Eduwell Journal

2020年12月号 vol.94

コロナ禍における子ども・若者のソーシャルワークとは?(後編)-自分で決めることを支えるエンパワメント・アプローチ

2020年12月10日 15:44 by eduwell_journal

災害(問題)と向き合うのは誰なのか。

ソーシャルワーカーは、どのように人々や災害と向き合っていけばよいのか。

本稿では前半に引き続き、コロナ禍におけるソーシャルワークの具体的な方法や内容について紹介します。

ソーシャルワークとは、国際定義に明記されているように、人々のエンパワメントと解放を促進する活動です。なお、エンパワメントは「すでに持っている力を引き出すこと」、解放とは「束縛(力を発揮できない状態)から自由にすること」と定義します。

よって、本稿では「人は問題を解決する能力をもっている」という前提に立ちます。もっている能力を発揮できないのは、環境や社会のシステムが機会を与えていない(奪っている)、という立場から向き合います。これをエンパワメント・アプローチといいます。

※本記事では専門職以外の読者にもわかりやすくお伝えするため、専門用語はできる限り使用しないようにしています。


(全国こども福祉センター:子どもたちが自分で考え、決めることを支える声かけ活動)

力を発揮できない状態が続く

新型コロナウィルス発生後、実際にどんな問題が子ども・若者に生じているのでしょうか。

2020年3月2日から全国の小中高が休校し、児童館や図書館などの公共施設、若者支援で利用されていたオープン型交流スペースなどが閉鎖・閉館します。5月からオンライン授業を始める学校も増えましたが、「直接、友達と話せない」「だれとも会えず、寂しい」という相談も増えました。

また、失業者の増加や就業者数の大幅減少(※1)による就業状況の悪化、家庭でストレスを抱え込むなどして、DV相談件数も増加(※1)しています。

厚生労働省「自殺の統計:地域における自殺の基礎資料(令和2年)」によると、中高生・大学生、主婦の自殺が昨年に比べて大幅に増加していることが報告されています(※2)。人々が力を発揮できない状態が続けば、生死にかかわる問題へ深刻化していきます。

勤務校や普段NPOで一緒に活動している子どもたちからも、「周囲の目が気になる」「コロナの影響で自分のやりたい活動ができない」という声があがりました。

“わたし”にとっての問題はなにか

コロナの発生から、「全国こども福祉センター」で活動する子ども・若者も精神面で不調が続いたり、家族内でトラブルが発生したりと、様々な問題が表出していきました。

もちろん、すべての問題がコロナだけに起因するとは断定できません。都市と地方での生活に違いがあるように、問題の感じ方や内容も、一人ひとり異なります。

そのため、ソーシャルワーカーは子どもたちとの対話から、以下のような情報を収集・分析する必要があります。

①子どもたちは、何を問題としているのか?
②子どもたちをとりまく環境は、どのようなものがあるか?
※例えば、子どもたちが所属する集団、組織、社会などの環境について目を向けてみましょう。
③本来の力を発揮するために必要な環境や資源は、どのようなものがあるか?

上記の活動をソーシャルワークのプロセスで、「アセスメント」といいます。アセスメントは直訳すると、「分析」や「評価」という意味があります。

ワーカーは通常、面接や直接的な対話、あるいはケース記録などを通して、アセスメントを行います。本人が抱えている問題を理解しようと努め、本人が解決したい課題について一緒に考えます。

ワーカーは丁寧なアセスメントによって、対象者のエンパワメントと【力を発揮できない状態からの】解放を目指します。


(全国こども福祉センター:コロナ禍以前の繁華街での街頭パトロールの様子)

ソーシャルワークの対象と方法

新型コロナウィルス感染症拡大により、面接や対面支援によるリスクも共有されるようになりました。そのため、多くの対人援助専門職が頭を抱えたことでしょう。

3月からは、ほとんどの援助機関やNPOが活動を休止。人々を支えるはずの援助機関や専門職ですら、「何をしていいかわからない」「わたしたちは何もできない」という状態に陥っていました。いわゆる、【力を発揮できない状態】にあったのです。

では、【力を発揮できない状態】から解放するためには、どうしたらよいのでしょうか。

わたしは、これまで実践してきたオンラインの声かけ、居場所づくり活動(アウトリーチ・カフェ&バー)の事例を動画に編集して、複数のSNSで発信しました。また、活動拠点のある愛知県やマスコミに紹介し、オンライン支援の拡充を呼びかけました。その結果、新聞社、テレビ局が取材に訪れ、広く実践事例を発信することが出来ました。

また、ソーシャルワークの実践者が集うNPO法人Social Change Agencyで、対人援助にかかわる専門職(保育士や看護師、大学教授)に実践を共有することができました。5月に開催されたオンラインイベント「コロナ禍でソーシャルワーカーができることを考える」(※3)では、330名以上が参加しています。

上記のNPOはソーシャルワーカーのスキルアップ研修や申請主義の問題に取り組んでおり、現在もコロナ禍においても専門職が実践を共有できるように、オンラインプラットフォームを提供しています。

このような取り組みは、各地の援助機関やソーシャルワーカーを【力を発揮できない状態】から解放するという目的があります。

エンパワメントや解放の対象は、子どもや若者、障害者だけではありません。援助機関やソーシャルワーカー、自治体も含まれるのです。


(全国こども福祉センター:アウトリーチ・カフェ&バーの様子)

