Eduwell Journal

2014年10月号 vol.20

障害がある子どもと保護者を徹底的に支えるカナダの特別支援-専門家が協力し合い早期発見・療育に取り組む

2020年06月03日 23:13 by Miwa_Hosogoe

日本では、ここ20年間で特別支援学校に通う子どもが倍増し、場所も人も仕組みも追いつかない状況となっています。(20年で倍増!急増し続ける特別支援学校の児童生徒-対応が追いつかず足りないものだらけで困惑する現場)また、地域の小規模福祉作業所で働く障害者が得ている一か月の工賃が約1万3千円と言われ、経済的に自立していくこともままならない状況です。

近年、日本でも「社会的包摂(ほうせつ)」・ソーシャルインクルージョンという言葉が段々と使われるようになってきましたが、実状はまだまだこれからのようです。多種多様な民族・文化を受け入れ、先駆的にソーシャルインクルージョンに取り組んできたカナダでは、障害のある子どもから大人までの支援を全地域で徹底しています。今回の記事では、カナダにおける発達障害をもつ子どもの支援についてご紹介いたします。

(写真提供:North Island College)

まず早期発見・支援が第一

一昨年前、コモックスバレーの教育委員会と州立大学のノースアイランドカレッジの協力で、日本の教育者向けのシンポジウムが開かれました。その中でカナダでの一連の特別支援について説明があり、特に発達障害のある子どもに対してのサポートの流れについてご紹介を頂きました。

カナダの幼児教育、保育園で勤務するスタッフのほとんどが一般の幼児教育学の他に、特別支援が必要になる子どもについて学んでいます。カナダでは、特別支援で一番大事になるのが早期発見、早期サポートと考えられています。カナダ政府が早期発見、早期介入を大事にしている点は、一人の子どもが社会で自立していく方が将来的にみて、個人の生活の質の向上にもつながりますし、生活保護や医療の負担が国としても減るからです。


(写真提供:North Island College)

各専門家がチームで子どもと保護者を支える

まず、幼稚園や保育園で問題行動が目立つ子どもがいましたら地域の応用行動分析(ABA)機関に連絡します。そこから分析をするチームが2、3ヶ月かけて子どもをモニターし、教育委員会に報告が入ります。その後、必要に応じて医療機関や専門機関につなげます。

教育委員会に心理士、理学療法士、作業療法士、言語療法士、自閉症専門家、ユースワーカー(青少年自立支援スタッフ)などの専門スタッフが常駐しています。個人のニーズにあわせて、地域の児童精神科医専門家の先生も入ってチームを組み、その教育委員会の管轄にある小学校、中学校、高校に出向きます。子ども本人だけでなく、実際に毎日関わっている学校の先生、スクールカウンセラー、保護者、教育アシスタント(障害認定を受けた子どもに一人に対して一人のアシスタントがカナダではつきます)にどのようなサポートをしていくのが良いか指導します。子ども一人ひとりに必要なサポートチームが編成され、2週間に1回の検討会議も実施されます。

サポートの記録を積み重ね、共有する

重要な点は、障害等の診断が大事なのではなくて、その子どもが出来ることと出来ないことを明らかにし、その子が社会で自立していくためにはどのような方法があり、どのような支援が必要なのか目標設定を明確にしていくことです。子どもの障害だけに注目するのではなく、長所や伸ばせるスキルもふくめ、一人ひとり詳細に個人指導記録書(計画書・報告書)を残していきます。

個人指導記録書は幼稚園から大学まで持ち上がりますので、ファイルは段々と大きなものになっていきます。これまでのサポート歴を確認し、専門家、先生、保護者を含めたサポートチームにより計画が立てられますので、サポートの内容もかなり充実しています。


(写真提供:North Island College)

障害があっても「自立している」と胸を張って言える国

コモックスバレーにある、ノースアイランドカレッジでは、特別支援の社会人用のクラスもあります。先述のシンポジウムの際には、特別支援の必要な社会人のみなさんに自分達の障害のこと、どういった支援をうけてきたか、そして今どうやって自立しているかについて発表いただきました。耳が聞こえない方、発達障害のある方、車いす、知的障害、記憶障害と特別支援の内容は各自異なりましたが、みなさん一緒のクラスで、コンピューターを学んでいました。季節的にハロウイーンだったので仮装も楽しんでいました。この学校には地域の区民センターみたいに色々な人がきて生涯教育を楽しむという要素もありました。

特に印象的だったのは、61歳の女性の方で知的遅滞がある方との出会いでした。その方は、地域のレストランで31年間お皿洗いのお仕事をして、晴れて定年退職したとのことでした。私がその方に、長く続けられた秘訣を教えて下さいと質問したところ、オーナーが自分も含め平等に扱ってくれる人だったこと、そして2人同僚でお友達がいたことだったそうです。カナダの最低賃金は日本円で約1000円です。障害がある方も同じ賃金をもらいます。みんな一人暮らしか、ルームシェアーという共同生活をして自立した生活を送っています。

皆さんが堂々と私達の前で自分の障害のことをお話してくださった様子は、とても頼もしかったし、みんなが「自立して生活しています」って言っていた姿には感動しました。共存を大事にすることは、偏見や差別を減らし、人の心を豊かにするだけでなく国のシステムや法律をつくる上でも大変効果的です。国際社会に出ても色々な場面で柔軟に協調性をもって取り組むことができる人材育成に役立つと思います。

Author:細越美和
Westcoast International Education Consulting in Canada Ltd. 代表。2004年にカナダ・バンクーバーにカナダ留学を支援するウエストコーストインターナショナルを設立。質の高い英語教育、多文化理解、才能教育に力を入れ、これまでに4,000人以上の留学生をサポート。15年間に渡り、発達障害や視覚障害を持つ留学生もカナダのインクルーシブな教育環境で支援経験あり。
さらに、カナダの教育システムの研究・広報活動として、カナダ州立教育機関の正式な日本窓口としてカナダと日本の教育機関の提携業務や日本の教育者向けのカナダ教育機関見学ツアー、カナダ大使館フェアでの州立教育機関のサポート等を行っている。

本記事を書いた記者の記事一覧



関連記事

コロナ禍の学校でキャリア教育を省略するな!-教科学習に追い立てる過去の教育に戻してはならない

2020年7月号 vol.89

なぜ、ひとり親は「一日一食」までに困窮しているのか?-預貯金が少ない中、新型コロナで収入減・支出増の追い打ち

2020年6月号 vol.88

新型コロナで海外ルーツの子ども・家庭支援団体の65%が活動休止・縮小に-不就学のリスク増!外国人保護者の経済状況悪化

2020年5月号 vol.87

読者コメント

コメントはまだありません。記者に感想や質問を送ってみましょう。

バックナンバー(もっと見る)

2020年7月号 vol.89

本メディアでは、子どもや若者の支援に関する教育や福祉などの各分野の実践家・...

2020年6月号 vol.88

本メディアでは、子どもや若者の支援に関する教育や福祉などの各分野の実践家・...

2020年5月号 vol.87

本メディアでは、子どもや若者の支援に関する教育や福祉などの各分野の実践家・...