Eduwell Journal

2020年8月号 vol.90

自立援助ホームの開設や運営に必要なこととは?―家庭や施設で暮らせない若者の自立を支える「最後の砦」

2020年09月10日 16:05 by eduwell_journal

年々、児童相談所に寄せられる児童虐待相談件数が増えています。虐待を受けるなどして、帰る家がない子どもたちの新たな受け入れ先の場所として、「自立援助ホーム」が注目されています。

NPO法人ダイバーシティ工房では、2020年4月、「Le Port」(ルポール)という自立援助ホームを新たに開所しました。立ち上げて間もなく、まだ手探りで進んでいる状態ではありますが、立ち上げ初期ならではのエピソードをお伝えできればと思います。

「自立援助ホーム」とは?

「自立援助ホーム」とは、なんらかの理由で家庭にいられなくなり、自立せざるを得なくなった子どもたちに、暮らしの場を与え経済的・精神的な自立を支援する施設です。

児童福祉法第6条の3、児童福祉法第33条の6「児童自立生活援助事業」として、第2種社会福祉事業に位置付けられる児童福祉施設であり、全国で189施設あります。(令和2年6月現在・全国自立援助ホーム協議会より)

原則として、義務教育を終えた15歳から20歳まで(通学しているなど状況によっては22歳まで)の子どもたちを対象としています。18歳で児童養護施設を卒業した後に、行く先がなくなってしまったり、虐待などの理由により家族と暮らせなくなったりと、入居する子どもたちの背景は様々です。


全国自立援助ホーム協議会:自立援助ホームパンフレット/2014 年厚生労働省の調査結果より)

定員は、一つの施設あたり5名~20名と定められていますが、6名前後のところが多くなっています。一つ屋根の下で職員や他の入居者と寝食を共にしながら、自立に向けて準備をしていきます。

複雑な家庭環境で過ごしてきた子どもたちは「中卒」が1番多く、就労面で困難を抱えています。本人に就労するための力がまだ十分に備わっていない段階で、自立を強いられ、働かざるを得ない子どもたちの職探しのサポートや、本人の希望があれば高卒資格を取れるように就学面の支援をします。

安心・安全に生活できる場を提供し、共同生活を送りながら、彼女・彼らたちがホームを出た後も経済的・精神的に自立して生活していけるように、サポートしていくのが自立援助ホームの役割です。

厚生労働省子ども家庭局:平成30年2月「児童養護施設入所児童等調査の概要」

「自立援助ホーム」に入居するまで

自立援助ホームに入居する際は、原則として所在する都道府県の児童相談所を経由することになります。何らかの理由で家庭や施設にいられなくなり、「自立援助ホームに入りたい」という意思をもった児童本人が、児童相談所に申し出ます。

相談の結果、児童相談所が自宅や他の施設に戻れない状況と判断した場合、該当する自立援助ホームに受け入れの可否を確認します。ホーム側の受け入れが可能だった場合、入居という流れなります(児童相談所長からの「委託措置」という手続きになります)。

また、虐待などで自宅にいることが危険な状況になった場合、通常は「一時保護」という形で、児童相談所で子供を一時的に保護しますが、一時保護の定員がいっぱいになっている児童相談所も多く、自立援助ホームへこの一時保護の機能を委託するというケースもあります。


全国自立援助ホーム協議会:自立援助ホームパンフレット/2014 年厚生労働省の調査結果より)

「自立援助ホーム」での支援内容

自立援助ホームが行うことは、生活面・就労面・学習面など日常生活・社会生活全般に関する相談・支援と、その範囲は多岐にわたります。食事の提供、学校や職場に関する悩み事の相談、就職活動のサポート、金銭管理、役所や病院への同行といった入居者への直接的な支援はもちろん、児童相談所をはじめとする関係機関との連携も、本人を取り巻く環境を整えていく上で重要な仕事です。

特に入居して間もない時期は、子ども本人が自分らしく過ごせるように、信頼関係を築くことが何よりも重要な支援となります。虐待やネグレクトを受けてきた子どもたちは大人に甘えることが苦手であったり、他人に対して強い不信感を抱いたりしていることも少なくありません。そうした子どもたちに根気よく寄り添うことが支援者には求められます。

従来、自立援助ホームでは、経済的な自立を目指し就労支援に重きを置いていますが、高卒でないと正規雇用はもとより非正規雇用ですら難しいのが昨今の現状です。ホームごとに様々なカラーがありますが、当法人が運営する自立援助ホームでは、学習支援を専門としてきた法人の強みを活かし、高校入学・卒業のサポートなど入居者への学習支援に注力しています。

また、自立援助ホームは原則として20歳(あるいは22歳)で退所となります。しかし、退所後も様々な課題に直面し自立した生活が困難になるケースが多い現状もあり、退所後も継続的に関わっていくことが求められます。退所者へのアフターケアとして、定期的な連絡・相談の受付や、再入居などの支援も必要となってきます。

「自立援助ホーム」をはじめるには?

