ひみつ基地

2013年12月号 vol.10

2人に1人が進学も就職もしないまま卒業する―生徒数も学校数も増える通信制高校の課題と可能性(後編)

2017年09月22日 15:49 by noriakiimai


(クレッシェンドの授業の様子①)

キャリア教育プログラム「クレッシェンド」

「先生方と協力して、この現状を何とかできないか?」

通信制高校が抱える「2人に1人が進路未決定のまま卒業する」という課題を知った私と共同代表の朴が、このような想いから設立したのが、NPO法人D×P(ディーピー)です。当団体では、通信制高校と提携し、単位化したキャリア教育プログラム「クレッシェンド」という独自の授業を展開しています。単位化された授業を通信制高校で提供しているNPOは、全国でD×Pのみだと聞いています。「クレッシェンド」は「コンポーザー」と呼ばれる大学生・社会人ボランティアと信頼関係を築きながら仕事の話や過去の経験談を語ります。

この授業の目的は塞ぎ込んでいる高校生を「できない」から「やってみたい」という意欲的な状況まで持ち上げることです。10人の生徒に対し、8人の大人が関わり、3ヶ月間、4回の授業を行います。このように長期間にわたって多くの大人と関わり続けていくことにより、信頼関係を築きやすい場を作っています。最初は生徒たちもあまり話しませんが、授業を重ねるごとに自分がやってみたいことを話してくれるようになります。


(クレッシェンドの授業の様子②)

挫折経験を持ち、発達障害などを持っている生徒も中にはいるため、コンポーザーの研修には力を入れています。「D×Pコンポーザー3姿勢」を定めており、コンポーザーの皆さんには、「否定しない」「年上・年下から学ぶ」「様々なバックグラウンドから学ぶ」という3つの姿勢を大切に、高校生と関わっていただいています。様々な職種・経験を持つ大人から否定されずに話を聞いてもらうこと、そしてその大人たちと交流できる機会を持つことで、高校生たちは自己肯定感と社会関係資本を獲得する機会を得ることができます。  

チャレンジプログラム「フォルテッシモ」

また、クレッシェンドで「やってみたい」という意欲が育った生徒に対しては、実際にその「やってみたい」を「できた」に変える「フォルテッシモ」というプログラムを提供しています。フォルテッシモは、通信制高校の生徒に向けた学校外でのチャレンジプログラムです。企業インターン、イベントレポーター、写真展の開催、マラソンへの挑戦など、様々な学外での挑戦の機会を提供します。2013年4月から始まったこのプログラムでは2013年9月までに約30名の生徒が参加しました。大阪のPR会社や雑誌の制作会社で企業インターンをした生徒もいます。また、地域活性で有名な海士町(あまちょう)の旅館でインターンをした生徒も出てきました。


(海士町のインターンで、農作業に取り組む生徒)

実際に「クレッシェンド」と「フォルテッシモ」を受けた生徒にたくさんの変化が生まれています。ある生徒は中学のときからずっとひきこもり状態でし た。そして通信制高校に進学し、私たちの授業に参加してくれたのですが、授業のなかでふと彼が「俺は絵が好き」という言葉をもらしたのです。その言葉をボ ランティアの方が注目してくださり、それがきっかけで彼は絵を主体的に書き始めました。それであれば、「フォルテッシモ」の一環で、D×Pが応援するから 個展を開催してみないかと彼に持ちかけたところ、彼は驚くほどの集中力で25枚もの絵を描き上げ、その年の夏にアメリカ村のアートギャラリーでアート展を 開催することができました。出会った当初よりたくさん話もしてくれるようになり、自分でバイトを見つけて、取り組むようになりました。以前の彼からは考え られなかったことだと思います。


(通信制高校の生徒がアート展のために描き上げた絵)

また、もうひとつ驚いたことがあります。前編でも書いたとおり、「フォルテッシモ」の一環で、2013年の夏に写真展を開催した通信制高校の4人の生徒が、その写真をフォトブックとして自主制作・出版しました。この出版記念イベントのとき、生徒が次のように話したのです。

「”いろんな人に助けられてここにいる”ということを感じた。それを少しでもいいから周囲に返して行きたいと思った。」

その言葉を聞いた時は、驚きました。たくさんの事情を抱え、生きることも苦しそうにしていた彼らです。でも、写真展を通じて、「自分で楽しむだけの 写真」から「誰かに見せる、伝えるための写真」を撮ったことで、誰かのために何かをしたい、という気持ちを持つまでに変わったのだと思い、ジーンとしまし た。

このフォルテッシモというプログラムを提供するなかで、気付いたことがあります。このプログラムは、通信制高校という、毎日学校に通う必要のない生 徒だからこそ実現できるプログラムです。通信制高校に通う生徒たちは多くの困難を抱えた生徒たちですが、通信制高校の仕組み自体は学校に通う回数などが少 ないため、勉強をしながら学外での活動に取り組むことができる仕組みになっているのです。高校生の時分に、学校以外の場所で多様な大人たちと接触する経験 は、その後の人生に大きく影響する価値ある体験になると感じます。

通信制高校には課題もありますが、一方で、全日制高校のモデルにもなりうるような大きな可能性も秘めていると感じます。私たちの取組みはまだ始まったばかりですが、通信制高校の先生方や保護者の方々と協力しながら、高校生たちをサポートしていきたいと考えています。

NPO法人D×P
(ディーピー)  共同代表 今井紀明

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