Eduwell Journal

2013年11月号 vol.9

大学ミスマッチは本当に防げるのか?-多様な選択肢の裏にある「選べない」人たち

2020年09月20日 17:28 by shoko_hatano

ミスマッチは、滅ぶべき悪か?

「中退」や「ミスマッチ」というキーワードを出すと、「中退することはダメなことなのか?」「全ての人がマッチングするなんて、無理じゃないのか?」といった批判をされることがあります。ご指摘の通り、自分のことを知り尽くし、社会の全てを知り尽くし、だから自分とこの環境はベストマッチである、なんて選択をすることは、現実的には不可能です。

ミスマッチが、その人のその後の人生にマイナスの影響を与えるとすれば、それは「選び方」に問題があるのではないかと思います。選び方には、その選択に至るプロセスがあります。最も大きな違いは、その選択をしたのが、自分なのか、他人なのか、ということです。正確には、自分で選択した、と思っているのか、他人に従った、と思っているのか、ということですが。

親がこの大学へ進学しろと言った、先生に国立大学に進むように言われた、そのようなことは多々あります。それを鵜呑みにして他人の選択に従った場合、うまくいかないことがあると他人や環境のせいにしがちです。自分には原因がないと思っているので、大学に行く意味はない、とサボりはじめたり、ここは自分に合わなかった、と安易に中退してしまったりします。

しかしその後も進路が決まらず、そのままだらだらと家に居続けて、学ぶとか働くといったことを投げ出してしまっている例は少なくありません。これは大学選びに限ったことではありません。就職においても早期離職や「ぶら下がり」などがありますし、結婚における離婚や浮気もそうかもしれません。似たようなことは一生ついて回ります。

私自身は、自分で選んでさえいれば、大学選び自体はミスマッチしても良いと思っています。

なぜなら、その意思決定で得た気づきや反省や学びによって、就職活動の際により精度の高い意思決定ができるからです。大学においては、転学部や編入といった制度を使って所属を変えたり、他学部履修や課外活動など所属を維持しながら方向転換をしたり、といったことが比較的容易にできますが、就職すると「思っていたのと違った!」と言って簡単に異動や転職、副業等ができるものではありません。

ただし補足しておくと、ミスマッチしないよう取り組んで初めて得るものがあるわけですので、「どうせ無理なら何もしない」と自棄になってしまっては、選択の精度は上がりません。

必要なのは、何を「選び」、何を「捨てた」のか、という自覚

私自身は、大学の学びに対しては完全にミスマッチをしていました。経済学という学問が合わなかったのか、マスプロ教育が合わなかったのか、とにかく学んでいることの意義が分からず、最終的には、授業は初回のガイダンスと定期試験直前の2回だけ出て、あとは試験で単位を取得するという、授業料がもったいない大学生活を送りました。(両親がこの記事を読んでいませんように!)

そもそも、どうしてミスマッチが起きたのか。それは、私が東京の大学に行くことを優先したからです。私は熊本県出身ですが、両親からは「熊本大学以上の偏差値の大学じゃないと、熊本を出る意味はない」と言われていました。しかし、その条件をクリアするには、受験勉強をかなり頑張らなくてはならないですし、その条件を無視して自分で学費も生活費も出して東京に行くぜ!という程の勇気もありませんでした。

そんなところに、明治大学の指定校推薦の枠があり、親がここなら良い、と言ってくれたのです。しかし、その年の枠は政治経済学部の経済学科しかありませんでした。そもそもは(今思い出す限りでは)国際系のことを学びたいと考えていたので、少しだけ悩みましたが、3年生からのコース分けには国際政治経済コースがあると自分を納得させ、とにかく確実に東京に行く!ということを選びました。

そんなわけで、自分で決めたので、そのことを多少反省こそするものの、後悔したり、「もうこんな思いは誰にもしてほしくない!」なんて胸を熱くしたりすることはありません。自分が何を「優先」し、何を「妥協」したのか、自覚しているからです。これを優先するためには、ここまで妥協しなければならない、という自覚と覚悟が必要だと考えています。

