Eduwell Journal

2020年9月号 vol.91

LINEで10代の進路・就職の相談にのる「ユキサキチャット」とは?-否定せず関わる!幅広く長期的な対応で、悩む若者を支える

2020年10月12日 16:33 by eduwell_journal

「その若者がどんな境遇にあったとしても、自分の未来に希望を持てるような社会の構造をつくる。」

これは、認定NPO法人D×P(ディーピー)が発しているメッセージである。D×Pは、主に不登校や、高校中退経験をもつ10代に対して支援を行なっている。

「未来に希望が持てる」ことは、生きていく上での原動力となる。どんな境遇にあったとしても、誰しもが自分の未来に希望を持つ権利がある。

D×Pは、「人とのつながり」「仕事」「安心して住める場所」という主に3つを、オンライン・オフライン(学校現場)で提供し、未来に希望を持てるようサポートしている。

オンラインの事業の一つに「ユキサキチャット」がある。この「ユキサキチャット」は「これからの“ゆきさき”を考えるための相談窓口」というコンセプトで、LINEを通じて進学や就職などの様々な悩みごとを相談できるようになっている。

今回は、認定NPO法人D×Pの代表理事である今井紀明さんに、「ユキサキチャット」についての詳しいお話を伺った。

どんな悩みや相談が寄せられているのか、そして彼らが自分の未来に希望を持つためには、どのような支援が必要なのか。本記事を通して、紹介していきたい。


今井 紀明(いまい のりあき)

認定NPO法人D×P(ディーピー)理事長。高校生のとき、イラクの子どもたちのために医療支援NGOを設立。その活動のために、当時、紛争地域だったイラクへ渡航。その際、現地の武装勢力に人質として拘束され、帰国後「自己責任」の言葉のもと、日本社会から大きなバッシングを受ける。結果、対人恐怖症になるも、大学進学後、友人らに支えられ復帰。偶然、通信制高校の先生から通信制高校の生徒が抱える課題を知る。親や先生から否定された経験を持つ生徒たちと自身のバッシングされた経験が重なり、2012年にNPO法人D×Pを設立。通信・定時制高校に通う生きづらさを抱えた若者に、「つながる場」を届ける若者支援コミュニティを作っている。

 

「ユキサキチャット」が生まれた経緯

-オンライン相談事業が始まったのは、いつごろでしょうか?

この事業を開始したのは2018年の秋ですね。もともとは「LINE相談」として行なっていましたが、他のLINE相談サービスと差別化する意図で、今年の6月末に「ユキサキチャット」という名称にリニューアルしました。

-そもそもオンライン相談事業を始めたのは、どんな経緯があったのでしょうか?

私がTwitterをやっていたことが大きいですね。2017年ごろから、10代の子たちからのDMでの相談が激増して。とても一人で対応できるレベルではなかったんですよ。それで、私以外の人も対応できるようにしていこうと、事業として始めましたね。

-まさに肌でニーズを感じていたのですね。「ユキサキチャット」を主に進学や就職に関する相談の窓口としたのは、何か理由があったのですか?

居場所づくりなどの事業をしつつも、最終的に「仕事」までつなげていきたいというビジョンがあるからですね。アルバイトをしている子たちも、本人の希望があれば正社員の就職までつなげていきたいという思いがあります。

あとは、不登校や高校中退経験のある子たちの進路相談窓口って、今までほとんど存在していなかったんですよ。LINE相談はいじめに関する窓口が多い。なので自分たちの得意分野を活かして、セーフティーネットを作っていきたいという思いでした。


(認定NPO法人D×P:ユキサキチャットのホームページより)

「ユキサキチャット」の特徴とは

-他の機関が行なっているLINE相談と「ユキサキチャット」の違いは何でしょうか?

