Eduwell Journal

2014年8月号 vol.18

年間20万件にも上る誰にも言えない子どもの悩みを聴く-チャイルドラインから学ぶ人を支えるスキルと仕組み

2020年02月29日 23:43 by iwakiri_chika



誰にも言えない、子どもたちの悩み

私たち大人は、子どもの話を「聴く」ことができているのでしょうか。私の所属している団体では、18歳までの子ども専用の電話「チャイルドライン」を運営しています。全国共通のフリーダイヤルとして、42都道府県、71団体が協力し、子どもたちの相談や悩みに応じています。子どもたちからの年間発信数(チャイルドラインのフリーダイヤルにかけた件数)は70万件以上、年間着信数(発信数のうち、各チャイルドラインで実際に着信できた件数)は20万件以上、かけた人数(同じ番号からかかってきた電話を1人とカウントした、チャイルドラインの利用者数)のべ27万人以上に上ります。

「前は仲良くしていた友達が、最近急に冷たくなった気がする。どうしてだろう」、「中学に入って自分の体がすごく変わった。これっておかしいことなのかな」などといった、多くの子どもたちが体験する日常的な問題や悩みから、「なにもしてないのに、いつも先生に殴られる。すごく痛いのに、やめてくれない」、「なんかすごく疲れた。死にたい」という、あってはならないような大きな問題と向き合うことまであります。電話から聞こえる子どもたちの声から、毎日たくさんのことに悩み、また時には、生きづらさを感じていることがうかがえます。

電話の内容は、「人間関係(16.3%)」や「雑談(14.6%)」、「性への興味・関心(10.4%)」、「性行動(7.5%)」、「身体に関すること(6.4%)」などが大半を占めますが、毎日ニュースで取り上げられているような「いじめ(6.1%)」の相談も少なからずあります。また、以上に比べて件数はそれほど多くありませんが、不登校、体罰、虐待、暴力、自殺に関する深刻な相談もあります。

「話したいけど話せる人がいない。親には言えない。友達にも、先生にも。だからここに電話した」。子どもたちは複雑な人間関係の中で、私たちが思っている以上に気を遣いながら生きています。誰にも言えないという孤独や、話しても仕方ないという諦めなど、行き場のない気持ちを抱えて、日々相談相手を求めて、電話をかけてきているのです。

ただ、話を聴いてほしい

子どもたちがチャイルドラインに電話をかける動機は「聴いてほしい・つながっていたい」と感じられるものが多く、半数以上(59.3%)を占めています。何らかの助言を求めているというよりも、ただ寄り添ってほしい。そんな寂しさを抱えている子どもが圧倒的に多いのです。

日々活動に携わるなかで感じるのは、「話を聴く」という行為は簡単なようで実はとても難しいということです。何かアドバイスを求められたとき、いっ たん立ち止まって一緒に考える前に、「もっとこうすればいいんじゃない」、「きっと大丈夫だよ」と、結果が保証できない無責任なことを即座に言ってしまい がちです。また、「今はそういう時期だけど、時間が経てばきっとこうなるよ」と、先のことを考えるように促してしまうこともあります。そうではなく、相手 が「いま・この瞬間」に抱いている気持ちを最後まで聞き、一緒に悩み、考えることが重要だと感じています。

ただただ話を聴く。子どもの力を信じ、その子が自分で前に進めるように一緒に考える。子ども自身が一歩進む力を持っていることを信じる。たとえ何か 答えを求められたとしても、最初から自分の持っている答えを示すのではなく、「この子はどうしたいのだろう」と思いを馳せる。そして、その子の気持ちに寄 り添い、「一緒に考えよう」と声をかけてあげるということが、私たち大人の役割なのではないでしょうか。



支える人を、支える仕組み

チャイルドラインには、「こういう話があったら、こんな言葉をかけよう」などというマニュアルは存在しません。「人間関係の悩み」と一括りに言っても、 100人いれば100通りの悩みがあります。そのため、電話を受ける現場では、一本の電話が終わるたびに「これでよかったのだろうか」と自問自答をする受 け手の姿もよく見られます。中には、受け手だけでは抱えきれないほどつらく、重たい内容の電話や、話を聴くだけでは済まされないような、緊急の対応が必要 とされる電話もあります。

そうしたとき、チャイルドラインには「支え手」という受け手をサポートする人が必ずいます。受け手がその日に受けた電話から肩にのしかかった荷物を一つひとつ降ろしたり、受け手だけでは判断できない事態にアドバイスしたりしています。

誰かを助ける・支援するという「支援者」の立場になったとき、「自分の後ろにはちゃんと支えてくれている人がいるから大丈夫」という気持ちで向き合 えることはとても大切です。たとえ深刻な問題を受け止める場面があったとしても、全てを一人で背負う必要はなく、あくまでも組織として受け止めるというこ と。支援者も一人の人間で、その人を支える存在が常にいるということ。「支える人を支えること」の大切さは、どんな事業においても必要な視点だと思います。

子どもたちのサインに気づける大人に

電話を受けると、「かけてきてくれてありがとう」という気持ちになるのと同時に、「身近に話を聴いてくれる人がいてくれたら…」という想いを抱かずにはい られません。私たちが話を聴いたことで、前に進める子どもたちがどれくらいいるのか、どれだけの子どもたちを支えることができているのか、それは誰にも分かりません。

私たち大人は、子どもに携わる事業を通じてだけではなく、近所や通勤途中など、日常生活の中の色々な場所、場面で子どもたちを見かけ、接していま す。その中で、もし子どもが何かを話してくれたとき、それは子どもに「選ばれた」ということです。選ばれたとき、まずはできるだけその子の話を最初から最 後まで、聴いてほしいと思います。

様々な子ども支援の団体があり、様々な人が子どもに関わっています。それぞれの活動で支えられる子どもの数は、それほど多くないのかもしれません。 しかし、大人が日常的に子どもたちのサインを見逃さず、必要なときに手を差し伸べることができれば、子どもたち一人ひとりにとってきっと大きな支えになる はずです。

※データ出典:「2014チャイルドライン年次報告」
・2013年度 年間発信数706,503件、年間着信数205,091件、かけた人数(のべ)271,070人
・子どもたちの声は、プライバシーに配慮し、編集しています。 

NPO法人チャイルドラインみやぎ 岩切千佳

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