ひみつ基地

2015年2月号 vol.24

所得格差による子どもの教育格差を埋める新手法「学校外教育バウチャー」の仕組みと特徴とは?(前編)

2017年09月26日 13:49 by yusuke_imai

「子どもの貧困対策法」が施行されてから、「子どもの貧困」の問題について触れた記事を目にする機会が圧倒的に増えました。これまでの記事を通じて、この問題についてご紹介してきました。(本記事を書いた記者の記事一覧)多くの人に知ってもらうことが課題解決の第一歩だとは思います。しかしながら、「解決策」を提示しなければ、解決に向かうことはありません。そこで、今回は、子どもたちの放課後の学びの格差を埋める「学校外教育バウチャー」という解決策について、ご紹介したいと思います。

2種類の「教育バウチャー」とは?

「バウチャー」という言葉は、あまり日常的に使う言葉ではないと思います。「バウチャー」とは、「引換券、金券、クーポン券」を意味します。飲食店で割引等に使えるクーポン券は、馴染みがあると思いますが、ここでは「バウチャー=クーポン券」と考えて大丈夫です。「教育バウチャー」とは、教育目的で利用できる「クーポン券」を支給する補助金制度ことを言います。

実は、この「教育バウチャー」には2種類があります。2つは、同じ教育バウチャーといえど、ねらいが全く異なります。

一つは、「学校教育バウチャー」。私立学校に利用できるクーポン券を、保護者に給付するというものです。子どもや保護者が私立学校も公立学校も自由に選択できるようにすることによって学校間の競争を生み、「学校教育」の質を高めることが大きなねらいです。もともとはマクロ経済学者のミルトン・フリードマンによって1950年代に提唱されたもので、既にアメリカやイギリス、オランダ等、海外ではいくつもの導入事例があります。一方で、「学校間の序列化が進み、教育格差が拡大するのではないか?」といった批判があることも事実で、様々な議論がなされています。日本では、まだ実例がありませんが、2006年の第一次安倍晋三内閣のときに、「教育バウチャーに関する研究会」が設立する等、国内での導入が検討されたこともあります(結局、上記のような格差拡大の懸念や、安倍首相の辞任等によって、導入されることはありませんでした)。

そして、もう一つが「学校外教育バウチャー」です。これは、低所得世帯の子どもに塾や習い事等といった放課後の学習や体験の機会(学校外教育)に利用できるクーポン券を提供するというものです。「学校外教育バウチャー」のねらいは、「経済的な課題を抱える子どもの学びの機会を保障すること」であり、前述の私立学校に対するバウチャー給付とは名前と方法が似ているだけで趣旨は全く異なります。学校外教育のウェイトが大きい日本では民間NPOだけでなく自治体の教育政策としても実施されています。日本と同様、学校外教育のウェイトが大きい韓国でも、同様の政策が存在することは確認されています。

使い道を教育目的に限定できる。確実に教育の機会を提供。 

繰り返しますが、ここで重要なのは私立学校で利用できる学校教育バウチャーと、塾や習い事で利用できる学校外教育バウチャーは、目的が全く異なるということです。日本の「子どもの貧困」問題においては、所得格差による放課後の学びの格差が指摘されています。この記事では、「学校外教育バウチャー」について解説します。

学校外教育バウチャーの一つ目の特長は、資金(原資は民間寄付金or公的資金)の使い道が、教育目的に限定されるという点です。教育機会を届ける方法として、「現金給付」という方法がありますが、「何にでも使える」現金を渡すということは、裏を返せば「教育の機会として使われない」可能性があるということです。

このようにいうと、「どうせ、親がパチンコとかで使うんでしょ・・・」といったネガティブなイメージを持たれる方も多いと思います。そのようなパターンがあるのも事実ではありますが、実際は親が本当に真面目に子どものために頑張って長時間働いて、それでも経済的に苦しい、といったご家庭も非常に多いです。(総数としてどちらが多いかはわかりませんが、ピックアップされるのは前者のようなパターンばかりだという印象です。親の病気や死別、不景気による失業、災害等といった突発的な要因で経済困窮に陥る場合、後者のようなケースが多いと思います。)

ある低所得家庭の高校生の事例ですが、その子は現金給付で受けた教育費の手当を「自分の学習のために使ってほしい」とは、親に言い出せなかったそうといいます。なぜなら、自分の家庭が経済的に苦しいことはよくわかっているので、「自分の教育費よりも別の生活のことに使ってほしい」と思ったそうです。教育費として受けた支援を別の目的に使おうとするのは実は親ではなく、親思いの子ども本人の意思であるケースも事実として存在します。教育以外の目的で利用できないバウチャーで給付することで、子どもは安心して学習に取り組むことができます。

また、バウチャーには有効期限を設けることができるため、貯蓄に回ることなく、子どもの学習等の機会として消費されやすくなります。

周りと同じ環境で学ぶ。幅広い教育サービスから自由に選択。

もう一つの特長は、子どもたちの選択肢の多さです。バウチャーの使い道は、教科学習(学習塾や予備校)、スポーツ活動(サッカーやスイミング等)、文化活動(ピアノ教室、絵画教室等)、体験活動(野外キャンプやレクリエーション活動)等、多岐にわたります。

基本的には、バウチャーの利用先として事前登録された教室や事業所で子どもたちは学習や体験活動ができる仕組みですが、登録されていない教室でバウチャーを利用することを子どもが希望する場合、バウチャーの運営主体(NPOや自治体)に対して追加登録のリクエストをすることができます。これによって、子どもたちは自分が行きたい塾や習い事に通うことができるため、意欲の向上に繋がります。この「リクエスト制度」は、学校外教育バウチャー制度を実施するにあたって、非常に重要な仕組みです。

バウチャーではなく、経済的な課題を抱える子どもに対してボランティアによる「無料塾」を開設するという方法もありますが、単純に指導力という観点でみると、サービスの質に課題を抱えるのも事実です。また、実態としては、塾や習い事等が子どもたちの放課後のコミュニティとしての役割を担っており、経済的な課題を抱える子どもたちは、それらの機会を得られないことで、放課後に孤立してしまうこともあります。子どもが、経済的困窮にある子どもを対象とした無料塾に通うということは、ある意味子どもたちに「貧困」のレッテルを張ってしまうこととなりかねないことは、十分に留意する必要があります。

この点、バウチャーを給付して、友達が通う塾や習い事にアクセスできるようにすることで、子どもたちが所得に関係なく、ほかの友達と同じ環境・条件のもとで学ぶ機会を得ることができます。(月謝を払う際、クーポン券を封筒に入れて事業者に渡す等の配慮をすれば、他の子どもたちには誰がクーポンの利用者であるかはわかりません)

今回は、教育格差是正の解決策である学校外教育バウチャーの仕組みやその特長についてお伝えしました。後編では、学校外教育バウチャーの地域社会への影響や、実施するにあたって乗り越えなければならない課題等について、さらに踏み込んでお伝えします。

後編に続く

公益社団法人チャンス・フォー・ チルドレン 代表理事 今井悠介

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