ユキサキチャットは、基本的に一人の相談者に対して、担当者はほぼ一人、または二人の体制でやっています。相談者のケースが終わるまではずっと同じ人が担当します。相性によっては途中で変えることもありますが、変わる時は相談者の子にもきちんと伝えます。また、相談時間を10時~19時に設定しているので、その時間に連絡が来れば必ず返信します。

他のLINE相談をうけたことのある10代から聞いた話なのですが、一部のLINE相談では、返信が来るのに時間がかかったり、短期間のやりとりで終わったり、やり取りしている担当者が変わっていちから説明しないといけなかったり…といったことがあったそうです。きっと運営に苦労されているのだろうと思うのですが、利用者からするとつらかっただろうと思います。

-リアルタイムで返信が来るのは、相談者としては心強いですね。相談量としてはどのくらいあるのですか?

実人数で、1日に対応しているのは100人超えていますね。今は相談員が7人で、相談対応にあたっています。1人あたり週20人~30人は対応しているのではないでしょうか。

新規の登録者は月に200名くらいで、2020年4月から8月までの間に登録者の数が約2.5倍に伸びています。実際に相談してくる子の割合は登録者の40%以上です。昨年は30%程度だったので、急激に増えています。おそらく、コロナの影響が大きいのではないかと。

-なるほど。ちなみに「ユキサキチャット」の価値はどこにあると考えますか?

宣伝を行なっていないのに、相談者が昨年の10倍くらいになっているんですよ。それだけ、アクセスしやすいサービスなのかなと思います。

こちらから相談者に対して情報発信もできますし、ニーズもヒアリングできる。アンケートもとれるし、セーフティーネットとして緊急支援もしやすい。

10代の子の相談に乗りつつ様々なニーズに対応していくことができるので、そこは大きなメリットとして感じています。


(認定NPO法人D×P:緊急事態宣言後からユキサキチャットの利用者が急増し、8月末で登録者数が1,800名を超えた)

「進学就職相談」を入り口に、様々な相談の対応にあたる

-寄せられる相談としては、やはり進学や就職に関する内容が多いのでしょうか?

もちろん、進学就職相談がメインですが、結構幅広いです。引きこもりの相談もありますし、経済的な困窮についての相談もある。より専門的な対応が必要なケースも増えてきていますね。

こういったオンラインの相談は、「専門外です」と言うことは簡単ですが、深刻なケースはそうも言っていられない。

専門外の相談がきた時、ユキサキチャットでは主に進学就職の相談を受けていることを話した上で、それでもよければ話を聞きますよと伝えています。その場できちんと対応をしていくことが、とても大切だと考えています。

-「進学就職相談」をきっかけに、関連する他の悩みごとも次々に出てくる、ということですね。これらの相談が終わるタイミングはいつになるんでしょうか?

何かしら進学や就職が決まったら、相談としては終了だと考えています。ただ、アルバイトに留まっている生徒は、正社員までなるべく支援するようにしています。

この事業を始めた時から相談にのっている子は、もう2年弱支援していますね。初めは家から一歩も出られない子もいたのですが、いろんなステップを組んで支援を行ない、今度在宅ワークの正社員として働くことになったんです。

-就職の支援は、どのように行なっているのですか?

就職支援の方法は、ケースバイケースですね。本人が自分の力でやれる場合は自分で探すように促しますし、他の企業さんやNPOさんと連携して、情報を渡していく場合もあります。

どんな支援をするにしても、本人のやる力をそがないようにすることを、大切にしています。


(認定NPO法人D×P:ユキサキチャットを窓口に、相談者の状況に応じて次の支援を行っている)

丁寧な相談対応に求められる、専門性

-相談対応をしているのは、どういった方々なのでしょうか?

