ひみつ基地

2014年12月号 vol.22

なぜ、日本の教育改革は遅々として進まないのか?-変化の激しい時代にいつまでも時代遅れの教育が続く理由

2019年06月04日 23:12 by ymenjo

教育は、農業や林業のようなもの。ひとつの方針をきめたら、その方針でしっかりと1年間の教育を実践し、そこで生まれた成長を、年輪を積み重ねるがごとく、年をおうごとに促進していくことが不可欠です。

政治が変わることで、コロコロ方針が変わっては、成果がでるはずのものも出なくなるため、教育には、政治から一定の距離をおき、一度決めたら、変わりにくくするための仕組みが組み込まれています。それが、地方では教育委員会制度であり、国においては中央教育審議会(以下、中教審)という仕組みがあります。

しかしながら、この中教審は、日本の教育の方針を決めていく重要な審議会であるにも関わらず、その位置づけや中身はあまり知られていません。

進まない教育改革の背景に、中央教育審議会の仕組み

「中央教育審議会(中教審)」とは、日本の学校が準拠すべき「学習指導要領」に何が盛り込まれるべきか、を政策的に決めていく、文部科学省に設置された正式な諮問機関としての審議会です。法律に基づく、政令(文部科学省組織令)によって規定されています。

第二次安倍内閣で「教育再生実行会議」が設置されていますが、あくまでも内閣の閣議決定にもとづく、首相の私的諮問機関です。よって、教育再生実行会議で 何かが提言されても、それは法的根拠に基づくものではなく、それらを中教審に「諮問」し、その後、中教審の委員によって審議を重ね、それらをまとめた「答 申」を得て、ようやく教育の中身に反映できるという補助的なものでしかありません。中教審を飛び越えて、学習指導要領を変えることは法令違反なのです。

11月20日、文部科学大臣が、中央教育審議会に次の学習指導要領の改定にむけて、諮問を行いました。(初等中等教育における教育課程の基準等の在り方について

今回の諮問のポイントについては、新聞各紙は以下のようにまとめています。小学校の英語教科化や日本史の必修化、「アクティブラーニング」などにふれています。NHKのニュースでは、「アクティブラーニング」の実践校の取り組みを紹介していました。


読売新聞:小学英語教科化も…指導要領改定、中教審に諮問(2014/11/21)

朝日新聞:新学習指導要領を諮問 英語教育充実・日本史必修化が柱(2014/11/20)

毎日新聞:学習指導要領改定:高校で日本史必修化 中教審に諮問(2014/11/20)

日本経済新聞:小3から英語授業、高校では討論レベル 指導要領諮問 中教審、16年度中に改訂内容答申(2014/11/20)

産経新聞:高校で日本史必修化、小学校高学年から英語教科化 学習指導要領改定を諮問 文科相(2014/11/20)

東京新聞:学習指導要領の全面改定諮問 英語教育を充実、日本史必修も(2014/11/20)


このような報道が流れると、教育がどんどん変わっていくイメージを与えるのですが、そうではありません。

中教審は、これらの諮問に対して、なんと「2年間」も議論をするのです!

そして、2016年度に会議としての結論の「答申」をだし、それらを反映した教育は2020年度から小・中学校から順次実施していくスケジュール。それも、オリンピックがあるからと、1年間前倒しする「急いだ」スケジュールで、この「のんびり」感です。

ドッグイヤーと言われるほどの変化の激しい時代に、ひとつの問いに対して、2年も議論する会議などありますか?社長からの経営上の「問い」に対し て、2年後に報告をあげている会社はつぶれます。メールで質問をして、1、2ヶ月ほどして忘れた頃に回答が返ってくることがありますが、答えがでていたと きには、すでに解決していたり、新たな課題に直面して、問いの答えはどうでもよくなっていたり、すでに問いをしたことすら忘れてしまっていたりします。

いくらコロコロ変わらないようにという仕組みだとしても、あまりにも遅すぎだと思いませんか?