自立援助ホームは、社会福祉法人やNPO法人などが運営しているところが多く、事業を始める際は都道府県からの認可を受ける必要があります。大きく分けて、①施設の確保、②運営方針・計画の策定、③職員の確保、④申請の諸手続きが必要となります。開設までの準備期間は約1年で、当法人の場合は本格的に動き出したのは2019年の夏頃でした。

前々から自立援助ホーム立ち上げを構想していたので、ある程度の情報は収集していましたが、2019年の春~夏頃にかけて改めて事業要綱や関連図書での情報収集を行いました。また、市内や近隣市の設置状況を調査し、各ホームの概要を整理し、法人としてどんなホームにしていきたいか話し合っていきました。

秋頃からは支援方針や主な対象者の設定、入居ルールなど細かな規定の策定など準備を進めていきました。また、ホームとして使用する物件探しや、工事業者へ改修工事の相談などハード面の整備に加え、収支計画を作成し職員採用の準備を行いました。児童相談所の定例会議でお時間をいただき事業計画を提案し、フィードバックをもらって計画に反映させていきました。

この頃、同時進行で市内や近隣にある他のホーム4ヶ所へ見学に伺い、ホームの設備面や入居者への対応、スタッフ体制など運営に関する詳細をヒアリングさせていただき、随時計画をブラッシュアップしていきました。


(「Le Port」の工事中の様子)

1月に入ってからはいよいよ準備の最終段階です。職員の採用・配置の検討や、県への助成金(物件の改修費や備品費)申請、開所の申請などを行います。3月に入ってからは物件の改修工事と備品調達、広報物作成や関係機関へ開所のあいさつと、慌ただしく準備が進みます。法人内の定款変更などの諸手続きも忘れてはならない大切な作業です。最終的には、工事完了日に県の担当者立ち合いのもと、開所の審査を経て、2020年4月に開所となりました。

開所にあたって一番大変だったのは、自立援助ホームに見合う物件を確保することです。最低でも5名分の居室(1部屋あたりの面積基準もあります)と、リビングなどの共同スペースがある物件が必要になりますが、賃貸・購入問わず都市部ではなかなか条件に合う物件には出会えません。大きな一軒家であっても個室整備のため改修工事を行う必要があり、当法人でも個室を設置するため物件を改修しました。


(自立援助ホーム「Le Port」のリビングの様子)

「自立援助ホーム」の運営資金

運営にかかる資金の大半は、国及び都道府県などからの補助金が活用できます。開所の準備段階では、基本的に団体の自己資金と、工事や備品代については都道府県からの助成金を活用できる場合もあります。

また、開所の1か月前の諸費用については、通常の運営費の半分と礼金相当の金額が補助金として受け取れます。入居者が入ってから4半期ごとの精算となり、3か月分ごとにまとめて補助金が交付されるシステムです。

補助金は大きく事務費と事業費の2つに分かれており、事務費は運営費(人件費・家賃・水光熱費など)に充てるもので、ホームごとの定員数ごとに決まります。また、事業費は入居者一人ひとりにかかる生活費や学費、交通費などに充当します。

公的な補助金の他、入居者本人も月3万円程度の利用料を払います。ただ、就労が安定しなかったり、学校在学中で利用料を負担できなかったりするケースも多く、自団体からの持ち出しで運営費をまかなっているホームも多いのが現状です。当法人では立ち上げ時にクラウドファンディングを行い、入居する子どもたちの生活援助金を募りました。

次回の記事では、NPO法人ダイバーシティ工房が新たに自立援助ホームをはじめた経緯や、実際の運営の様子をお伝えいたします。

>>後編:子ども支援NPOが自立援助ホームを開設した理由とは?-学習や食事の支援から安心できる「実家づくり」へ

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Author:NPO法人ダイバーシティ工房
2012年に設立した千葉県市川市のNPO法人。ひとり親家庭や不登校の子どもたち、発達障がいを持つ子どもたちとその家族に寄り添った学習環境づくり、さらに地域や行政、学校と連携し、大人も子どもも安心して暮らせるまちづくりに取り組んでいます。

Editor:Eduwell Journal 編集部
Eduwell Journalでは、子どもや若者の支援に関する様々な情報を毎月ご紹介しています。子どもや若者の支援に関する教育や福祉などの各分野の実践家・専門家が記者となり、それぞれの現場から見えるリアルな状況や専門的な知見をお伝えしています。「Eduwell」は、本メディアがテーマとしてきたEducation(教育)、welfare(福祉)、well-being(ウェルビーイング)の3つの言葉をつなぎ合わせて作られた造語です。本メディアは、子どもや若者を対象とした社会教育事業に取り組んでいる認定NPO法人「夢職人」が発行しています。



自立援助ホーム「Le Port」をご支援ください!

自立援助ホーム「Le Port」では、様々な理由で帰る場所がない10代女子が安心して過ごせる暮らしの場を提供しています。仕事をみつけ経済的自立を目指しますが、高校へ通いながらアルバイトを継続するのは大変なことで、将来への貯蓄へ回せるお金は多くありません。

ダイバーシティ工房では「Le port基金」として、子どもたちの生活援助金や、ホームを卒業するときの支援金としてとして積み立てさせていただいています。入居する子どもたちの安心できる生活のため、みなさまのご支援をよろしくお願いいたします。

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