ひみつ基地

2014年2月号 vol.12

発達障害の子どもに対する適切な支援方法とは?-困った行動を確実に減らすポジティブコミュニケーション

2017年10月02日 11:55 by hitomi_kuma_73


(発達障害のあるお子さんに療育を行うプレイルームの様子)

アスペルガー症候群がなくなる?診断基準の改定

自閉症、アスペルガー症候群、広汎性発達障害など様々な障害名が「自閉症スペクトラム障害」という診断名に統合されることになりました。

2013年に、アメリカ精神医学会が定めるDiagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders; DSMが改定され、診断基準がより明確に、厳密になったためです。グローバルスタンダードともいえる診断基準の改定は、日本の医療や支援の現場にも影響を与えると考えられますが、ひとくくりに自閉症スペクトラム障害といっても、知的な能力や言語能力など個人差が非常に大きいのが特徴です。特に、知的な遅れが軽度である人々の状態をさすキーワードがないことは、支援現場での情報伝達や共有に不便さを生じさせる可能性があります。そのため、アスペルガー症候群等の名前は、当事者の特徴を説明する用語として今しばらく使われていくことになるでしょう。

様々な社会課題と関係している発達障害-6.5%が発達障害の可能性

自閉症スペクトラム障害は、不登校や引きこもりなど、様々な社会的課題にも密接に関係している可能性が示されてきました。

2006年の厚生労働省のデータによれば、ニートの就職・自立支援施設利用者の23.2%に、発達障害の傾向が示されました。徳島大学大学院の境泉洋准教授らのグループが2010年に行った調査では、引きこもりの4人に1人が発達障害の可能性があるとされました。文部科学省が平成24年に発表した小中学校の教職員に対する調査では、通常学級に在籍する発達障害の可能性のある児童数が、全体の6.5%に達するという結果が示されました(表1)。100人に6.5人というと、1クラスに2~3人はいる計算になります。

 

もちろん、教員へのアンケート調査の結果であるため、貧困や虐待を含む後天的要因による学習の遅れや生活の乱れから、特別な支援を要する児童も含んだ値だと考えられます。しかし、この調査では、対人関係やこだわりといった自閉症スペクトラム障害の診断基準に関連が強い項目の該当児童が1.1%いるという結果も示されており、発達障害への対応に関する教育現場の困り感が、浮き彫りになった調査といえるでしょう。

発達障害の子に良いことは、どんな子にも良い-ユニバーサルデザインの考え方

これらのデータは、発達障害により周囲との関係に困難を抱えている人々が、私達が日々生活している社会に沢山存在していることを示しています。職場仲間や、わが子の同級生、親戚や友人の子ども、もしかしたらあなたの家族も、支援を必要としている可能性があります。

重要なことは、子育てや教育、職場と言った誰もが通る道には、ユニバーサルデザイン(障害・能力を問わずに利用することができる事物や情報の設計)に基づいた環境やコミュニケーションの改善が必須だということです。

以下は教育現場の例ですが、子育てや保育、就労の現場でも全く同じことが言えます。

例えば、私達が学校機関のコンサルテーションに行った際に伝える改善ポイントとして、黒板の文字を大きくはっきりと書く、色分けして一目で視覚的に 分かるように書く、黒板に注目をしやすいように余計な掲示物を減らすといった点があります。これは、子どもたちの集中の持続や、内容理解を促すための改善 ですが、さして特別なことではありません。余計なものがない方が集中できる、色分けがしてあった方が書き写しやすいというのは、どの子も同じであるため に、発達障害に限らず全ての子どもたちにとって分かりやすい授業につながっていきます。

良い行動を伸ばし、困った行動を減らすコミュニケーションの方法

環境面以上にコミュニケーションのユニバーサルデザイン化が重要です。

私たちが1番に伝えるのは、「お子さんが困った行動をしている時は、あまり注目をせず淡々と接し、良い行動をしている時に注目して褒めてください」ということです。

①よく授業中に困った行動をする→②先生に注意をされ、クラスメイトから注目される→③また困った行動をする→④先生に注意をされ、クラスメイトから注目される、、、ということを繰り返しているケースがあります。先生側は、「悪いことをしたら叱ってやめさせなくては」とその子の将来を見据えて指導しているのですが、実はそれが逆効果になっています。

この場合は、子ども達にとって「他者からの注目」がご褒美のような働きをし、困った行動を強化してしまっているのです。セットで必ず起こっているのは、きちんと授業に参加するという適切な行動→当たり前のことだから、注目されたり褒められたりする機会がない、という状態です。

通常学級の現場で、授業中に困った行動を起こす子どもの相談を受ける場合、このようなネガティブな循環が起こっていることが非常に多く見られます。このような場合は、「きちんと授業に参加するという適切な行動→先生から褒められたり、友人から注目されたりする」というポジティブな循環を作りましょうと提案をすることになります。

どんな子どもも、四六時中困った行動をしているわけではありません。授業に適切に参加している瞬間を見つけ、「頑張っているね」という声掛けをした り、正解できる簡易な問題で当てるなど、活躍の場を作っていきます。そうすると、子どもが授業に適切に参加している時間が徐々に長くなり、発言など積極的 な行動も少しずつ増えていきます。

「良い行動をしている時に、褒める、注目する」という、当たり前ですが難しいことを徹底すると、子どもたちの適切な行動が増え、褒められる機会が増え、相対的に困った行動が減っていくというポジティブな循環がうまれていきます。

学校全体で取り組むポジティブな行動支援の実例

米国では、オレゴン州を中心に、ポジティブな行動支援が学校単位で体系的に実践されています。研究の結果、全体の3/2以上で児童の問題行動が 80%減少するというデータが示されており(Carr et al., 1999)、その高い効果から様々な学校にノウハウが導入されています。ポジティブな行動支援の詳細なノウハウをまとめた日本語の本も出版されているの で、教育に携わる方々には、ぜひ一読をおすすめしたいと思います。

ポジティブなコミュニケーションが増え、子どもたちの成功体験が増えていくことは、冒頭で触れた不登校や引きこもりといった課題の予防にもつながっ ていくはずです。残念ながら、日本の教育現場ではまだ本格的に導入されている例がありませんが、子どもたちの多様性を前提とした支援のノウハウは、通常教 育の現場でこそ広く取り入れられていって欲しいと思います。

NPO法人ADDS 共同代表 熊仁美

本記事を書いた記者の記事一覧

<参考文献>

通常の学級に在籍する発達障害の可能性のある特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査」調査結果(2012). 文部科学省.
Carr, E. G., Horner, R. H., zturnbull, A., Marquis, J., Magito-McLaughlin, D., McAtee, M., Smith, C. E., Anderson-Ryan, K.  A., Ruef, M. B., & Doolabh, A. (1999). Positive behavior support as an approach for dealing with problem behavior in people with developmental disabilities: A reserch synthesis. Washington, DC: American Association on Mental Retardation.
スクールワイドPBS―学校全体で取り組むポジティブな行動支援」ディアンヌ A.クローン (著), ロバート H.ホーナー (著), 野呂文行 (翻訳), 三田地真実 (翻訳), 大久保賢一 (翻訳), 佐藤美幸 (翻訳). 二弊社.
できる!をのばす行動と学習の支援―応用行動分析によるポジティブ思考の特別支援教育」山本淳一 (著), 池田聡子 (著).日本標準

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