もし、現場に課題を感じ、変えないといけない な、と思ったら、どう変えるかを検討し、早ければその年中、遅くても次の年にはアクションをしますよね。なぜなら、もしそれが本当に課題ならば、その課題 を現場は垂れ流しているわけですから。それを見過ごしているのは被害が拡大するということです。もし2020年のオリンピックを意識するなら、実際にオリ ンピックの時に活躍している子どもたちは、今の教育を受けている子らです。今、動かなければいけないのです。

(高校生向け「心起動インターンシップ」@グローバルワーク川崎ラゾーナ店 NPO法人ブラストビート主催)

2年の審議を経て学習指導要領に組み込まれたキャリア教育のその後

私が、この中教審に、実際に初めて出会ったのは2009年。当時、私は、経済産業省の事業をNPOで委託をうけ、当時、学習指導要領で位置づけが明 確にされていなかった「キャリア教育」を推進していました。学校現場にキャリア教育の重要性や効果を訴えても、「学習指導要領に位置づけられていないか ら」、となかなか普及しない教育現場の壁に直面していました。

当時、文部科学省は、前の改定で「自ら考え、自ら学び、自ら行動できる」=「生きる力」を掲げ、「総合的な学習の時間」を新たに組み込み、主体的に 学ぶ姿勢やコミュニケーション力、地域と連携した学びなど、十分に「キャリア教育」として読み込める内容が入っていたにもかかわらず、明確に「キャリア教 育」という言葉が入っていないがために、なかなか普及がすすまないという現実がありました。

「学習指導要領に一刻も早く組み込んでほしい」と思っていたところ、中教審でようやく「キャリア教育」の本格導入にむけて審議が始まるということ文部科学省の担当者から聞きました。小躍りする気持ちで、「キャリア教育・職業教育特別部会」 という、中教審の部会に傍聴に行きましたが、参加してみてびっくり。ここから2年間かけて結論をだし、反映されるのはその後というじゃないですか!議論し ている2年間にも、毎年毎年、旧態依然とした教育を受けさせられている大量の生徒たちが放置されているのに、「なにを悠長にやっているのだか!」と怒りす ら感じ、幻滅した覚えがあります。
 
その時から5年が経ち、2年後の答申を経て、キャリア教育も学習指導要領に組み込まれました。それで急速に進んだか、といえば「NO」です。確かに、正式 に位置づけられたので、実施した学校は増えました。しかし、結局、形だけの導入で、大きく中身を発展させていく機運は見られません。正式に取り込まれたた め、逆に、「もういいでしょ」と、推進するための事業も行われないため、導入前のほうがむしろ存在感が大きかったようにも思います。


(事前事後学習を通して、高校生たちは自らの主体性をはぐくんでいく。 NPO法人アスクネット実施の「心起動インターンシップ」)

枠組みよりも、今こそ、中身の充実を!

結局、この日本の教育の、いかにものんびりした、教育の中央集権システムに、われわれの意識も含めて縛られていることが、教育を過度に保守化させ、 時代錯誤なものにしてきた原因なのです。指導要領に組み込まれることは、あくまでも枠組みでしかなく、その枠の中に何を入れ込むかは、結局のところ、教育 にかかわる人々次第。

今の枠組みでも、やれることはたくさんあります。現行の指導要領のなかでも記述されている、職場体験やインターンシップ等でも、「やっただけで中身のない 実例」が横行してきています。これらを地域側でサポートしていけば、中身を充実させていくことは「今すぐ」できます。もはや「オワコン(終わったコンテン ツ)」とも誤解されている「総合学習」も存在しています。これらの「内実」をつくることのほうがよほど建設的。「アクティブラーニング」も、改定後といわ ず、今すぐ授業に取り入れましょう。「主体的に社会に参画し自立して社会生活を営むために必要な力」の育成に至っては、「そんなこと、今の教育でやってい ないのか!」と噴飯もの。「総合学習」、「社会」、「公民」はもちろん、他教科でも取り組めます。なぜなら、それが教育の本来の目的だから。

中教審の議論などは、私たちがまさに「忘れたころ」に結論がでるものなので、すっきり忘れてしまいましょう。それよりも、地域の力を集めて、中身づくりに集中すべきなのです。

 一般社団法人アスバシ教育基金 代表理事 毛受芳高

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