ひみつ基地

2015年8月号 vol.30

当事者と家族をサポートする第三者が必要-不登校・ひきこもり専門カウンセラー金馬宗昭氏インタビュー(後編)

2019年09月13日 13:54 by editorial_desk

不登校の子どもは、小中学校合わせて11万9千人以上、高校生では8万3千人が現在確認されています(文部科学省調べ)。そのぶん、フリースクール・通信制高校・サポート校など、学校に行きづらさを感じた若者のための進路は多様化していきました。カウンセリングや学習のサポートを受けて、遅ればせながら幸福な学校生活を送るケースが増えています。

一方、問題となっているのは完全なひきこもり状態となってしまい、外界とのつながりを断ってしまった子どもたちです。学校などの支援は届きにくく、本人が自らの将来を諦めてしまい、動くことができない――。そうした働きかけの困難な層をサポートしていきたいと、独立の道を選んだ通信制高校の元教頭が、京都・長岡京市に「すずかげ教育相談所」を開設しました。前編に続き、お話を聞いていきたいと思います。


(すずかげ教育相談所 所長 不登校・ひきこもり専門カウンセラー 金馬宗昭さん)

20年前に一人の生徒を追いつめてしまった僕の一言

現在までカウンセラーとして、ボランティアとして、通信制高校の教頭として、数多くの場で不登校やひきこもりの若者をサポートしてきた金馬さん。しかし現在に至るまで、失敗だったと悔やむこともあったとか。その一つが、大学卒業後、高校の非常勤講師をしていた頃のことだと言います。

「僕は1年生の特進クラスを受け持つことになりました。クラスにはずっと不登校のAくんという生徒がいて、しばらく会うことはできませんでした。ところが、中間テストの数日前、職員室にそのAくんが訪れたのです。

『休んでいてすみません。中間テストは受けますので、今までのプリントをください』とAくん。僕はプリントを渡し、『頑張れよ』と言いました。すると、彼は泣きそうな顔をして『頑張るって何ですか。僕はこれ以上何を頑張るのですか』と言って、その場を立ち去ってしまいました。その後もずっと学校に来なかったので、僕はもちろん心配しましたし、『何か間違えたことを言ったんだろうな』とも思いましたが・・・。大きな失敗をしてしまったのが、その当時すぐにはわかりませんでした。

後からわかったことなのですが、彼は医者の息子で、家族から高校の特進クラスへの入学を期待され、頑張って合格をしたのだそうです。彼は本当に頑張っていたのだと思います。しかし、高校で待っていたのは『大学進学に向けて頑張れ』という言葉。家でも『頑張れ』、学校でも『頑張れ』、塾でも『頑張れ』・・・。Aくんはずっと頑張り続けなければなりません。その後、彼は高校を辞めてゆきました。

今でも思います。僕は彼に引導を渡してしまったのではないだろうかと。僕の言葉がきっかけで、退学をしてしまったのではないかと。本当に良くない対応だったと思います。僕と彼との間には、信頼関係も何もなかったのですから」

今、当時のAくんに会えたとしたら、どのように接していたのでしょうか?

「今の僕だったら、まず雑談をしますね。できれば他の人に話を聞かれる心配のない場所にうまく来てもらって、趣味のことやAくんが興味あるものについて、何でもない話をします。信頼関係が築けていないうちから『頑張れよ』などと言うことは絶対しません。

きちんと信頼関係があり、相手のエネルギーも回復しているのだったら、僕はけっこう厳しいことも言う人間です。『頑張れ』と励ますこともあります。でも、信頼関係がない状態では、『頑張れ』や強い言葉は相手を追いつめます。使いどころを選ばなければいけません」

(通信制高校の教頭時代の金馬先生。社会科の先生で、新聞を使って時事問題を説明する授業を行っていた。)

関係性を築くためにまず必要なこと

「僕は"雑談"をとても大切なものだと考えています。そのためオンラインゲームなど、若い人の文化も年齢のわりにチェックしている方です。不登校やひきこもりになっている当事者と、まずは何でもない話をするところから始めます。

なぜかというと、とにかく僕が『敵ではない』ことをまずわかってもらう必要があるからです。いきなり味方と思ってもらうことは難しいですが、そこまでいかなくても、『お母さんやお父さんに派遣されて、あなたを変えようとする敵ではないんだよ。君の味方だよ』ということだけでも伝わればいいと思います。それが関係性を築いていく第一歩です」

