Eduwell Journal

2020年8月号 vol.90

なぜ、子どもの放課後プログラムが「学校化」するのか?-ユースワークの立場から考える学校教育と余暇の距離感

2020年09月03日 19:22 by tppay

2019年8月に開催された世界教育学会(WERA)で「Extended Education」のセッションに出席しました。「子どもの放課後支援の『質』をどう担保するのか」というテーマです。日本では、子どもの放課後支援は、様々な団体等が活動を展開しており、私自身も放課後で育ってきたような身です。

行政の政策としては、「放課後子ども教室」を文部科学省が、学童保育を厚生労働省が牽引しており、両省庁が別々の目的で統合されずに実施されているのが現状です。

学会では、日本の文科省と厚労省の放課後支援施策の違いについての報告、海外の研究者からは、例えば、スイスの「All day school」を事例などの報告、ハーバードの教授からは放課後プログラムへのSTEM教育の導入が、ソーシャルスキルや学校の成績に向上するかの研究成果についての報告がありました。

※STEM教育とは、”Science, Technology, Engineering and Mathematics” すなわち科学・技術・工学・数学の教育分野を総称する語である。2000年代に米国で始まった教育モデルである。高等教育から初等教育・義務教育までの広い段階に関して議論される。(Wikipediaより

そもそも「放課後」とは何か?

「After school program (放課後プログラム) が統合的に実施されていないことが『質』の低下を招くので、より良いプログラムを提供しましょうよ!」というテーゼ。例えば、ハーバード大学の教授は「STEM教育を学校以外でも楽しくインフォーマルに教えれば、学校の成績も上がるし、ソーシャルスキルも高まるよ」というのを、統計学的に実証していたのです。

この研究のエビデンスレベルは不明でしたが、このハーバードの教授によると、

「いい放課後プログラムは確かにいい『アウトカム』をもたらし、プログラムの実施者が『説明責任』を果たすことになって、政府もどこに『投資』していいかがわかるようになる。だからこの手の研究は意義がある」

とのことでした。一見すると自然な論理展開で、納得させられます。

さてそこで僕からの質問です。そもそも放課後プログラム (after school program)や extended education の目的は何でしょうか?

「放課後(after school)」とは「余暇(leisure)」の時間です。Leisureとはラテン語で「~から自由である」「~から許されている」を意味します。つまり、学校の正規のプログラムから自由であることが after school です。

デュマズディエの「レジャー社会学」では、レジャー(余暇)とは「学校、労働、家事ではないこと」と定義されています。余暇とは、活動自体が自己充足的なものという定義もあります。暇なので、何をしなくてもいいし、何かしてもいい。自分で決めればいいのです。

さてここで冒頭のテーゼに戻ると、ここで言うところの子ども向けの放課後プログラムが、なぜか放課後なのに学校みたいになっていませんか。

「ソーシャルスキルも学校の成績も向上する!」というのは、そうかもしれませんが、それだけが目指される「放課後」になる怖さがあります。

「『アウトカム』とは結果で報告されるものであって、導きだすものではない」という欧州ユースワーク大会宣言の一文を思い出します。

もちろん、子どもの興味・関心を引き出して、学校以外の場でさらに楽しく科学や数学について学べたら、それが好きな子にとっては素晴らしい機会でしょう。しかし、誰もがそうだとは限りません。

なぜ、放課後プログラムの「教育格差」は起きるのか?

子どもの放課後の「質」は、本人が選択した結果であれば良いのですが、このアプローチですと、

①本来的にSTEM教育的なものが好きな子どもが集まる、STEM教育も行う居場所

②学校が苦手でそういうのから距離を置きたい子どものための居場所

この2者の場所で放課後の体験の「質」に差が出てしまうことになります。

①は実践の結果が測りやすいので「説明責任」を果たせて、行政からのバックアップのもと、お金も集まり施策も実行しやすくなります。

しかし、②は居場所事業のアウトカムを求められて「効果がない」と判断されかねません(①で測定した指標と同じ場合)。

②のような居場所は成績も伸びないし、ソーシャルスキルも上がらない。「では、①を頑張っている所により予算配分しましょう」となります。

そうなると、②の居場所作りをしている事業体は、ますます肩身が狭くなってしまいます。こうして放課後がSTEM教育を楽しく学べる場所ばかりが増えていくという流れで「体験格差」が生じる可能性があり、それはすでに指摘されています。(参照:学校を場とする放課後活動の政策と評価の国際比較

この展開は、学校教育の新自由主義化が「子どもの放課後」にも侵食してきたとみることができるのではないでしょうか?