問題や必要とするものを、自分で決めること

本稿では「人は問題を解決する能力をもっている」という前提に立ち、ソーシャルワークについて解説してきました。

筆者が理事長を務める全国こども福祉センター(以下、センター)では、声をかけられた子どもたちが、声かけ活動や居場所づくりを運営してきました。コロナ禍においてもオンラインツールを活用し、活動を続けてきました。

それは、ソーシャルワークの理念や方法について、活動者である子どもたちや若者に広く共有してきたことを意味します。

活動者になることは、自分がほしいサービスをつくり出す側に回るということです。

「直接、声をかけてもらえることが嬉しい。」

そう感じた子ども・若者が、みずから生み出したサービスともいえるでしょう。

センターでは、このように子ども・若者が福祉の受け手(客体)ではなく、送り手(主体)になることを目指しています。

例えば、センターで活動を続ける中学生は、フードバンクの連絡先を探し、メールや電話を入れ、ボランティアに必要な食料を調達しています。彼女は送り手(主体)です。そのためセンターでは、代表者やソーシャルワーカーよりも、子どもたちや活動メンバーから多くのファンが集まります。


(全国こども福祉センター:コロナ禍でも活動を継続しようと学ぶ子どもたち)

「人間らしく生きる」を問う

「子ども食堂」や「子ども宅食」という取り組みも素晴らしい取り組みですが、おとなが主体で、子どもが客体となる活動の代表例です。

食事を提供されるという経験と、活動者として食料の調達をおこなうために、地域の社会資源を調べ、フードバンクに足を運ぶという経験は違います。活動の主体になることで見える景色は大きく変わるのです。

子どもたちは、いつまでに、何が、どれくらい必要なのか。どうしたら活用できるのか、みずから考え、行動することができます。

主体を専門職ではなく、子ども・若者におく理由は、本人が問題や必要(ニーズ)を決められることにあります。

コロナ禍では、いつも以上に専門家の判断が重要視されやすい傾向にあります。常に判断に従うだけの生活は、人間らしく生きているといえるでしょうか。

それでは人々が「束縛(力を発揮できない状態)」となり、「すでに持っている力を引き出すこと」はできません。

災害時こそ、「人間らしく生きる」「自分のことは自分で決める」という当たり前の権利を支えていく。

人々のエンパワメントを図り、解放を促進していく。

それがソーシャルワークの役割であると、わたしは考えています。

※1「コロナ下の女性への影響と課題に関する研究会 2020年11月19日」内閣府男女共同参画局
※2「自殺の統計:地域における自殺の基礎資料(令和2年)」厚生労働省自殺対策推進室
※3「コロナ禍でソーシャルワーカーができることを考える

>>前編:居場所を失うことは、ライフラインが途切れること

Author:荒井和樹
NPO法人全国こども福祉センター理事長、保育士、ソーシャルワーカー(社会福祉士)
北海道苫前郡出身。元児童養護施設職員。全国こども福祉センター設立者。日本福祉大学大学院社会福祉学研究科修士課程修了。修士(社会福祉学)。
2012年に特定非営利活動法人「全国こども福祉センター」を設立。現在は同法人理事長、日本福祉大学非常勤講師、名古屋市立大学非常勤講師、同朋大学実習担当教員、愛知県・岐阜県子育て支援員研修講師、給付奨学金の受給者を対象としたソーシャルワーカー、日本財団夢の奨学金奨学生選考委員会の委員を務めている。

本記事を書いた記者に関する記事一覧

子ども・若者が創るアウトリーチ~支援を前提としない新しい子ども家庭福祉

アウトリーチとは「手をのばす」という意味です。全国こども福祉センターは、名古屋駅前の繁華街やSNSなどで、子ども・若者に対して声をかけたり、スポーツや社会活動に誘って、つながりをつくる活動をしています。際立った特徴は、団体のメンバーである子ども・若者自身が、子ども・若者に対して声をかけている点です。

本書では、この新しいスタイルの児童福祉(子ども家庭福祉)の理念や活動内容を紹介しています。

関連記事

いかにして経済的な事情を抱える子どもの「食」を支えるか?(後編)-まち全体で子どもの「食」を支える新たな取り組み「Table for Kids」

2021年1月号 vol.95

いかにして経済的な事情を抱える子どもの「食」を支えるか?(前編)-コロナで経済的な困窮が深刻化。感染症対策からこども食堂も苦慮。

2020年12月号 vol.94

グレタさんを生んだスウェーデンの若者参画社会-なぜ、社会が子ども・若者団体に投資しているのか?

2020年12月号 vol.94

読者コメント

コメントはまだありません。記者に感想や質問を送ってみましょう。

バックナンバー(もっと見る)

2021年1月号 vol.95

本メディアでは、子どもや若者の支援に関する教育や福祉などの各分野の実践家・...

2020年11月号 vol.93

本メディアでは、子どもや若者の支援に関する教育や福祉などの各分野の実践家・...

2020年10月号 vol.92

本メディアでは、子どもや若者の支援に関する教育や福祉などの各分野の実践家・...