関係性を築こうとする間に、何か失敗をしてしまったら・・・と思い悩む若い先生もいそうです。

「誰でも失敗は避けられないことです。教職員の方、カウンセラーの方々も例外ではないですよね。でもある程度、先生の一言で学校に来られなくなる生徒もいるということは知っておくだけでも違うと思います。先ほどお話した僕の失敗から考えても、そうした不幸な出来事はないほうがいいです」

第三者である支援者が家庭に踏み込むこと

金馬さんは不登校やひきこもりの対応をする際、「ある程度は、家庭に踏み込むことがどうしても必要なのです」と訴えます。

近年、学校や教育関係者が家庭に足を踏み入れ、生徒を取り巻く問題に向き合うのは困難なことです。しかしそれを避けてしまうと、長期化を招き、問題をますます難しくしてしまう―それは非常にもったいないことなのです。

「不登校やひきこもりになって、抜け出られなくなってしまった背景に、『家が快適ではなく、エネルギーを溜められない』『家族から"地雷”な言葉(当事者がイライラする言葉のことを金馬さんはこう呼びます)を言われ続けている』等、行動しにくい環境があることは少なくありません。教育関係者が家庭に踏み込んでいくのは難しい時代だと思いますが、それでも環境が改善されないと、何年経ってもそのままになってしまう危険があります。先日相談にいらした方で、お子さんが10代でひきこもりがちになって、現在25歳という方がいました。もっと年齢が上のケースもあります。

何かのきっかけでショックを受けて、立ち止まってしまった人をそっとしておいていいのは3週間くらいまでだと僕は考えます。その間に環境を整え、家族の方にも本人への言葉がけの仕方を学んでもらい、そうしたら積極的に働きかけてもいいのです」

不登校やひきこもりの若者のために、金馬さんはこれからどのようなことが必要なのでしょうか?

「僕もその仕事をしていきますが、不登校やひきこもりになってしまっている当事者と家族をサポートする、『第三者』が全国にたくさん増えてほしいです。例えば家族が当事者のエネルギーを奪う言葉をかけてしまっていても、それが日常化してしまっていると、自分たちでは気付きにくいものです。しかしサポートのやり方を知っている第三者が間に入ることで、環境を改善し、自立への道を進んでいくことができます。

若者の成長を見守るのはとてもやりがいがあることです。特に不登校やひきこもりをしていた子は、環境を整えてチャレンジができるまで回復していけば、ときに周囲がびっくりするほど伸びますよ。学校の先生、カウンセラー、相談員、ボランティアなど、いろいろな仕事やかかわり方があると思いますが、立ち止まっている若者と家族を支えてくれる人がもっと全国各地に広がればと願っています」

>>前編:全ての関係を断った不登校やひきこもりの子どもや若者の力になりたい



不登校 ひきこもり こころの道案内: 今日からできる具体的対応法

金馬さんが2年間かけて書き上げた、「立ち止まっている若者を幸せに導く道案内」の集大成

不登校やひきこもりになり、行動する力を失ってしまった人には、その時々に応じた対応が必要です。段階に応じ、信じて待つ時もあれば、待っていても仕方が無いときもあるのです。作中では「青信号」「黄信号」「赤信号」に段階を分け、わかりやすくシンプルに解説してゆきます。(学びリンク/価格:1,600円+税)

【プロフィール】
金馬 宗昭 (きんば むねあき)
不登校・ひきこもり・こころの相談室「すずかげ教育相談所」所長
不登校 ひきこもり こころの相談室 すずかげ教育相談所」所長。中学生から成人以上まで幅広く相談を受け、生活的・経済的自立へと導いてきた経験を持つ。不登校・ひきこもりをテーマとした講演会も各地で行う。
1969年大阪府生まれ。奈良大学を卒業後、京都の公立・私立高校にて教員採用試験の準備と並行し講師生活を経験。しかし全力を尽くした教員採用試験の不合格、共に学んだ友人たちの合格を目の当たりにしたことを機に数年のひきこもり生活に陥る。
1998年から通信制高校サポート校勤務、2008年から通信制高校教頭職を精勤。2014年に「不登校・ひきこもりの若年層のためにより心血を注ぎたい」との思いで教頭職を辞し、「不登校 ひきこもり こころの相談室 すずかげ教育相談所」を設立。家庭では一男一女の父。趣味は、スポーツ観戦と釣り。

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