思っています。

また、保護者の方がその子の特性や得手・不得手を理解してあげるというのが、子どもをよりよく支えることに繋がります。保護者の方にも伝えながら、その子にあった学び方を共に考えるようにしています。


(綾部太輔 氏:NPO法人ダイバーシティ工房 発達支援事業部マネージャー)

村中氏:(子どもが)できたかできなかったかというより、学びを提供する側が「できているか」という考え方は、今までの教育や学びの支援としてあまりない視点ですよね。計算問題を「出来た」「出来なかった」と一喜一憂するところから、こちらが提示していたことが子どもたちに合っていたのかという考え方は、「学びの方法」の多様性の問題に関する部分であると感じます。

生涯にわたって学び続ける意欲を育む

綾部氏:「自立した学習者」を育てる、ということを考えると、自分にはどういう道具があっているのかを、ある程度、早くみつけてあげたほうがいいと感じることがあります。支援者は何年も一緒にいられず、いつか支援の手を離さなければなりません。

和泉氏:小、中学生を経て高校生、大人になってくると、支援者側のエゴでついつい手放しづらくなってしまうことがありますよね。しかし、大人になる過程で、子ども達にいかに巣立っていってもらえるかを考えることが、その子ども達の生きる力、どんな所に行っても学ぼうとする意欲を育てていくことに繋がると思います。

熊谷氏:支援する側は、どうしても「この子に何ができるようになってほしい」と自分でビジョンを描きがちです。そうなると、時として「この子が何を求めているか」という視点を見逃してしまう状況が生まれてしまいます。どの環境にいても「あなたはこうしたほうがいい」と言われる状況が続いていくと、子ども達にとって安全な場所がなくなってしまいます。

セーフティネットの機能として、「やりたくない時はやらなくていい」「学校に来たくなければ来なくていい」「ここでは勉強したくなければ最初は遊んでいていい」という環境があることの大切さを、今日改めて感じました。


(NPO法人ダイバーシティ工房:「地域に多様な学びの場を〜これからの学びのあり方をさぐる〜」パネルディスカッション)

木村氏:その子のことを「私はわからないのだ」という前提からスタートすることを意識しています。かつてそういう似たタイプの人とは、出会ったかもしれないけれど、この子と出会うのは初めてなのです。その中で日々のやり取りを重ねながら、互いに理解を深めていくようにしています。 

現在の教育の現場では子どもの権利が保障されていないということがたくさんあります。地域に多様な学びの場をつくるということは、その子の学びの権利を保障していくということに繋がると思います。

村中氏:大事なことは「学ぶ」という行為が子ども達、若者達にとって「一定の時期に特化した行為」という時代ではなくなっていくということです。今の子ども達は生涯にわたって学び続けなければいけません。その基盤をつくっていくという視点で考えると、問題1個解けるというのは本当に小さいことなのです。

「学び」ということを身につけていく時に、地域には素晴らしい学びを提供している場があります。そこに繋がっていくこと、子ども達が生涯にわたって学び続けること、それをみなさんの力で達成していくことが大事なのではないかと思います。

>>①発達障害の有無に関係なく、全ての子どもたちに必要な視点

>>②特別支援級における「学習権の侵害」。脳科学からみる能力の多様性。

「ダイバーシティ工房」に関する記事の一覧

Author:NPO法人ダイバーシティ工房
2012年に設立した千葉県市川市のNPO法人。ひとり親家庭や不登校の子どもたち、発達障がいを持つ子どもたちとその家族に寄り添った学習環境づくり、さらに地域や行政、学校と連携し、大人も子どもも安心して暮らせるまちづくりに取り組んでいます。

Editor:Eduwell Journal 編集部
Eduwell Journalでは、子どもや若者の支援に関する様々な情報を毎月ご紹介しています。子どもや若者の支援に関する教育や福祉などの各分野の実践家・専門家が記者となり、それぞれの現場から見えるリアルな状況や専門的な知見をお伝えしています。「Eduwell」は、本メディアがテーマとしてきたEducation(教育)、welfare(福祉)、well-being(ウェルビーイング)の3つの言葉をつなぎ合わせて作られた造語です。本メディアは、子どもや若者を対象とした社会教育事業に取り組んでいる認定NPO法人「夢職人」が発行しています。



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