Eduwell Journal

2015年10月号 vol.32

所得格差による子どもの教育格差を埋める新手法「学校外教育バウチャー」の仕組みと特徴とは?(後編)

2020年05月23日 21:43 by yusuke_imai

「子どもの貧困対策法」が施行されてから、「子どもの貧困」の問題について触れた記事を目にする機会が圧倒的に増えました。これまでの記事を通じて、この問題についてご紹介してきました。多くの人に知ってもらうことが課題解決の第一歩だとは思います。

しかしながら、「解決策」を提示しなければ、解決に向かうことはありません。前編では、所得格差によって生まれる教育格差を是正するための手法「学校外教育バウチャー」の基本的な仕組みについて解説しました。後編では、更に踏み込んでその特長をお伝えします。

補助金の支給方法の発想を転換

マクロな視点で見ると、学校外教育バウチャーの画期的な点の一つとして、従来の補助金の支給方法を大きく転換したことがあげられます。例えば、公営の無料塾を作る場合、自治体が無料塾を運営するにあたって適切な団体を選定し、その団体に対して補助金(又は委託料等)を出し、団体が無料塾を運営することになります。ここでは、補助金の支給先の団体を選ぶ主体は、あくまでも「自治体」です。

しかしながら、自治体が学校外教育バウチャー事業を実施する場合、子どもがバウチャーを利用した先の塾や習い事、体験活動等のサービスを提供する団体(=教育事業者)に対して、補助金が出されることになります。ここでは、補助金の支給先の団体を選ぶ主体は、サービスの受益者である「子ども・保護者」ということになります。つまり、補助金が受益者の意向やニーズに合わせた形で出されることになるため、より適切な資金の分配が可能になります。

被災地の教育事業者の復興に寄与する仕組み

学校外教育バウチャーは、先に述べた通り教育事業者に対してお金が支払われる仕組みですが、この特徴から特に被災地の支援に有効だと言えます。例えば、東日本大震災の被災地では、多くの教育事業者が被災しました。被災直後であれば、ボランティアによる無償の学習支援が非常に重要な役割を担う一方、震災から一定の時間が経過した場合、無償学習支援を長期間継続することは、被災した地元の教育事業者の営業の妨げになる危険性を秘めています。

しかしながら、学校外教育バウチャーであれば、被災した教育事業者が収入を得ることができます。地元の教育産業の復興を支えながら、困窮世帯の子どもたちに対しては無償の教育サービスを提供することができる仕組みです。

バウチャーの利用促進が重要

一方、学校外教育バウチャー事業を実施するうえで、バウチャーの利用促進に関しては、留意しなければなりません。当たり前ですが、バウチャーを給付しても、子どもたちに実際に利用されなければ何の意味もありません。

進学や学習における目標が十分に定まっている子どもたちであれば、わざわざ利用促進をする必要はありません。一方で、貧困家庭の子どもたちは、家庭内で様々な課題を抱えているため、本人の学習や進学に対する意欲が低下していたるケース等も想定されます。そのような場合、ボランティアや支援員が子どもと電話や面談を行い、進路や学習の相談にのったり、より効果的なバウチャーの利用方法に関してアドバイスをしたりする仕組みが必要となります。

例えば、私たちチャンス・フォー・チルドレンでは、大学生のボランティアが、電話や面談を行う制度を導入しています。子どもたちと年齢の近い大学生が関わることで、子どもたちのロールモデルとなり、将来の進路やキャリアを描きやすくなるなどの副次的な効果もあります。一事例として取り上げましたが、学校外バウチャー事業を実施する場合、バウチャーを「渡しっぱなし」にせず、効果的な利用を促進するための仕組みがとても重要となります。

貧困家庭の子どもを画一的に捉えないことが重要

最後に、学校外教育バウチャーだけでなく、様々な貧困対策の事業を行う上で重要となる点をお伝えします。それは、「貧困家庭の子どもを画一的に捉えないこと」です。例えば、普段、私は次の図のように、貧困家庭の子どもたちをセグメントしています。一つは、親の意欲という軸、もう一つは、子ども本人の意欲という軸です。ここでいう、親の意欲は、親の健康状態等、子どもを十分に監護できる状態にあるかということも含みます。また、子どもの意欲は、主に学習や進学に対する意欲を指します。

まだまだ検証は必要ですが、学校外教育バウチャーの提供が特に有効なのは、AとCの本人の学習意欲が高い領域の子どもたちだと考えています。ただし、Cの領域に関しては、親の意欲が低いため、支援の情報をキャッチできない、支援への申請の手続きができない等、支援を届けること自体が困難になります。よって、学校やケースワーカー、生活支援団体(NPO)等の地域の様々な機関が連携しながら、子どもが支援にアクセスできるようなサポートが必要となります。

また、子ども本人の意欲が低く、親の意欲が高いBの領域に関しては、単なる学校外教育バウチャーの提供だけでなく、前述のような学習や進学相談等もセットで実施しなければ、有効な支援にはなりません。そして、最も深刻な、子どもも親も意欲が低いDの領域に関しては、学校外教育バウチャーの前に、食事や居場所の提供等といった生活支援を通じて、安定的な生活基盤を整えることが先決となります(生活支援の重要性は、Cの領域も同様)。このように、子どもたちの状況に応じて個別的なアプローチをすることが非常に重要です。

広がる学校外教育バウチャー政策

2回の記事に渡って、学校外教育バウチャーの仕組みや特長について解説をしてきましたが、現時点でこの事業は、大阪市(大阪府)、松原市(大阪府)、南房総市(千葉県)等でも広がりを見せています。すべての子どもたちの学校外教育の機会を保障する仕組みとして、更なる広がりが期待されます。

>>前編を読む

Author:今井悠介
大学在学中に、不登校児童等の支援に携わる。卒業後、株式会社公文教育研究会(KUMON)に入社し、子どもの学習指導や学習教室のコンサルティング業務に従事。東日本大震災後、チャンス・フォー・チルドレンを設立し、代表理事に就任(2014年に内閣総理大臣の認定を受け、公益社団法人化)。全国子どもの貧困・教育支援団体協議会幹事を兼務。共著「東日本大震災被災地・子ども教育白書2015」。

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