ひみつ基地

2014年11月号 vol.21

生徒層が変化し、苦慮する通信制高校の今 -学びのセーフティネットに規制よりも正確な情報開示を

2017年02月08日 13:56 by noriakiimai


(NPO法人D×Pが通信制高校で実施した授業の様子)

通信制高校の卒業生の2人に1人(44.5%)が進学も就職もしないという通信制高校の課題に関して、昨年記事に書かせていただきました。私が代表を務めるNPO法人D×P(ディーピー)は、この通信制高校における進路未決定問題を解決するために、様々なプログラムを提供している団体です。

前回の記事:2人に1人が進学も就職もしないまま卒業する―生徒数も学校数も増える通信制高校の課題と可能性(前篇後篇


進路未決定率は41.5%に改善!しかし…、

2014年8月に発表された、文部科学相「平成26年度学校基本調査」の速報値では、通信制高校における進路未決定率が平成23年度の44.5%から41.5%に改善しました。(表①参照)これを見て、「よし!2人に1人じゃなくなった!」というのが正直な感想でした。

もちろん、進路未決定状態で卒業する生徒の実数は、平成23年度の20,383名から今年度20,846名と変化しませんでしたが、通信制高校の生徒数が増加するなかでこの数値で押さえられたという事実に、ほっと息をついてしまいました。

<表①:通信制高校の卒業者の進路構成比>

※学校基本調査-平成26年度(速報)結果より、NPO法人D×P作成


しかし、この結果を公立校・私立校の別で見るとまた結果が大きく異なります。グラフ2は、公立通信制高校の卒業生の進路先の構成比です。公立高校の場合、進学も就職もしない「その他」の構成比が55%(5,351人)にものぼります。半数以上が、進路先が決まらないまま卒業している状態です。

<グラフ①:公立通信制高校 卒業生の進路先構成比(n=9,691)>

<グラフ②:私立通信制高校 卒業生の進路先構成比(n=40,851)>

 

一方、グラフ②は私立(株式会社立含む)高校の卒業生の進路先構成比です。進学も就職もしない「その他」の構成比が39%(15,787人)。公立校の約4倍の生徒数を抱えているため、進学も就職もしない生徒の実数は多いですが、全体の構成比としては公立校よりも大分低くなっています。

なぜ、公立の通信制高校の進路未決定率はここまで高いのでしょうか?その要因は、通信制高校の変遷と生徒層の変化にあります。


全日制高校に通えない生徒が、押し寄せるように通信制高校へ 

そもそも通信制高校は、1962年に学校教育法が改訂され、全日制課程・定時制課程にならぶ第三の選択肢として位置付けられました。全日制・定時制高校とは異なり毎日学校に登校する必要はなく、自宅学習をしながら、数回の登校とレポート提出で高校卒業資格が取得できる高校です。中卒就職者が多かったこの時代、通信制高校は企業に勤めながら学ぶことができる唯一の機会であり、それゆえ、「通信制高校の生徒=勤労学生」と認識されていました。

「2000年頃から通信制高校に通う生徒層が変わってきた」

私が通信制高校を訪問する度に、先生が口々に言う言葉でした。実際、それまで減少を続けていた入学者数が1996年から増加に一転しています(少子化のはずなのに!)。先生にお話を聞くと、不登校・中退経験、いじめ、発達障害や学習障害、公立校の場合は外国籍や生活保護家庭出身者など経済的困難を抱えた生徒が多くおり、「全日制高校ではカバーできない様々な生徒たちが、押し寄せるように通信制高校に入ってきているようだった」と、切々と語ってくださいました。


生徒層の変化に対応しきれていない?

なぜ、公立通信制高校での進路未決定率が55%と非常に高いのでしょうか?

この要因として考えられるのは、上述のような生徒層の変化に対応しきれていないことです。それぞれ多様な困難を抱えた生徒の多い通信制高校では、全日制高校以上にきめ細やかなサポートが求められるのにもかかわらず、「公立高等学校の適正配置及び教職員定数の標準等に関する法律」では、教員一人あたりが受け持つ生徒数は、全日制高校よりも多く設定されています。先生へのヒアリングによると、30年前と変わらない教育方針をとっているところも多いと聞きます。

誤解のないように申し上げたいのですが、公立通信制高校で教鞭をとる先生は日々頑張っておられます。可能な範囲で、きめ細やかなサポートをすべく動いています。しかしながら、法律や教育の枠組みが、生徒像の変化についていかなくなってしまっているということが起きてしまっています。(ちなみに平成25年に「公立高等学校の適正配置及び教職員定数の標準等に関する法律」は改定され、教員1人あたり生徒数は以前よりも改善されています。これはとても素晴らしいことですが、「実際のところあまり変化がない」という現場の声もよく伺います。)こういった法律や枠組みを、生徒の現状に合わせて整備することが求められるほか、先生以外の支援機関の「手」が必要とされていると感じます。


全体一律の規制ではなく、情報の「見える化」を。

この生徒層の変化にいちはやく対応したのが、私立・株式会社立の通信制高校です。

生徒・保護者のニーズを把握し、不登校経験者や中退者にターゲットを絞った広報活動を行い、進路指導や個別カウンセリングの丁寧さをうたっています。ただし、実際に生徒一人ひとりにきめ細やかなサポートを行って進路指導にも力を入れる良質な通信制高校もあれば、「とにかく卒業させればいい」と入学者増にだけ力を入れ、卒業後に関する支援の優先度を下げてしまう通信制高校もあります。まさに、「玉石混交」です。

「だから営利企業が運営する学校がだめなんだ」と批判する方も多くいらっしゃいますが、そのように一様に切り捨てることはできません。彼らが生徒のニーズにいち早く対応したことで、社会のセーフティネットとしての役割も担っていることを忘れてはいけません。

必要なのは切り捨てや全体一律の規制ではなく、通信制高校からの正確な情報開示と第三者による明確な通信制高校の評価基準ではないかと思います。それにより、生徒・保護者にとってどこが自分に合った良質な高校なのかを判断することができます。進路決定率の低い高校の情報も開示されれば、入学時の判断基準にすることができます。

現在、学びリンク株式会社による『通信制高校があるじゃん』が、通信制高校の代表的なガイドブックになっていますが、第三者によって学校情報が生徒・保護者にとって明確に示されるようになることが、「玉石混交」状態の私立・株式会社立の通信制高校に、一石を投じることになるだろうと思います。

NPO法人D×P(ディーピー)  共同代表 今井紀明

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