ひみつ基地

2014年3月号 vol.13

「復興」という特別な予算が見え難くさせるもの-本質的な課題を歪ませる「復興予算」の現実

2019年06月05日 13:22 by ymenjo


(東北復興の現状を知る「東北スタディツアー」へ参加した高校生)

東日本大震災で生まれた、もうひとつの津波

「これは大きい地震だぞ!!!」

2011年3月11日、東日本大震災の発生時、私は経済産業省の11階の会議室にいました。当時、経済産業省がすすめていた「キャリア教育民間コーディネーター育成・評価システム開発事業」の自立化委員会の真っ最中。年度末ともあり、全国各地から、キャリア教育を推進するNPOや事業者の皆さんが、今後、キャリア教育を学校と地域をつなぎ推進していくキャリア教育コーディネーターの育成と認定のスキームを議論していたところでした。

会議の参加者は騒然となるも、座長は「あわてないで、落ち着いて。このビルは耐震ですから、しばらくしたらおさまります」と冷静に司会をしていたのですが、高層ビルの経済産業省は、乗り物酔いになりそうなぐらい長時間大きく揺れ、もはや会議どころではなくなりました。

そして会議は中断。

インターネットやワンセグのテレビから、津波の映像や、凄まじい被害の報道が続々と入ってきます。会議参加者の中には、仙台からの参加者もおり、大変な現実に、青ざめていました。家族やオフィスと連絡をとろうにも、電話はつながらない。外をみれば大渋滞。ぞろぞろと歩く帰宅難民。他県から参加した会議参加者は、もはや「今日は帰れない」と判断し、ホテルに向かいましたが、私は、次の日の予定もあるため、その日のうちに帰宅したかったので、新幹線が動くまで経済産業省に待機。経産省内のコンビニの食べ物が一瞬のうちになくなったり、省内で一夜を明かす人のために飲み物や毛布などが支給されたりと、名古屋にいたら経験できなかった震災体験になりました。(ちなみに、私は、首都圏の方が帰宅困難になる中、最終の新幹線で名古屋に帰ることができました。)

幸いにも、私たち愛知県に住む者としは直接の震災の被害は少なかったです。しかしながら、キャリア教育を省庁と連携して国の政策を一歩一歩すすめてきた身としては、震災の二次被害ともいえる現象に直面したのです。



政府・自治体・企業の「予算の引き波現象」にのみこまれていった教育改革

東日本大震災のあまりの被害の大きさに、社会全体はショックを受けました。そして、政府も企業も、「今は復興に日本全体が協力して取り組もう」ということになり、政府、自治体、そして、企業の予算も被災地の「復興」にむけて流れていきました。それは、当然の流れだったと思います。

しかし、このことでその他の地域では、これまで実施してきた事業の予算が切られたり、さきほどのキャリア教育の事業のように毎年、実践を積み上げすすめ、教育を変えて行くために新たな予算を必要とする事業に、新規の予算をつけるということができなくなったのです。

「復興のための予算にあてる」、「復興以外の予算をつけられる状況じゃない」という空気が、政府・自治体内で生まれ、封じ込められていったのです。企業も、これまで行ってきた、環境教育や文化など社会貢献の事業も、「今年は震災復興のため」という名目で消え去ったものもあると聞きます。

そして、生まれた膨大な予算が、「復興予算」というものに装填されました。そして、新たな事業は、復興という冠をつけなければ予算がつかないということで、様々な「復興」という理由をつけ、飲み込まれていきました。この現象は、まるで被災地を襲った津波のメカニズムにも似ていることから、「予算の引き波現象」と私は呼んでいます。

この現象を目の当たりにした私は、このままでは、せっかく積み上げてきたものがダメになる、政府の予算は教育改革などという不急とみなされる予算には当面は向かないと判断し、だからと言って政府の対応をただ待つのではなく、むしろ、こういう時だからこそ絶好のタイミングだ、と地域の企業や市民に呼びかけ、キャリア教育の予算をファンドレイジングするための団体としてアスバシ教育基金を立ち上げたのです。

復興という名目で、見えなくなる本質

被災地に復興予算をつけることが問題だというつもりはありません。しかしながら、「復興予算」という冠つけることで、2つの歪みが発生します。

①被災地固有の問題ではなく、被災していない地域でも必要な予算が、被災地にしか使えないものに変質してしまうこと。

②「復興が終わった」と見なされたときに、ずっと継続的に必要なものなのにも関わらず、財源がなってしまうものになってしまうこと。

例えば、代表的なものとして、平成23年から行われている「復興教育」があります。復興教育とは以下のように説明されています。 


東日本大震災の教訓を踏まえ、被災地の復興とともに、
我が国全体が希望を持って、未来に向かって前進していけるようにするための教育
想定される取組のイメージ(例)
○地域について学び今後の復興と自らの生き方を考える取組
○児童会や生徒会、子供議会などを通じた被災地の人づくり、まちづくりへの提言活動
○異世代との交流等による地域の伝統文化の継承・発展やコミュニケーション能力の育成
○地域資源を生かした地場の商品開発や観光資源への参画
震災の影響により学習が遅れがちな児童生徒への補充学習

(文部科学省:復興教育支援事業


赤字の部分を取り除いてみてください。これは、被災地だけの問題でしょうか?1,2年やればガレキ撤去のようにおわる問題でしょうか?そんなことはありません。被災地だけの問題でもなく、また数年だけやればいいという問題でもない。

案の定、復興教育予算は、平成23年補正予算で予算がつまれたのち、24年度までに3.5億円ついたものが、平成25年9千5百万、平成26年5千万円と 縮減しています。そして、「これはモデル事業だから」と、きれいなプログラム集をつけておわりになるのが通例のパターンです。

他にも、「学びを通じた被災地の地域コミュニティ再生支援事業」なるものもあります。これも、被災地の地域コミュニティだけの問題ではないことを対象としています。おそらく、他の分野でも同様なことはあると思います。 

全国すべての地域で起きている問題への解決策だとしたら、毎年、それぞれの予算と体制を築き、実施しなければならない。

それを「復興」という特別な予算をつけてやることで、問題解決の本質が見えなくなる。

省庁や自治体は、これまでも、この「復興予算」に限らず、そのときのトレンドとなる予算にむらがり、急場をしのぎ、その予算がなくなったところで次のトレンドの予算をさがす。その不毛な繰り返しをしていることに、私たちは気付かないといけないと思います。

一般社団法人アスバシ教育基金 代表理事 毛受芳高

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