キャリアコンサルタントや学校教員の資格を持っている人、社会福祉士を目指して勉強中の方など、様々ですね。

今、社内体制の整備をしていて、社会福祉士、精神保健福祉士、公認心理士、キャリアコンサルタント…などの専門的な資格を、みんなが取れるようにすることを目指しています。

D×Pの相談員は、一人ひとりが安心して自分の気持ちを話せるように「否定せず関わること」を大切にしています。

-様々な相談に対応するには、高い専門性が必要ということですよね。

自分たちの専門性を保ち、高めていくために、児童福祉や発達障害、高卒就職など様々な分野の専門家にアドバイザーとして携わってもらっています。いつでも相談に乗ってもらえるのはありがたいですね。

私たちの事業は、不登校や高校中退の子たちの支援に関する「何でも屋」に近いと思っています。もちろん、メインは進学就職相談ですが、それに対応するためにパソコンの寄贈や、生活を安定させるために現金給付や食糧支援をやったりもします。

ある程度対応していかないと、10代のニーズに応えられないです。それこそ、たらいまわしになってしまう。対人支援って芋づる式にいろんな問題が出てくるのが普通だと思うんです。なので、できる限りは対応していきたいなと。


(認定NPO法人D×P:ユキサキチャットのホームページより)

就職支援の後押しが必要

-今後「ユキサキチャット」で力を入れたい部分はありますか?

相談者が増えてきているので相談員の確保はもちろん必要ですが、今はそれ以上に、就職先として連携できる企業さんを増やしていきたいと思っています。一部の地域だけではなく、全国的にある状態にしていきたい。

生徒の中には親元から離れたい子もいるので、就職先が見つかることはかなり重要なことです。D×Pのビジョンに共感していただけて、かつ採用量のある企業さんがいたら、ありがたいですね。

特に今はコロナ禍の影響なのか、在宅ワークのニーズが高まっています。割合としては70%を超えていますね。高卒の子の就職先として在宅ワークができる企業さんを、かなり求めています。

-全国に連携先があったら心強いですね。先ほどパソコンの寄贈をしているとおっしゃっていましたが、在宅ワークを希望する生徒用なんですか?

そうですね。在宅ワークを希望する子に対してもそうですが、プログラミングの勉強をしたい子などにも渡しています。

パソコンを持っていない子は結構多いです。一定の基準は作っているのですが、必要としている子に行き渡るようにしていきたいなと。

今月末で20台の寄贈が完了するのですが、今年中に60~70台の寄贈を目指しています。企業さんやNPOさん、個人で寄贈していただいた方もいて、こういった協力もありがたいですね。


(認定NPO法人D×P:ゲットイット様から寄贈いただいたPC)

-継続的、かつ質の高い支援を行なっていくためには、様々な方面からの協力が不可欠ですね。お話を聞かせていただき、ありがとうございました。

(インタビュー終了)

今、この瞬間も、「ユキサキチャット」には多くの相談が寄せられている。それは未来に希望を描きにくい若者が、それだけ多いということを意味する。

お話を伺って、「リアルタイムで必ず返信する」「否定せず関わる」「就職するまで伴走して支援する」という真摯な姿勢に、とても感銘を受けた。ニーズに応え続ける姿勢が、相談を寄せる若者の希望になることもあるだろう。

個人、企業、NPO、行政がそれぞれの強みを活かしながらセーフティーネットを作り、多くの若者が自分の未来に希望が持てるようにしていくこと。それは、このコロナ禍においては特に急務であると考える。

ユキサキチャット:不登校や高校中退、学校を辞めたい、定時制や通信制に通う10代の就職や進路に関わる相談窓口

>>関連記事:誰にも相談できない10代とつながる-ユキサキチャットの相談員が大切にする2つのこと

Author:Eduwell Journal 編集部
本記事の執筆は、山田友紀子が担当。Eduwell Journalでは、子どもや若者の支援に関する様々な情報を毎月ご紹介しています。子どもや若者の支援に関する教育や福祉などの各分野の実践家・専門家が記者となり、それぞれの現場から見えるリアルな状況や専門的な知見をお伝えしています。「Eduwell」は、本メディアがテーマとしてきたEducation(教育)、welfare(福祉)、well-being(ウェルビーイング)の3つの言葉をつなぎ合わせて作られた造語です。本メディアは、子どもや若者を対象とした社会教育事業に取り組んでいる認定NPO法人「夢職人」が発行しています。

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