「教育や行政施策の新自由主義化は、『アカウンタビリティー』『アウトカム』『説明責任』『投資』というビジネス用語の多用化に現れる」とあるセミナーで聞きましたが、正にそのようなことが起きています。ちなみに、教育政策の新自由主義化の大きな影響を受けたのはスウェーデンです。(参照:学校の民営化、スウェーデンの大失敗

さらに教育政策を新自由主義戦線に寄せたら大変なことになったアメリカの教育の様子は、「崩壊するアメリカの公教育―日本への警告」でも描かれています。

こういう大きなグロバーリゼーションの潮流の中では、残るものと消えるものがあります。「子どもの放課後とは何か?」という根本的な部分を精査せずに、調査と政策が進むことにならないように見守る必要がありそうです。

学校教育とユースワークの距離感

私のこの発想は、若者の余暇のガーディアイン(守護神)としてのユニバーサルなユースワークの立場の影響もあると思います。

ユースワークの文脈からすると、これ以上「学校教育を広げないで欲しい!」という現場の方の声が上がっています。第二回欧州ユースワーク大会宣言でも extended education を拡大学習(extended learning)として触れています。学校教育における拡大学習(extended learning)としてのユースワークが「学校における出席や学業成績を高める」という言及もあるのです。

しかし、同宣言ではユースワークの「アウトカム」を特定し、計測するべきという圧力がかかっていることに懸念を示し、「アウトカムや影響の計測が重視されるべきではあるが、ユースワークは若者の過程とニーズに集中すべきであり、アウトカムは報告されるものであり、導き出すものではない。」と釘を刺しています。これはつまり、「extended learning を尊重しつつも、学校教育とユースワークの距離感は丁寧に扱いましょうね」ということではないでしょうか。

そんな研究をしていたので、世界のそのような潮流に対して放課後支援がどのように政策の折り合いをつけているのか気になったところでした。学校教育の新自由主義化の枠組みがそのまま extended education にも及んでいるような。しかし、そこは丁寧に取り上げた方が良いような気もするのです。

一方で、放課後支援は、

・だからといって子どもが放っておかれている場所に親は子どもを預けたくない (故に「質」が重要)

・ニーズは子どもの対象年齢によって異なるので多様な場があってよし

・放課後の余暇にも、大人が関わる場とそうではない場という違いもある

・extended education (拡張教育)を古典的な学校教育の拡大と捉えるのは一つの見方に過ぎない

という点にも気づかされました。ここで言われている education が、例えば、社会教育も含む多様な教育実践の一部であるのであれば、それでも良いのではないかとも考え始めました。

※この記事は、「子どもの「放課後」とは何か?ユースワークの立場から考える学校教育と余暇の距離感」を転載したものです。

Author:両角達平
88年、長野県出身。研究者。ストックホルム大学院教育学研究科 (国際比較教育専攻)修士。国立青少年教育振興機構青少年教育研究センター (研究員)、文教大学・駒澤大学・東京女子大学(非常勤講師)、静岡県立大学国際関係学研究科 CEGLOS客員共同研究員。2012年からスウェーデンの首都ストックホルムに留学。以降、視察コーディネートや翻訳、記事執筆、独自調査に携わる。ヨーロッパで訪問した団体の数は100以上。新卒でドイツの若者政策の国際NGO Youth Policy Press(ベルリン)に勤務。その後ストックホルム大学教育学部 (国際比較教育専攻)修士課程を修了。現在は、関東の大学で研究センターと大学で勤めながら、通訳、講演、執筆活動などにも従事。

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