自分で選ぶために、必要なのは「アドバイス」ではなく「問いかけ」

そんなことを言っても、まだ高校生には自分で考えるなんて難しいんじゃないか、と言う方もいるかもしれませんが、それは過保護だと思います。私の取り組むWEEKDAY CAMPUS VISITで は、高校生を普段の大学の授業に入れ、大学生と並んで授業を受けてもらい、終了後にはグループワークで振り返りをしてもらいます。

すると高校生から、「この学部は幅広いことが学べる反面、目的意識を明確にしておかないとだらだらと過ごして終わってしまいそう」とか、「授業で、大学生がグループで取り組んだ課題の発表をしていたが、図書館にもグループ活動ができるスペースが多くあり、教育内容と施設が連動している」といった深い考察に基づく意見がさらっと出てきたりします。

それを見ていたうちの大学生インターンたちは、「この高校生がこのまま就職活動をすれば、大学生と何が違うのだろうか?」ということを横で議論し始めるくらいでした。

※フダン着の大学に会いに行こう!-WEEKDAY CAMPUS VISIT

このような高校生たちの意見を引き出すために必要なのは、「問いかけ」だと考えています。例えば、「大学生を見ていて、この大学なら成長できそうだと思った」という意見が出てきたとすると、「成長した先輩たちの様子は具体的にどうだった?」「どういうところが成長につながりそうだと思った?」と「問いかけ」ていきます。

これらをそれぞれが考え、意見を交わすことで、「自分はどんな風に成長したいのか」「自分を成長させてくれる環境とはどのようなものなのか」が少しずつ、一人ひとり別々の形で見えてきます。これを、「先輩たちはみんな発表が上手だったね」と言ってしまうと、成長=発表が上手い、と固定化されてしまい、自分なりのVISIONを描く妨げをしてしまいます。

誰もが「これが私の正解」と胸を張れる社会に

いまや、どんな生き方が「正しい」ということは、誰にも言えません。(もちろん、法律に反することはしてはいけませんが)WEEKDAY CAMPUS VISITも「正しい」大学選びのためのものではないと思っています。正確には「正しいと胸を張れる」「自分の言葉で正しさを伝えられる」ためのものです。他の誰しもが成長できる環境ではなかったとしても、自分自身にとっては成長できる環境である、ということは往々にしてあります。

少し前に、フリーランスとかノマドとか、そういった働き方が流行しました。働き方の選択肢が広がったという意味では、とても良いのですが、そのような働き方をする人の中にはノマドの働き方は「良い」働き方で、組織に属する働き方が「悪い」働き方だ、というメッセージが発しているように思える人がいます。しかし実際には、合う人もいれば、合わない人もいるでしょう。

私はもっと、一人ひとりの大人が自分の生き方に胸を張って良いのに、と思います。上記のような価値観の押しつけの代表格は、「やりたいことを仕事にする」です。やりたいことを仕事にすることもまた素晴らしいことですが、それを主張することにより、やりたいこと以外のことを優先して働いている人が、葛藤や劣等感を抱いているように感じます。

私もよく「やりたいことをやっていてうらやましい」と言われます。しかし、やりたいことをやる代わりに、苦手な作業も全部自分がやらなければならない、とか、同世代より給料が低い、とか、旅行する余裕がない、など色々なものを捨てています。惜しいとは思っていませんが、うらやましいと言いながら、そっちを選んだんでしょう?と言いたくなることはあります。

仕事を構成する要素は「やりたいこと」一つではありません。向き不向き・裁量・時間・収入・人間関係、あらゆることがかかわっており、何を優先するかは人それぞれです。また仕事以外にも「人生」を構成する要素はたくさんあります。大事なのは、「問いかけ」られたときに自分の言葉で答えられることです。その自由さをもっと楽しんでもらえればな、と思います。

Author:羽多野祥子
教育・研修プランナー。1987年、熊本県八代市に生まれる。東京の大学に進学し、卒業後は企業の新卒採用を支援する会社で営業職に就く。その後、研修企画会社を経て教育関係のNPO法人で新規事業の立ち上げやマネジメントを経験し、2018年10月に宮崎県日南市へ移住。現在は「地方と都市部の教育格差を解消する」をミッションに掲げ、フリーランスとして中高生のキャリア教育や企業の社員研修などに取り組む。

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