Eduwell Journal

2014年9月号 vol.19

安いだけがメリットではない!シェアハウス型の学生寮とは?-海外では当たり前!大学生が成長する学びの場

2020年05月23日 23:01 by shoko_hatano

あの先生は良い先生だったな、そう思い返すとき、授業が上手かった先生を思い出すでしょうか?それとも教科以外の話が面白かったり、担任や部活の顧問など授業以外の部分でお世話になったりした先生を思い出すでしょうか?

学校教育には教科指導と生徒指導という2つの側面があります。一つ目の教科指導は国語算数理科社会といった授業を通じて行われる教育、もう一つの生徒指導は服装などの生活指導や進路指導、安全指導など生徒の人格や社会性に関わる教育です。

小・中・高等学校ではクラス担任などが生徒指導を担っていますが、実は大学にはその機能がほとんどありません。最近でこそ、クラス担任制度を設けてフォローしたり、キャリアセンターが進路に関わる様々な取り組みをしたり、ということが増えてきましたが、それも限界があるでしょう。大学の場合、研究教育と人間教育という分け方ができますが、現在その人間教育を担う役割として、学生寮が注目されています。

寮は従来、単なる寝食の場だと捉えられ、特に近年の日本ではセキュリティの強化、個室化(風呂、台所も部屋についており、共有スペースがほとんどない)が進んできました。どちらかというと、子どもを預ける親の目線で、安心安全が重視されてきたと言えます。しかし、学生寮には学生同士がコミュニティとなり、コミュニケーション能力を磨いたり、文化・教養を身に付けたり、切磋琢磨し合う可能性を秘めています。今回は、そんな学生寮を通じた教育の事例についてご紹介したいと思います。

学生が学び合い、自立していく海外の学生寮

海外では、「教育寮」や「レジデンシャル・エデュケーション」と呼ばれ、すでに研究や実践が進んでいます。アメリカを例にとると、ハーバード大学のように全寮制(※学部生)の大学もありますし、留学生は入寮必須という大学も多く、ほとんど大学が大学に隣接する形で学生寮を保有しています。そもそも地理的に学生寮がないと学生が通う事すら難しい、という地理的背景もありますが、大学進学が一般的になり、教育の中身・質が問われる中で、学生寮が教育効果を高める教育機関として位置づけられているのです。

もちろん、ただ寮があれば勝手に何かが生まれる、ということはありません。具体的な取り組みとして、レジデント・アシスタント(RA)と呼ばれるスタッフが、定期的に講演会やパーティ等のイベントを開催したり、日常生活や大学の勉強に関する相談を受けたりしてサポートしているのが一般的です。このような寮のサポートは、3・4年生の先輩だったり、社会人スタッフだったり、教授だったりがその役割を担っており、寮によっては住み込みで対応しています。

RAが学生同士をつなげる役割を果たすことで、寮生が自分たちで何か企画をしたり、食堂に集まって勉強を教え合ったり、後輩が先輩に相談をしたりという姿も見られます。また、何か問題があったときには寮生同士で話し合って解決させるケースが多いと言います。学生が主体的に生活することで、コミュニケーション能力やリーダーシップが育まれるのです。

日本の学生寮のあり方を変える挑戦!

NPO法人NEWVERYでは、今年の3月に教育寮「チェルシーハウス」を東京都小平市にオープンさせました。チェルシーハウスのコンセプトは「学生時代に、やりたいことを徹底的に」。このコンセプトに共感した人だけが、面談を経て入寮しています。男女28名ずつで、部屋は相部屋。お風呂やトイレ、キッチンなどは共用です。管理人は不在で、門限もありませんので、学生寮というよりは、大規模なシェアハウスだと言った方がイメージしやすいかもしれません。

このような設計になっているのも、寮生たちが「学生時代に、やりたいことを徹底的に」を達成できる環境を作ることを重視していること、また「人を育てるのは人である」と考えているからです。ただ同じ寮に住むという以上に、一つのコミュニティにしていくことを目指しています。

さらに、ソフト面でもいくつか工夫があります。その特徴の一つが、社会人メンターの配置です。寮生を8名単位でグルーピングし、担当のメンターが2名ずつ付きます。月に1回メンター会が開かれ、グループの寮生たちは自分の目標に向けた進捗を報告したり、悩みを相談したりし、メンターはアドバイスをするだけでなく、イベントや人を紹介したりという外とのハブの役割も果たします。またメンター自身もその1か月の報告をし、寮生のロールモデルになっています。

共同生活から何が得られるのか?

今回のコラムを書くにあたり、アメリカに留学して寮生活していた友人に、寮生活に対するコメントを寄せてもらいました。

「大学でもプライベートでもずっと一緒にいるような環境だったので、お互いの距離が近すぎて楽しいことも多かったけどぶつかることもたくさんあって、辛い時期もありました。でもそれを乗り越えたらもっと仲良くなっていて、友達というより家族に近い関係になっていました。ただ、違う国の人と住むということ、自分が当たり前と思っていることがあっちにとっては当たり前じゃない、ということは本当に大変でした。もちろん逆もあったと思います」

このような価値観の違いは海外だけかと思いきや、チェルシーハウスの寮生からもこんな感想が出てきました。

「大学だけの関わりだと生活の場じゃないので、うわべで我慢すればよいと思うのですが、寮だと長く過ごすことになるし、人間関係も深まるので向き合わないといけません。その結果、自分の当たり前が当たり前じゃないということ、今までの育てられ方による影響、バックグラウンドが違うことによる違いに気付きました。きっと、みんな心が広くなったのではないかと思います(笑)。許せないと共同生活はできませんから。具体的には、小さなことですが食べ物に何をかけるか、も違いますね。固定概念を壊されることばかりです。」

さらに、こんな感想もありました。

「人が集まることで、共有される情報も多くなっていると思います。その人が持っているネットワークが、寮生みんなに共有されている感じです。おそらく、生活を共にしている寮じゃなかったらつながっていないのではないでしょうか。大学は自分から行かないとないので、チャンスが多いと思います。誰かが発信して、誰かが反応する、という動きがいつもあり、自分もその輪に入りたくなる。そんな感じがしています」

置かれた環境による格差を取り戻すために

冒頭でも触れた教育の2つの側面ですが、教科指導は定められた学習指導要領の下、どのような環境に置かれていても一律で定められた内容が受けられるようになっています。一方で、生徒指導や人間教育は置かれている地域・学校・家庭の環境によって受けられる内容や量が大きく変わってしまうのが現状です。

何は正しくて、何が誤りなのか、何が良いもので、何が悪いものなのか、正解のない文化や教養、躾、習慣と呼ばれるものは、個人の力で身に着けようとしても限界があります。コミュニティが失われ、人と人との関係が希薄になっていると言われる中で、教育寮をという取組みがその格差を取り戻す機能を果たせるのでは、と期待しています。

<参考文献>
「生徒指導提要 平成22年3月」文部科学省
The Jornal of college and University Student Housing」 

Author:羽多野祥子
教育・研修プランナー。1987年、熊本県八代市に生まれる。東京の大学に進学し、卒業後は企業の新卒採用を支援する会社で営業職に就く。その後、研修企画会社を経て教育関係のNPO法人で新規事業の立ち上げやマネジメントを経験し、2018年10月に宮崎県日南市へ移住。現在は「地方と都市部の教育格差を解消する」をミッションに掲げ、フリーランスとして中高生のキャリア教育や企業の社員研修などに取り組む。

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